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『THE MATCH2022』今更語りたいの最終幕

私個人の好き嫌いや勝手な見解、偏った意見などが盛り沢山になってしまっているかもしれませんが、いちファンの意見として興味が湧いたなどで読んで頂けると幸いです。また、選手名など敬称を略させて頂きますのでご容赦ください。

天心武尊を語るにあたり

この前の2つの記事ではTHE MATCH2022のアンダーカードについてあれこれ書かせていただいた次第だが、やはりこのメインカードがなんだかんだで1番楽しみという方がほとんどで、今大会、そしてここ10年間の立ち技格闘技の集大成という試合であったのは間違いない。
勝ち負けという部分が最も重要な要素の1つで、絶対的にこだわらなければいけないのが勝負事の必然であるが、その勝ち負けを超えた部分が天心武尊の試合には存在したと私は考える。この試合が転けるか否かでこれまでの格闘技界、そして今後の格闘技界が肯定されるのか否定されるのか、大袈裟かもしれないがそれくらいのことが賭かっていたはずだ。
そして、最も重要な勝ち負けの部分。これは言わずもがなだが、”K1”と”RISE”という2大看板がぶつかること、天心”キック41戦41勝無敗”と武尊”40勝1敗”という圧倒的レコードを持つ2人が戦うということ。賭けるものが大き過ぎるが故に最も重要視されるこの試合の勝ち負け。ファンが望まないはずがないと終わった後でも感じてしまう。

試合前の予想であったり、実際の試合を見た感想、この試合について私が好き勝手言いたいこと、THE MATCH2022全体としてなど様々な事を以下書かせて頂くので、読んでいただけたらなにより幸いです。

対戦までのあれこれ2015

この対戦実現においての始まりは、2015年8月1日に行われたBLADEでの天心の発言からと言っても過言ではない。参戦発表記者会見での「K1のチャンピオンの武尊選手と戦いたいです」という発言、トーナメントパーフェクト優勝後の「このトーナメントを制覇したんで、55kgは最強でいいですかね?あと一人やりたい選手がいるんですけど、K-1の武尊選手です。かかってこいよって感じですね。ここのリングで戦ってもいいなと思います。僕は全試合KOしたんで、僕のほうが上じゃないかと思っています」というマイクパフォーマンス。2015年4月に武尊がK1スーパーバンタム級トーナメントを制覇したが、決勝の大雅戦が判定までいってしまい全KOのパーフェクト優勝とならなかったことに対してのマウントとも取れる発言ではあったが、今となっては当時10代であった天心のイケイケな部分が垣間見えるマイクとなった。

この天心の武尊への度重なる対戦要求の発言はBLADE後に様々な媒体で取り上げられ、武尊やK1の会見などの質疑でも那須川天心の名前が出てくる場面が多くなった。両陣営さまざまなメディアや媒体でこの対戦についての方針、考えを述べており、那須川RISEサイドは「K-1が独占契約でなく単発か複数契約ならすぐに天心をK-1に出して武尊戦を実現させる」などとリングは問わないが、K1と契約をしK1以外のリングでの試合が制限されることだけを拒むという方針、武尊K1サイドは「K-1に参戦するのであればジムを通して交渉し、他団体には出場しない独占契約をしてもらう」というあくまで天心のK1参戦となれば対戦実現はあり得るが、独占契約という方針。これが我々ファンが目にしてきた両陣営の言い分であり、文字に起こすと尚更感じるが、やはりこの両陣営の言い分では天心サイドはやる気満々、武尊サイドは逃げているという見方をされてしまうのは必然だったのかもしれない。ここで1つ、武尊K1サイドと書かせて頂いたが、K1サイドと書くのが正しいのかもしれないというのは後の武尊の天心戦実現への言動から分かってくる。
そして同年11月、この両者の対戦が実現するのではという出来事が起こる。11月8日RISEでの那須川の年末のRIZIN参戦、そしてそこでの武尊との対戦アピール。それから2週間後の11月21日武尊のK1王座防衛戦勝利後の「僕、大晦日めっちゃ暇なのでよろしくお願いします」というマイクパフォーマンス。

更にはそのマイク後、リングサイドにいた那須川とのグローブタッチ。

これ以上ない程の対戦機運の高まりであったが、結果として大晦日RIZIN出場の切符を勝ち取ったのは武尊であり、その対戦相手は天心ではなく海外選手となった。天心は悔しさや嫉妬など様々な感情が入り混じった苦い大晦日になったに違いないが、この時点では武尊の方が世間からの知名度があるのだと認識させられたことに1番悔しさ、腹立たしさを感じたと思う。

対戦までのあれこれ2016

2016年に入ると、那須川陣営としても表立って武尊戦を熱望し続けることで自分達がしたと思われても癪だと感じたのか、本当に興味がなくなったのか、「向こうがやりたいというならやってやる」というスタンスになり、対戦実現に暗雲が立ち込める形となる。
そんな中、那須川天心RIZIN出場が発表され、ファンの間では武尊とのRIZINでの対戦がまたも期待されるが、公式発表は無いもののRIZINからK1の文字は消え、事実上の協力関係解消となったのは見え見えとなり、「K1が武尊を那須川から守っている」「武尊が逃げている」という声が圧倒的に増える結果となった。

対戦までのあれこれ2017

2017年は天心武尊の対戦実現の遠さを感じさせられる1年となった。
6月18日のK1での武尊vsブバイサ•パスハエフの試合にて、魔裟斗氏の解説「あとはこうなったら、僕は那須川天心との試合が見たいなあ」という発言が丸々カットされた試合動画をK1が公式YouTubeにアップし、天心武尊の名前を同時に出すことがタブーであることが明らかに公になった試合であった。
また、高田延彦氏のTwitterでの天心武尊戦についての軽々しい発言やAbemaTVでの天心NGワード設定問題など、色々なところで天心武尊の名前が並ぶ事はタブーであるとハッキリと分かる出来事が多い1年となった。
そんな2017年であったが、またもや年末大晦日、この年は天心がRIZIN KICKワンナイトトーナメントに出場。ここで優勝した天心は「自分は世界最強を目指してるので全世界最強トーナメントをキックボクシングでやってほしいです!みなさん、僕と誰との試合が見たいですか?」と観客に問いかける。ほとんど、いや声を上げた全ての観客から「武尊」の声が上がり、それを受けて「この歓声の声が答えだと思いますので、来年中にやりましょう!」とマイクでアピール。タブーの状況が浮き彫りになった2017年において、フジテレビでの生中継でのマイクパフォーマンス、そして直接的に名前を出さず観客に言わせるという頭の良いというかズル賢いというか、裏技的な方法でのアピールとなったが、ファンとしては興奮しないわけのないパフォーマンスであった。生中継というカットできない状況での発言、そしてファンの声を使うことで直接言っていないという状況を生み出し、ファン自身が興奮状態で声にすることでより一層天心武尊の試合が見たいとファンに思わせる。この時のマイクについて天心は、RIZIN CONFESSIONS#8にて「やっと言わなきゃな。生中継だし、盛り上げるために。当たり障りないように(笑)」と語っている。大晦日地上波生中継という大舞台での試合直後にそんな風に考え、あの考え抜かれた繊細な発言とあの堂々とした態度。10代の選手がやり切ったと考えると、那須川天心の選手としての実力以上に人間としての強さに恐ろしさを感じた。高田氏の軽々しく無責任な、しかもSNS上での発言という立場も何も考えず発言する大人と、考えられない程の期待と重圧を受けながらも頭をフル回転させ発言にも気を遣い、試合実現に向けて必死な10代の選手本人との器の違いを感じた。

このRIZINキックトーナメントでの天心のマイクは期待と興奮を生むものであったことは間違いないが、このトーナメント1回戦の天心の対戦相手選考でプチ事件が起こっていた。天心の対戦相手プロアマ問わず立候補制というなんとも興行側の投げやりな感じもあったが、そこには当時K1スーパーフェザー級王者の大雅が立候補していた。大雅は2018年3月K’festaにて武尊を挑戦者として迎え撃つタイトルマッチが決定していた。現役K1王者がK1以外のリングに立つことを独占契約であるK1が容認するはずがない。まして次戦が決まっているのにも関わらずだ。これが大きな物議を醸し、大雅の3度目の武尊戦は幻となりタイトル剥奪、更にはトライハードジム所属の松倉信太郎や安保瑠輝也らの決定していた試合も中止となった。この件についてはトライハードジム代表代行のHIROYAは会見にて「トライハードジムはK-1ジムでもないので、 K-1に出場する際はワンマッチ契約だと考えていた」と発言。裏でどのようなゴタゴタがあったのかは我々は分からないが、私個人的にこの会見で印象に残り嬉しいというかその言葉を聞けて安心となった場面があった。それは質疑応答で天心と武尊がタブーであるが故に起こり得てしまった出来事なのかという質問に「武尊は僕も同い年で知り合いなんですが、凄い気持ちの強い選手で、ほんとうに素晴らしい選手だと思います。そして武尊が「天心とやりたくない」なんて言う人間じゃないってことを僕は知ってるんですよ。絶対に武尊がやりたくないから壁を作ってるというのは、絶対にない」というHIROYAの発言。これを聞き私は、両陣営の試合条件や契約の折り合いがついた時にこの試合は実現すると感じた。選手本人の意思がやりたいという方向に向いているのであるから。しかし、このトライハードジムとK1の一連の出来事は、武尊自身はやりたいがK1がやりたくないのだとK1批判をするファンも一定数増やす結果となった。

対戦までのあれこれ2018

2018年は実質的に天心武尊が動き出した時であったのではないかと私は考える。これは、武尊の試合後のマイクに変化を感じたからである。
3月21日、K1スーパーフェザー級トーナメント優勝後の「僕とやりたいと言っている選手たくさんいますけど、やりたいならK-1上がって来てください。僕は逃げも隠れもしないんで。立ち技最強を決めるのはK-1です」。

12月8日、皇治とのタイトルマッチ勝利後の「やっぱり団体の壁とか色々あるんですけど、正直わかってますよ。正直、実現するのは滅茶苦茶難しいことなんですよ。わかってますよ。全く実現できない状況でそのことを発言したら、ファンの人たちのことを裏切ることになってしまうんで、僕は中途半端なことは口にしたくないんですよ。格闘技界を背負う、変えるとずっと言っているんで、時期はわからないですけど、僕は必ず実現させようと思っているんで。そして実現させるだけじゃなくて、僕は勝つ気でいます。そして、ずっと僕が言っている、K-1最高、K-1最強を僕が証明する」。

これら以外にも様々なメディアや媒体、SNS、その他公の場で、武尊は具体的な名前こそ出さないものの、長い間沈黙を続けてきた那須川天心との対戦に言及しているであろう発言をした1年となった。
この皇治戦後の同月22日に発売された格闘技雑誌Fight&Life vol.70にて天心と武尊のインタビューがそれぞれ掲載された。天心は「僕はいつでもやってやるというスタンスでいたのに、ようやく向こうからやるって言ってきたんだな、と。3年前からお互いに立場的にだいぶ変わったと思います。向こうも身体が大きくなってレベルも上がっていると思いますね。来年2019年3月10日に大田区総合体育館で優勝賞金1千万円を懸けたRISE WORLD SERIES -58kg世界トーナメント1回戦が行われるので、そこで待ってます」。RISEで待っているというこの発言から、天心自身が感じている自分と武尊の現時点での立ち位置や知名度の差を感じることができるが、RISEの舞台でというのは実現の可能性が0に等しいため、あまり実現に向けてはポジティブな発言とは思えなかった。一方武尊は「(皇治戦に)絶対に勝って言おうと決めていた。以前は実現するための糸口も何も見えなくて、それを色んな人に相談してどうにかちょこっとだけ糸口が見えてきた。見えてきたということはその責任を果たせる可能性も見えてくるということで、だからこそ発言したわけですから」。このような立ち位置や知名度などを除いたフラットで実現の可能性が少しでも高まるような、そして高まっているのだとファンが感じられるようなコメントを天心にもして欲しいという思いが私の中でこの頃から芽生え始めていた。
皇治戦を受けての天心のコメントはメイウェザー戦後にあるのだが、そのコメントに関してはこれ以降に記載している。
そして一方の天心の2018年はというと、強豪選手やビッグネームとの怒涛の試合ラッシュであり、「格闘家とは」というようなことを体現する1年となっていた気がする。2月スアキム戦、5月中村優作戦、6月ロッタン戦、9月堀口恭二戦、11月内藤大樹戦、そして12月メイウェザー戦という並べてみると改めて物凄いことをやってのけていたのだなと感じる。当時の天心は若干19歳もしくは20歳。現在の自分よりも若いという事実に驚きや悔しさ、虚無感など様々な感情が湧いてくる。

そんな天心の1年の戦いにおいて、対武尊として、武尊を絡めた視点で見た時に印象に残ったのはやはりロッタン戦とメイウェザー戦だろう。ロッタン戦に関しては、ファイトスタイル視点で印象に残った方が大半であろう。私個人的な見解としては、生中継を見た限り、本戦は圧力とミドルのクリーンヒットでロッタンがポイントで上回り、あの判定コールの瞬間は「那須川天心にプロ初黒星がつく瞬間」が遂に来てしまったかと思った唯一の場面であった。延長は天心のパンチがロッタンの頭を跳ね上げるなどの印象で天心勝利は妥当であった。しかし、後々何度もあの試合を見返すと、本戦延長ともに天心のダメージに繋がる有効的なクリーンヒットの数が多くあの判定は妥当なものだったと考える。

武尊とロッタンとではK1選手とムエタイ選手、スタイルが似て非なるものであり、パンチであっても蹴りであっても距離やバリエーション、威力など様々な要素において違うはずだ。そんなことを踏まえても、武尊ならロッタンと同等の、あるいは更に凄まじい圧力で天心を追い詰め捕えきってしまうのでは。天心が圧力に対して弱い部分を見せたことに加えて、武尊の心の強さや圧力、パンチの当て感などに、天心に初黒星をつけることができるのは武尊なのではと期待を持ったファンは多くいたはずだ。また、武尊とロッタンの直接対決を見たいというファンは物凄い数いるはずだが、その対戦に関してはこの記事では言及は控えたい。
そして、もう1つ。天心の初のKO負けとなるメイウェザー戦に関してだが、これは当人も後に語ることとなるが、武尊の知名度を天心が抜いたのではないかという分岐点の試合であった。武尊としては物凄い悔しさもあっただろうし、多くの心無いファンの声が届いていたに違いない。私としては、年明け後のバラエティ番組か何かで武尊が「天心メイウェザーの見た感想は?」と聞かれ、「大晦日は富士山登山をしていて見てないんです」と答えた場面が何故か私のツボをくすぐったのを覚えている。
初めて見る天心のプロキャリア中の負けの姿は今でも忘れられないほどの衝撃と悲しさ、残酷さを感じたが、試合後の周りの反応としては「メイウェザーだからしょうがない」。これを「天心ならワンチャンあるんじゃないか」と言っていた格闘技ミハー勢や解説席にいた芸能人、まあ誰とは言わないが、そういう方々には今更何を言っているんだと思うばかりであった。メイウェザーについてしっかりと知っている一般の方やボクサー、格闘家、解説に座って唯一的確にメイウェザーの凄さや偉大さを語っていたGACKTをはじめとする有識な芸能人などは当たり前にメイウェザーに勝てる訳がないと感じていたはずであろうから、そういう方々は私と同じ思いが多少なりともあったと思う。
そしてもう1つの反応として「エキシビジョンだからまだ無敗」。これは正しいことであり、私としても天心vsメイウェザーはあくまでエキシビジョン。試合前からそういう認識であっただけに、KOという結末は予想しておらず、リング上のマイクではメイウェザーは長い演説、天心は武尊の皇治戦のマイクへのアンサーがあると考えていた。私は天心の武尊へのコメントがあの大晦日の日に聞けなかったことが残念で、「メイウェザー何やってくれているんだ」と思ったことを覚えている。

しかし、翌年に公開されたメイウェザー戦の裏側を語るRIZIN CONFESSIONS#32にて天心は皇治戦の武尊のマイクを受けて「『それ』をやるんだったら東京ドームしかないですよね。自分の願望的に東京ドームでやりたいですね。じゃないとやりたくないかなっていう。形だけで言ってるのか、本当に言ってるのか、まだわからない状況なんで。自分は別に、受けて立ちますけどね。ドームを抑えろ!」とコメント。これに対して武尊は「形だけって。そんな中途半端な言葉ファンの前で発しない。相手を責めたり貶してても実現しないから実現させる為の言葉を贈りますよ。東京ドームで会いましょう」とファンの心を揺さぶるコメントをTwitter上に残してくれた。

対戦までのあれこれ2019

2019年は、武尊にとっては苦しい1年となり、それは翌年まで続くこととなる。ヨーキッサダー戦で負った右拳の怪我。復帰戦となった村越戦での微妙な判定。この試合は対天心として見た時には最悪の試合となってしまったと考える。まず、明らかなサウスポー不得意を晒し、左ストレートやアッパーをもらう場面が多々あった。村越の攻撃は当然素晴らしかったが、村越の攻撃の数段上のスピード、パワー、キレ、タイミングを持ち合わせているサウスポーの天心。言うまでもなく武尊にとっては天心は最悪の相性の相手なのではないかと考えるファンは多かったはずで私もその1人だ。村越戦後のマイクで天心戦実現を訴えるが、なんとも言えない感じになっていた。

一方の天心は、昨年に引き続き、RISE WORLD SERIES -58kg世界トーナメントとRIZINの舞台で強豪外国人とK1選手以外の強豪日本人と戦い、強さを追い求めるに相応しい試合が続いた。その中でも大晦日の江幡塁戦は圧巻という言葉しか思い浮かばないほどの勝ち方で怖さを感じたのを覚えている。この試合の直前に、天心は浅倉カンナと付き合っているにも関わらずグラビアの方とそういう写真が世に出てしまい世間を賑わせ、試合にも支障があるのではないかと考えていたが、「逆に起爆剤となったのか、流石ですね」と皮肉を言いたくなるような試合であった。しかし、格闘技の絶対的実力社会ということを再認識させられ、更に格闘技を好きにさせてくれた試合とも私は感じている。

この年、武尊に対してのマイクやコメントで印象に残っているのはRISE WORLD SERIES -58kg世界トーナメントで発せられた2つであると考える。1つはRISEの会見にて記者からの「ファンが見たいカードがあって、その選手は他団体にいますが、もしやればKOする確率は何パーセントですか?」という間接的な武尊についての質問の回答。これに天心は「やるやらないというか、やれないんじゃないですか。ハイ」。武尊もすぐにTwitterにて「やれない。か 当初からそのやれない状況だったのを ずっと変えようとやってきて でも自由な発言をすることで その秩序が崩れて問題が起きたりもっと溝が深くなっていくから 何言われても黙って 実現に向けて自分が出来ることと、 今自分がやるべきことをやってきた。どう伝わってるか分からないけど。ここからは俺が一番やりたいこと。来年日本でオリンピックが開催される歴史的な年にオリンピックよりも注目される格闘技の大会を開催する。そこで試合を実現させる。その為にはもっと格闘技を知ってもらわないといけないし他にも問題がたくさんあるから。誰に何言われようが自分が信じることを頑張るよ」と反応。この一連の間接的なやりとりには天心と武尊の器の違いというのか、なんとも言い表しづらいものに違いを感じ、武尊の勝利が見たいと明確に武尊を応援している自分がいた。もう1つの天心の発言は9月16日の志朗戦後のマイク「最後に一つだけ、武尊選手、K-1の陣営に言いたいことがあります。僕は格闘技界を盛り上げるため、人生賭けて戦ってきたつもりです。時間は止まっていないですし、やりたい未来がまだまだたくさんあります。皆さんの声に応えるのが選手たちだと思いませんか?WORLD SERIESのように強い選手を集めて戦うのが本当の興行なんじゃないですか? 僕は逃げも隠れもしないです。SNSで書き込んだりするんだったら、さっさと正式な話をください。俺は待ってます」である。このマイクには、少し前から取っている天心の『受ける』という姿勢が顕著になっており、私の頭にはクエスチョンマークが浮かぶばかりだった。

志朗戦直後に行われた武尊vs村越発表のK1公式記者会見にて格闘技ニュースサイトBoutreview記者の井原芳徳氏が会見前にTwitterにて用意した天心に関する質疑内容を公開。これを受け、伊原氏はK-1関連の記者会見を出禁、当該ツイートを削除し、サイト上に謝罪文を掲載することとなるプチ事件があった。当会見で天心に関する質疑がないまま終わろうとしていた中、武尊自身が終了直前に口を開き、初めてはっきりと公の場で那須川天心の名前を出したこと、そしてその後K1中村Pが那須川天心や団体についてコメントをしたことで、武尊本人にはそこまでバッシングなどは来なかったはずだが、ファンや天心サイドに不信感を抱かせることとなったのは間違えないだろう。

対戦までのあれこれ2020

2020年からは全世界どんな業界においても新型コロナウイルスに悩まされることとなる。格闘技界も勿論影響を受けるのだが、やはり武尊の2020年唯一の公式試合となり、武尊が苦悩を吐露する場面を出さざるを得なくなったK’FESTA.3が印象的である。有観客で強行開催したことで世間から猛烈な批判が起こり、大会のメインイベント出場となる武尊にも批判が届く中での試合後の「こんな状況で、色々言われるけど、格闘技でたくさんの人にパワーを与えたいです。今日言うなって言われたんですけど、やっぱり、こういう時こそ…、格闘技でパワーを与えられると思うので、団体関係なく、格闘技で世界にパワーを与えたいんで、たくさんの方の応援あってだと思いますけど、必ずデカい大会をやります。その時はK-1とか関係なく応援してください。それに向けて頑張ります」というマイク。K1主催者からの言論統制があることが明らかになってしまったことはK1にとってはマイナスであったが、武尊の天心戦実現への熱意のこもった涙ながらのマイクは絶対的に多くの人の心を揺らし共感を得るものであった。

武尊のファンも見たくなかったであろうし、武尊自身もファンに見せたくないであろう姿を見せることとなってしまった武尊だが、2020年大晦日にはRIZINの会場に姿を見せ会場を沸かすこととなる。そして何より、K1サイドがRIZIN来場を許可した事が明かされ、K1や武尊に対する不信感が一掃され、バッシングをしてきた心無い人は圧倒的に減った事が素直に天心武尊が実現することを願う私としてはとても嬉しかった。

天心の試合を初めて生観戦することとなった武尊、そしてリング上から武尊を初めて見下ろす形となる天心。「今日会場に武尊選手、来てくれてありうがとうございます。何にも決まってないけど、格闘技盛り上げましょう!」と天心はマイクで締めくくり、退場する際に武尊と握手して短く言葉をかわす一連の場面は天心武尊物語の心震える1ページとなった。

対戦までのあれこれ2021

凍りついていたキックボクシング団体の壁の溶解の兆しが明らかに見え始めた2020年だったが、ここで大事なことは天心武尊の直接対決の前までに両選手とも1試合とも落とすことができないということ。ここまでの両者の戦績を見れば大丈夫と感じる方は多くいたはずだが、やはりプレッシャーや責任、期待という見えないモノは凄まじ勝ったはずだ。そんな今まで以上に負けられない道のりとなったわけだが、まずは武尊。
K’FESTA.4 DAY.2にてレオナ•レタスと対戦。この試合は2020年11月に決定していたが武尊の怪我で流れ、2021年1月に開催予定であったK’FESTA.4 にて再決定していたがコロナの影響で大会中止。3度目の正直での試合実現となったが、レオナの強さはキックボクシングファンであるなら知らない方はいないはずだ。私的も「もしかしたらレオナが勝つのではないか」とファンとして武尊の試合観戦で最も怖さと緊張感があった試合であった。
まだ、レオナにとっては「やっと掴み取った試合」。「やっと武尊を引き摺り出せた」。このような思いは強いはずで、その上2020年大晦日に起きた武尊RIZIN来場は、先に試合が決定しているレオナとしては癇に触るものがあったに違いない。
そして、大晦日のお返しとばかりに天心がK1来場。2015年ボンジョバーニ戦以来6年ぶりの武尊の試合生観戦となった天心。この天心来場を予想していたファンは多かったはずだが、勿論会場は最高潮に湧いた瞬間だった。

そんな天心来場の瞬間がこの大会の最高潮の盛り上がりに達したと感じた私だったが、それは武尊にもK1にも失礼であることを武尊とレオナに試合内容で証明されることとなる。これ以上ない撃ち合い、そして武尊のKO勝利とその後のバク宙パフォーマンス。カリスマでありスーパースターである所以を見せつける武尊劇場は圧巻であった。

2020年のK’FESTA と2021年のK’FESTA、K1年間最大のイベントをKO勝利で締め括った訳だが、武尊のマイクパフォーマンスや試合後の表情など全てにおいて、武尊が苦しみ抜いてやってきた事が肯定されようとしてきているような感じがした。

対して天心は志朗、鈴木真彦と再戦が続き、大晦日のRIZIN最終戦では五味隆典とエキシビジョン、天心には珍しくダウン奪取シーンを見ることのない1年となる。
そんな2021年だが、2021年クリスマスイブ、「遂に」なのか「やっと」なのか「本当に」なのか様々な枕詞が付くようなファン待望の瞬間が訪れることとなる。『那須川天心vs武尊』正式決定。2021年12月24日は一生忘れることのないほどの衝撃と嬉しさを感じることのできた1日であり、どれほど翌年が楽しみになったことか。本当に実現して良かった。

そして、昨年に引き続き大晦日のRIZINに武尊が来場し、会場を沸かせることとなる。試合が正式決定している中でのリング上でのマイクは天心が印象的で強い言葉を残していた。「僕から始めた物語なので、僕が終わらせたいと思います」。期待するなという方が無理なほど強烈な言葉に私は感じた。

両者の直接対決が決定したハッピーな年となった訳だが、実は2021年6月13日には対戦予定だった事や対戦消滅という勝手な報道、2022年4月のRISE興行を最後に天心のボクシング転向が発表されるなど、武尊の怪我や日程的な問題で天心vs武尊は幻の一戦になってしまうのではという匂いがしてしまう出来事も多々あった1年でもあったことは、今思うと天心武尊の試合を盛り上げるための必然で起こったモノだったのではないかと思えてくる。

対戦までのあれこれ2022

対戦が正式決定していることもあり、ここまで来ると時が来るのを待つのみであった2022年6月19日までであったが、それまでに武尊は2月に軍司泰斗とエキシビジョン、天心は4月に風音とRISEラストマッチが控えていた。
武尊の軍司戦に関しては、体の絞りや表情など一挙一等則から気合と覚悟を感じたが、内容としてはパンチの被弾が多く硬さが見られ不安視する声が多く上がった。しかし、私としてはいつも通りのエキシビジョンの武尊が見れて何か安心していた。

天心の風音戦に関しては、試合発表前に対戦相手候補として天心の口からはロッタンの名前が上がりファンは興奮を覚えたが、蓋を開けてみたら実際は53キロトーナメント優勝の風音。悪口とかでは決してないが、私としては何故だろうと思ってしまうマッチメイク。風音のスタイルは手数で押し切るもので、1発の破壊力や倒せる必殺技などが如何せん感じられず、圧倒的な技術とスピードを持つ天心に勝つ姿の想像ができないというのが正直な感想であった。天心と同じジムで練習を行い、ジムの会長でもあり天心の実父でもある那須川弘幸氏を師匠と仰ぐ風音との試合であったことから、この試合のテーマとして「史上最大の親子喧嘩」を掲げた天心。風音サイドのセコンドに父を付かせ、自分と反対側のコーナーに相手として実父を置くことで試合をやる意味を自ら見出しファンが見たいと思うような試合にしようとしていた訳だが、その発言や行動は流石トッププロだと感じた。
私と同じ考えを抱き試合を見たファンは多くいたと思うが、実際の試合は全く想像するものと違う展開となった。天心の顔面を跳ね上げるパンチをヒットさせ、手数でも負けていない風音。この試合に賭けて努力してきた事、そして那須川会長が息子である天心に本気で負けを味わわせにきていたことで天心vs風音は勝負論のある試合となった。私的には延長戦突入が妥当と感じたが、武尊戦を控えた天心に万が一にでも黒星が付くような事があれば盛り上がりに欠けること間違い無かったため、本戦判定勝ちでも私的にはまぁ納得である。この試合を見て、魔裟斗氏や皇治など色んな方が発言していたことだが、「武尊戦前に風音戦があって良かった。やはり持っている」。今思えば、この試合があったことも含め、プロキックボクシングでは天心は負けない運命であったのかなと感じてしまう。

[第15試合]那須川天心vs武尊

試合前予想は天心の判定勝利。

この試合に関しては、正式決定する以前から「お金を賭けるなら天心。勝って欲しいのは武尊」と私はずっと言っていた。天心がポイントアウトで判定勝ち。無難で大方の予想と同様の考えで面白みに欠ける予想であるが、これが素直な予想だ。ファイトスタイルの噛み合わせとして武尊のサウスポーとの相性の悪さ、そしてスピードの差がこのような予想に至った大きな要素である。
だが、「武尊なら」という期待を抱いていたのも事実。この期待には勿論これまでの武尊の試合で見てきた選手としての実力、あるいはいわゆる「持っている」という不思議な主人公ゆえの力。様々な要素があるが、やはり「武尊に勝って欲しい」という僕の願いから来ていた期待だったのかもしれない。武尊勝利を願うのには、単純に武尊が好きなのか、これまでの試合決定まで両者の言動を見てなのか、自分でもどの辺りからこのような思いになっていたのか明確ではないが、1つ絶対に外せない理由がある。それは、「共感できるか否か」。公式レコード0敗の天心、1敗の武尊。ここの差が、私の中で共感できるのは武尊になる。公式戦で1度も負けを知らない天心のことを、ほぼ全ての人が「1度の失敗もした事がない」と捉えられるだろう。逆に、プロ6戦目で負けを経験した上でそれ以降連勝を続ける武尊のことは、「挫折をバネにして頑張った」などと捉えるだろう。失敗があるか無いか、格闘技では負けがあるか無いか。どちらに共感でき、素直に頑張って欲しいと思えるだろうか。そんな人間の心理が私に武尊勝利を願わせたのは間違えない。
逆に天心勝利を願うファンには、無敗レコード継続がどこまで続くのかを見たいという方もいたと思う。記録やレコードはただの数字という考えの方もいるだろうが、私としては記録やレコードは変えることの出来ない絶対的な指標であると考えがある。そんな絶対的な指標だが、様々な見方ができ、その見方の違いで全く別の感情が生まれる不思議な数字でもあるからこそ、格闘技には勿論必要で大事なもので、醍醐味でもある。
さて、ここまでは試合の詳細な正式ルールが分かるまでの予想であったが、ここからはルール込みで考える予想だ。3分3R延長1Rマストジャッジシステム、5ジャッジシステム、ワンキャッチワンアタック有り、契約体重に関しては、前日計量58kg•当日計量62kg•当日計量時間は試合開始3時間前、使用グローブはWinning製•6oz、オープンスコアリングシステムが主なルールであった。
このルールに関しては、「天心ルール」「天心有利」という声が大多数の感想であったと思うが、この声は契約体重とワンキャッチワンアタックのルールから上がった声だと思う。私もこの2点に関して思うところはあったが、ほとんどの方と意見が被るもののはずなのでここでは言及は避けさせて頂く。
私としてはこの2点と同じくらいにグローブの大きさに関して引っ掛かりがあったので考えを書きたいと思う。「グローブが小さい方が危険性が増す」というのが一般的で、破壊力で上回る武尊にとってはプラスの要素になると考える方もいたはずだ。でが、グローブが小さきくなればなるほど天心有利になっていくというのが私の考えだ。「小さくなれば」よりも「軽くなれば」という表現の方が正しくわかりやすいだろう。圧倒的なスピードを武器とする天心にとってはパンチスピードがさらに上がり、武尊にパンチが当てやすくなるだろう。勿論武尊のパンチスピードも上がるだろうが、目の良さも特徴で攻撃をもらわないスタイルの天心を捉えることができるのか。やはり天心に大きくプラスな要素のルールだと私は考えていた。天心がポイントアウトの判定勝ちという予想をしていた私だが、この6ozグローブ使用のルールを知った時には、スピードに慣れない1Rで切れ味の増した天心のパンチによって斬って落とされてしまうのではないかという嫌なイメージが浮かんでしまったのが正直なところだ。
ルールの事や試合前の勝手な予想、妄想はいい加減ここまでにして、試合前日から試合終了までの起こった事実に感じたことを書かせて頂く。
まず6月18日の試合前日計量日。武尊ファンにとってはこの計量も緊張の一瞬だったはずだ。どんな表情で出てくるのか、どこまで身体のハリがあるのか。減量からくるダメージや体調の良し悪しなどは陣営と本人にしか分からない事がほとんどである事は重々承知している事だが、やはり計量の姿がファンにとっては安心材料となるのか、不安材料となるのか大事な部分で、格闘技観戦をする上で醍醐味的な要素の1つである。私個人的な見解ではあるが、天心はいつも通りの身体の仕上がりといつも以上に気合の入った表情、武尊はいつもよりひと回りサイズダウンが否めないがハリが失われておらず流石の仕上がりの身体といつもと変わらぬ凛々しい表情。さすがはトップ中のトッププロ選手。ここまでの選手に計量の姿を心配してしまう方が失礼であるなと、何もいうことのない計量であった。


2022年6月19日。「遂にこの日が来てしまった」というキャッチコピーがここまでしっくりくる日があっただろうか。「世紀の一戦」というキャッチコピーがここまでしっくりく流スポーツの試合があっただろうか。私が今まで過ごしてきた21年間では最も当てはまった日であり、試合であったことは間違いない。
56399人を動員した東京ドーム。ここ数年のコロナ禍により満員の会場での格闘技イベントが少なかったこともあり、「これが格闘技だよな」と改めて〝格闘技の持つ力〟を再認識できる観客動員具合と歓声の大きさであった。この盛り上がりの中、大会は進みメインイベントまできた訳だが、この両者の対戦を熱望していたファンは煽りVや入場シーンから込み上げてくるものがあったはずだ。私もそんなファンの内の1人であるが、そんな多くのファンよりも、関係者よりも、誰よりもこの対戦を熱望していたであろう当人たちはどんな気持ちだったのであろうか。

まずは煽りV。この映像が流れ出した時は、本当にやるのだなと実感した初めての瞬間だったのかもしれない。煽りVの中で使われていた「格闘技とは、敗者を決めるための残酷な決闘である」というフレーズ。約10年間1度も負けが無い両者の対戦、そしてマストジャッジで必ず勝敗の付くルールであるからこそ、このフレーズがピッタリな試合でありインパクトが大きく感じるが、格闘技の本質とはそこなのかもしれないと考えさせられるフレーズであった。このフレーズの重さを誰よりも知っているのは誰なのか。負けを知らない天心なのか、1度負けを味わったことのある武尊なのか。その答えは試合の結果やマイクでの言葉、言動など、どんなことでも導き出せない答えであるからこそ価値があり意味のあるフレーズだというのが私の考えだ。

そして、格闘技のパフォーマンス、見せ場の1つとして大事な入場シーン。様々な方が語っているようにここでは対照的な両者であり、この試合の象徴的なシーンの1つでもあった気がする。
先に武尊の入場。「いつもの表情じゃなく硬かった」「ずっと下を向いたまま」という多くの意見があったが、私も同意見だ。武尊のいつもの入場シーンを一言で表すなら〝威風堂々〟。私個人的に鮮明に頭に残っている入場シーンは、レオナ•ペタス戦、皇治戦、ワン•ジュングワン戦といったところだ。あの殺気立ち見開かれた目には見ているものを引き込む力、常にリングを真っ直ぐに見る視線には勝利しか考えていないという競技者としての当然の渇望、気合いの雄叫びには武尊自身の覚悟を感じられ、入場シーン1つとっても〝格闘家武尊〟がどれほど魅力のある選手が分かる。だからこそ、今回の殺気立ちきっていない目と俯きながらの入場はいつもの武尊を知っているファンの目には違うように映ってしまったのだろう。そんな中でもトップロープを跨いでの気合い注入の雄叫びにはいつもの武尊を感じられ、スイッチオンした瞬間だったのかなと思った。

対して、天心の今回の入場は圧巻であった。いつもは、本当にこれから試合することが楽しみでしかないというのが見ている方にも分かるほど生き生きとした自然体な入場だ。時に皇治戦のように怒りの感情やメイウェザー戦のような感情的すぎる入場もあったことは事実だが。THE MATCH最後の入場という重圧や緊張など感じさせないほど集中し切ったもので、ゴンドラで姿を見せた時の天心にいつもの武尊が見せる威風堂々な姿が重なっていた。ゴンドラを降り歩き出した時にはいつもの自然体の入場に切り替わり、最後の入場というプレッシャーや大きすぎる期待などに飲み込まれるどころか、逆に我々見ている側が見入り過ぎ飲み込まれてしまっているような入場であった。

両者の入場シーンは対照的だった訳だが、私が感じた共通点、そしてこの両者の入場シーンで最も脳裏に焼き付いたシーンがある。それはリングイン直前での大歓声を浴びた瞬間であった。武尊はトップロープを跨ぎながら両手を大きく広げ天を見上げながら、天心はロープを背に自らの耳に手を当て煽る形で。

ここまで長い年月がかけられ実現したこの試合だが、その間には心無い誹謗中傷が浴びせられることも、悔しい思いや歯痒い思いをせざるを得ない状況も多々あったはずだ。そして、我々の想像を遥かに超えた当人しか感じる事ができないであろう重圧に耐え続けてきたはずである。その抱えてきたネガティブ要素全てが、両選手がやってきたこと全てが、試合直前ではあるが報われた瞬間であったのかなと思えてならなかった。そしてそれがファンとして何よりも嬉しくグッと込み上げてきたことを今でも鮮明に覚えている。
長年の紆余曲折を経て、大会関係者は煽りやプロモーションなど盛り上げきり、両選手は最大限にやれることはやり尽くし、ファンは待てる限界まで待った。運命の試合開始のゴングが鳴る直前のリング中央でのフェイスオフ。「この絵は幻で終わってしまうと思っていた」「こんな絵、合成のコラ画像でしか見れないと思っていた」。あの瞬間、私の頭の中はこんな事を考えていた。

試合内容としては、1R開始直後の武尊のベタ足。そして1発目の右ミドル。これを続ければ捕まえられる。そう思っていた。だが、続けられなかったのが事実であった。後々判明した事だが、武尊の腰や膝の怪我が影響し、右ミドルが蹴れなくなったということだ。
武尊の圧力も相当な気迫と覚悟を感じるものだったが、やはり圧巻だったのは天心。終始的確に武尊の顔面を捉え続けた右ジャブ、そして1R終了間際の天心の左ストレート。最高のタイミングで振り抜かれた左。

ダウン奪取後、ダウンしている武尊に背を向けコーナーに向かい堂々と立っている姿は、天心が、キックボクシングのキングなのか、神なのか、あるいは悪魔なのか、何かが降臨したような感じに見てとれた。そして、この試合は1Rのあの時に決したと言っても過言では無いと私は考えている。

2Rでは武尊のバッテングがあり、これで試合続行不可能となったらどうなってしまうのだろうという心配と不安がよぎった方は多かったと思うが、あの場面でしっかりとアピールでき、試合再開を自分のペースで進めようとできる天心の太々しさには脱帽である。


3Rは武尊の右膝からの左フックで明らかに天心の動きが鈍ったように見えたが、その後の回復の仕方、誤魔化し方には、また天心に技術の高さを見せつけられる。

そして、武尊がノーガードで笑顔で戦う姿は覚悟を決め特攻した最後の手段にも見えなくはないが、私の目にはあの姿になった時に負けが確定したように映ってしまった。いつもの武尊の試合中の笑顔とは違う、相手を認めるような、この選手すごいなという笑顔に見えた。
3R通してジャブを細かく当て続け試合を完全に支配し、ダウンという明確なポイント差を付けた天心の勝利は妥当で、予想の範囲内の結果だと思う。

試合終了のゴングと共に抱擁する両者、判定のコールを受けた後の両者のやりとりと涙。

天心の喜び爆発の姿と、武尊の積み上げてきたものが崩れ落ち努力が報われなかった姿。

両者の因縁に終止符が打たれ勝者と敗者の残酷すぎる対照的な姿を見る結果となったこの試合。これこそ格闘技。〝格闘技とは、敗者を決めるための残酷な決闘である〟という事だろう。

試合終了後の姿、言動は両者対照的。
武尊のリングを降りる直前のキャンバスに膝をついた土下座のような姿は印象的で、自らの格闘技で勝てなかったことをファンやジムメンバー、K1ファイター、そして自分自身に謝罪しているように見えた。また、試合直後のバックステージでの声を震わせ言葉に詰まる武尊の姿は見たくないと思うほど残酷な格闘家の負けの姿であった。負けがついてしまった武尊だが、格闘家として人として魅力のある人間であることは変わらない。号泣し方々に頭を下げながらリングを去る武尊に、「ありがとう」と声をかけるファンがあんなにもたくさんいたことがそれを証明している。このファンの言葉と想いが1番心に響いたと後日の会見で発言してくれたことが、武尊を信じてついてきたファンにとって武尊の勝利と同じか、もしかしたらそれ以上に嬉しいことだったはずだ。格闘家という仕事で試合をして当たり前の職業であるからこそ、「試合を見せてくれてありがとう」と仕事として当たり前にやっていることに感謝されたことが武尊に響き届いたのだと思う。


一方の天心は、さまざまな重圧から解放され努力が報われたのだなという姿であった。キックボクシング無敗で次のステージに進むことができ、未来の可能性が広がるばかりだろう。マイクパフォーマンスでも言いたいことを言い、リングを降りても多くの人から祝福を受ける。「格闘技は勝ったヤツが偉い」をプロデビュー以来全ての試合で体現し続けた天心。ボクシングでも無敗でこれを証明し続けてほしい。

キックボクシング史上最大最高の試合が終わって

2022年6月19日、那須川天心vs武尊。勝者那須川天心。試合が望まれ続け試合実現まで約7年の歳月を要した試合であったが、今となっては結果が出てしまった過去の試合となってしまい寂しさと物足りなさを感じる。
武尊は無期限休養、天心はボクシング転向を発表。旧K1では魔裟斗氏が引退後、ブームととして盛り上がりが物凄かった格闘技界は衰退したという過去の事例がある。今後のキックボクシング界や格闘技界は大丈夫なのか。これは誰しもが考えることで、THE MATCH以降さまざまな団体、大会で掲げられているテーマだと思う。これについてはこれからの記事で語っていきたい。ただここで1つ言いたいこととして、今後格闘技の盛り上がりが下がり天心武尊がいたことのありがたみを感じる未来になってしまうのか、あの2人と同じような、あるいは超えるほどの強い面白い選手や盛り上がりを作り上げられる選手が出てきてさらに面白い格闘技が見れる未来になるのか。全格闘技ファンは後者を望んでいることは間違いない。武尊の言葉を借りるが格闘技がブームで終わるものなのか、カルチャーになるのか。これが今後の格闘技界が答えを出さなければならない命題だろう。

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