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「動物たちは何をしゃべっているのか?」
「動物たちは何をしゃべっているのか?」(山極寿一 鈴木俊貴 集英社)
ゴリラの研究者と、シジュウカラの研究者との対談による、動物の言葉の理解や、ヒトの言葉の起源、そしてAIなど現代社会批評にまで及ぶ本。そもそも一年の半分を森で過ごして、鳥を観察するというのは、並大抵のことではないと思う。
鳥の言葉に文法があって、鳴き声を順序を逆にして聞かせると適切な反応を示さない(66ページ)とか、犬の知性は類人猿よりも認知のレベルが人間に近い(80ページ)とか、他の種類の鳥との混群の中でエサを取るために「タカが来たぞ」というウソの鳴き声を出して、他の鳥が逃げたすきにエサを手に入れる(83ページ)とか、チンパンジーもオランウータンもゴリラも「高い高い」をやる(88ページ)とか、サルは鏡に映る個体が自分だとはわからないが、鏡を見て後ろにあるモノを取ることはできる(91ページ)とか、人とコミュニケーションをとりながら、エサであるハチの巣を手に入れる鳥がいる(98ページ)とか、鳥も4くらいまでの数は理解できる(116ページ)とか、エピソードとして面白い話がたくさんあった。さらには音楽と踊りなどのコミュニケーション方法、分配行動、道徳、自己犠牲など、動物の話から、人は言葉を持っているから戦争をしてしまう(154ページ)など、人間の話にもなってくる。「言葉はたくさんあるコミュニケーション手段の一つに過ぎなかった。ところが、現代社会ではその地位が極端に高くなってしまっている」(167ページ)などの指摘は、動物からの視点で人間を見るからこそ生まれるものだと思った。
「ヒトのコミュニケーションの中にはまだ言語化されていないような音楽的な要素もあって、言葉を並べるだけではそれを伝えきれない」(185ページ)はまさにその通りだと思う。さらにはTwitterが炎上する理由として、言葉で抜け落ちる情報がたくさんあることを指摘し(190ページ)、「AIに頼ることで、言語の出現によって生じた問題がさらに加速するようなことがありそう」(205ページ)などとAIにまで話が広がっている。非常にわかりやすく、広範な話題について述べていて、面白かった。