それでも、人は本を読む… 読んできた…これからはどうなのかな…津野海太郎さんの「読書と日本人」の感想
少し前の話のですが、スタジオジブリの鈴木敏夫プロデューサーがラジオで時々紹介してて興味を持ったので、津野海太郎さんの「読書と日本人」という本を読みました。
最近は三宅香帆さんの「なぜ働いていると本が読めなくなるのか 」(集英社新書)という本が話題だそうで、似たようなテーマの本かと思います。
三宅さんの本のような(読んでないけど多分)学術的な研究成果を分かりやすく解説した新書が最近流行りですが、津野さんの本はそうではなくて、日本の読書の歴史について、津野さんが調べたことをゆっくり語っていくという形式のエッセイ。あと、文体が「ですます調」と「である調」の混合文なので、ちょっと苦手な人もいるかもです。
また述べられていることの根拠とかが明確に示されるわけではないので、気になる人は気になるかもでんな。
ただ、色々とトリビア的に面白い話をたくさん知ることが出来たと思ったので、数年前に別のSNSに投稿した記事を転載してみます。
以下、抜き書き・要約。
・「本はひとりで黙って読む。自発的に、たいていはじぶんの部屋で」という日本人の読書習慣は実は20世紀に入ってからの可能性が高い(昔の人は本を読む時、音読だったのか黙読だったのかという時点で議論がある)。これを津野さんは「20世紀型読書」と呼ぶ。
・明治初期に帝政ロシアからの亡命者レフ・メーチニコフは“日本には「仮名で書かれた庶民的な本」(やわらかい本)と「和漢混淆文で書かれた教養階級むけの本」(かたい本)があるとした。
・多くの国では新聞→雑誌→書籍の流れで国民の活字の大衆化が進む。フランス、アメリカもこの流れ。日本も。
・1926年に「円本」と呼ばれる、事前に「予約出版」による全点購入を前提とした一円均一の全集本の大流行が起こった。意外と早く流行は終わったが、大量の本が流通することで、古書店などで安く本が売られることになり、流行の終了は逆に日常的に読書する習慣の大衆規模での始まりとなった。
・日露戦争の勝利で得た樺太の森林地帯に製紙会社が工場を建て、紙が大量に生産されるようになった。これが円本が大量に出回るきっかけの一つに(鈴木Pはここをかなり強調されていたなぁ)
・事前予約と全点購入を読者に強要する円本の商業主義的な側面を批判して、ほしい本を一点一点、だれもが安い定価で自由にえらんで購入できるようにするという理想の下、1927年に岩波文庫が創設される。岩波文庫の「読書子に寄す」の「近時大量生産予約出版の流行を見る…」以下は正に円本ブームのこと!
・戦前から日雇い労働者のような大衆も図書館で結構本を読んでいたらしい。本はお金を払わないと読むことが出来ない商品だが、同時に図書館にいけば無料で読める。この矛盾した状況を許したのは出版業者の「本を読む大衆が増えないとビジネスが安定しない」という決断があったのだろうと津野さんは予想。
・関東大震災後、東京や関西の大都市圏で郊外電車の運行が始まり、郊外に引っ越してきた高学歴サラリーマンに長い通勤時間の合間に読書をする習慣が生まれた。内容の重たい「かたい本」は通勤読書には適さないので、気軽に短い時間で読み切れる「やわらかい本」へ読書習慣は移行していく。
・終戦直後の出版の激減から出版数は増え続けるが、七〇年代後半から本がしだいに売れなくなる。その減った分を埋めようと頼った雑誌やマンガも、九〇年代なかばにはその勢いを失う。結局通常の書籍の出版点数を増やすしかなく、質の良くない本の粗製濫造が始まり、悪循環に。とにかく「売れる本が良い本」という価値観の中、この流れで、これまで読書の中心が「かたい本」からとにかく売れやすい「やわらかい本」にシフトしていく。
・古くから人類は何らかの身近な自然物の平たい表面に、テキストや画像を刻んだりインキで書いたり物理的に「定着」させ、それを巻いたり綴じたりしたものを「本」としてきた。多様な本のすべてに共通して、読む者の信頼を支えてきたのが「定着」という特性。
・今後、紙の本と電子の本の共存という今まで人類が経験したことのない段階に進んでいくと思われる。
・電子書籍は「表示」するだけで定着性が無い。また、GoogleやAmazonの企業の思惑でプラットフォームすら頻繁にアップデートされ安定しない。
・津野さんはコンピュータ読書の黎明期からずっと進展を追ってきていて、本の電子化に期待も寄せていたとのこと。そしてこの企業の都合による不安定な現状に大変失望している様子…。単純な電子書籍嫌悪でなく、批判が重層的でなかなか凄みがあります
・あらゆる文化の真ん中に「紙の本」が権威を持って存在していた時代は終わりに向かっているとしつつ、身体的な体感に乏しい電子の本から、いずれ、多くの人々は紙の本に戻っていくのでは、津野さんは予想。
要約終わり。
その他、今後の読書に関する展望や、新自由主義経済的な世間の流れが出版や図書館に与える影響(主に悪影響)など面白い考察が色々ありますが、あまり書いてしまうのもどうかと思いますので、私の要約はこの辺で。
自分も何となく、「紙の本を読むことは良いことだ」と思っていましたが、今の読書スタイルが、20世紀になって出来上がった「20世紀型読書」だというのはなるほどな、と思いましたな。
また、Kindleなど便利なものが出ているけど、確かにアップグレードとかで不安定な部分があるのは残念。
ま、今後も私自身や、私の家族は電子書籍の動向を見極めつつ、紙の本をしっかり大事にしていけたらなぁ、と思っています。
最初に書いたように文体など好みがあるかもしれませんが、良ければ暇つぶしにどうぞ。この本自体はかたさもやわらかさもある本だと思います。
因みに私はKindleで読みました^_^
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