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「本を出したい」

「本を出したい」(佐藤友美 CCCメディアハウス)

ライターの著者による、本を出版することの意味や、必要なことをまとめた本。非常にわかりやすく、面白かった。いろいろな本の出版に携わったそうで、本に対する思い入れや、出版の意義が伝わってくる。

 本を出すことは大変です。時間も労力もかかります。必ずしも多くの人に読まれるとは限りません。
 それでもやはり、本を出そうと考え、企画し出版することは、他の何かとは似ていない唯一無二の体験だと、私は思います。
 なぜなら、本をつくるプロセスは「これほど、自分自身を深く知れる機会はほかにない」と感じるほど、発見の連続だからです。

 自分の人生をもとにして本を出すということは、「自分が持つコンテンツが、どう読者の価値になるか」を模索する行為です。これはそのまま「自分がどのように生き、どのように役立ってきたか」を深く見つめ直す作業とも言えます。
 自分自身や自分の思想を社会に向かって開いていく行為。
 それが、本を出す、ということです。(8-9ページ)

 このことを、ブックライターでもあり、ご自身も50冊以上の著作を持つ上阪徹さん(私の師匠です)は、以下のような言葉で表現されました。
 「自分の本を出したいではなく、読んでもらいたい、役に立ちたいという気持ちを持つ。できることなら、出版社を儲けさせたいと考えるくらい、マインド転換をしたほうがいい」
 本を出すことは自身(や自社)の利益のためと思っていた人には、耳が痛いかもしれません。しかし、上阪さんの言葉は、本づくりに関わっている人たち全員が頷く言葉だと思います。本は、書き手のためにあるわけではなく読者のためにあるのです。(28ページ)

 もちろん、ただ発信しているだけでは、著者候補としては選ばれません。
 これは私の観察ですが、ホームページやブログなどの発信で出版社から声をかけられるには3つのパターンがあるように思います。
 ①その人の文章にファンが多くついている場合
 ②問題解決のメソッドが斬新で、かつ再現性が高そうな場合
 ③その人のプロフィールが課題解決する人として最適な場合
(42ページ)

 言い換えれば、「読者のなんらかの課題を解決できる人が、本を出すことができる人」となるでしょう。
 では、どんな課題をどんな方法で解決すれば本を出せるのか。さらに一歩踏み込んで考えてみます。
 ・その課題を抱えている人がたくさんいて
 ・その解決法がこれまでなかった新しい解決法で
 ・誰でもできる再現性の高い方法
 ならば、本を出せる可能性が高まるでしょう。(55ページ)

 著者にとって大事な能力は、「読者との橋渡しができること」です。「プロの知識を素人にわかりやすく解説できること」と言えば、よりイメージしやすいでしょうか。
(中略)
 業界の中の人や、その道のプロの人にとっては「当たり前」でも、それ以外の人にとっては「当たり前ではないこと」を書いているから、売れるのです。
 著者とは、読者にとって、何が当たり前で、何が初めて知ることなのかがわかる人のことを指すのだと思います。(58-59ページ)

 そのゼミを主催していた当時の編集長が、ぽろっと、「書籍を書くときには、伝えたいことを、格言にする気持ちで書くといいですよ。100本くらい格言があったら、それを見出しにして原稿が書けます」と言いました。(62ページ)

 ここで教えてもらった「自分ならではの格言を考える」方法は、書籍の構成を考える上でもとても有効でした。ですので、その後、ライターとしてお手伝いする書籍においても(編集者さんと相談して)著者さんに格言を考えてもらっています。
 50本の格言を思いつけば、50本の見出しになります。それぞれの格言について2000字の解説をつければ、10万字の書籍になります。
 もちろん、コトはそんなに簡単には進みませんが、その著者さんならではの格言を入り口に取材をするやり方は、書籍に強い言葉をちりばめることができるので、みなさんにもおすすめです。(64ページ)

 ただ、これは多くの出版関係者が言うことですが、SNSのフォロワー数と売れる冊数は必ずしも相関しません。実際、ベストセラー著者の中にも、SNSのフォロワーが少ない人や、そもそもSNSをやっていない人は結構います。
 これにはいくつか理由があるようにおもいます。たとえば、
 ・画像や動画中心のSNSのフォロワーと書籍を買う人は、タイプが違う
 ・SNSのフォロワーはその人のファンとは限らない
 ・無料で提供されているものを、お金を出してまで買おうと思う人がいない
 ・SNSの短い文章で知りたいテーマと、10万字の書籍で知りたいテーマは違う。
 などでしょうか。(68-69ページ)

 ですから心配することなく、大いに発信してよいとも思います。発信すると身に染みてわかりますが、無料で提供するにもかかわらず自分の文章を読んでもらうのは難しいものです。ただ、それでもくじけず発信を続けると、自分の課題が見えてきます。
 たとえば、
 ・本にするほどメソッドがない。ブログ5本で言いたいことが終わってしまった
 ・「あなたのやり方ではできない」と言われてしまう。再現性がないのかもしれない
 ・対面や動画では伝えられるけれど文章では自分のメソッドが伝えられない。本向きの課題解決ではないかもしれない
 ・読者がつかない。自分の言葉は人に響かないのかもしれない
 ・読者がつかない。この課題を解決したい人がいないのかもしれない
 などです。
 このような課題が見つかったら、「いいね」が多い似た業種の人のブログを読んでみましょう。よく読まれている同職種(想定ライバル)のブログには、きっと、あなたができていない工夫がたくさんちりばめられていると思います。
 たとえば、
 ・タイトルが強い。ついクリックしてしまう格言になっている
 ・多くの人の悩みについて解説している
 ・解決法が「私でもできそう」と思える
 ・上から目線で偉そうに書いていない
 などに気づくかもしれません。こういった工夫を取り入れて、また書きます。そもそも無料で読んでもらえないものを、有料で買ってもらえるはずがありません。ここは、歯を食いしばって頑張るところです。(72-73ページ)

 プロフィールはとても重要です。企画採用の決め手になる最重要要素のひとつです。ただ経歴をつらつら書くのではなく、「なぜ自分がこの内容を書く資格があるのか」と「自分がこのことを書くにふさわしい著者である」を書くのがポイントです。(98ページ)

 企画の要点とは、読んでその名の通りです。この本の企画の骨子を100~150文字程度でまとめます。ポイントは、この本を読み終わった読者は何を得ることができるのかを明確にすることです。(102-103ページ)

 想定読者は、その名の通り、この本を(タダなら読んでくれる、ではなく)2000円払ってでも読んでくれる読者層を指します。
 ポイントは、30代の忙しい女性とか、60代の定年直前の男性といった漠然とした読者像ではなく、お金を出してでも解決したい課題がある読者の顔を明確にイメージすることです。(104ページ)

 このように、「その人が持っているコンテンツの中で、最もオリジナリティがあり、読者が多い」が、その人の本業ど真ん中ではないこともありえます。
 そして自分が持っているコンテンツの魅力を、自分は知らないこともまたよくあるのです。(116ページ)

 実は、「類書がない」というのは、良いことばかりではありません。これまでそのジャンルの本がつくられてきていないのは、そこに需要がないと判断された可能性が高いからです。出版社で企画を通すときにも「類書がない=市場がない」とみなされるので、企画を通すのは断然難しくなります。必ず「そこに読者はいるのか?」と聞かれるので、説得材料を複数用意する必要があります。(127ページ)

 以前、ある編集者さんが「知的好奇心を満たすための本は、悩みを解決する本の10分の1しか読者がいない」と言い、隣にいた編集者さんが「いや、100分の1でしょ」と言っていたのを覚えています。(132ページ)

 さて、みなさんがこれから書こうとしている書籍のジャンルは、今、プロダクト・ライフサイクルのどの時点にあるでしょうか。
 導入期、成長期、成熟期、衰退期、それぞれの時期ごとに、読者の課題は変わることを意識しながら企画をつくると、採用率が変わります。(138ページ)

 何が言いたいかというと、企画が通るかどうかは、それくらい持ち込んだ編集者さんとの相性によるということです。読者ファーストが大前提とは言え、最初に口説かなくてはならないのは、たった一人の編集者です。
 そのとき興味を持っているテーマや、その編集部で進行している別の企画など、こちらからはあずかり知らないことが原因で、企画が通ったり通らなかったりすることもままあります。
 それくらい、出版というのは"水物"だと感じます。ですから、一度のトライで諦めずにいろんな人に話を聞いてもらうのがよいと思います。(144ページ)

 2割の編集者がヒット本の8割をつくっている。(147ページ)

 書籍の仕事に携わるようになって知ったのは、「本は、編集者のもの」ということです。もちろん、本のコンテンツを持っているのは著者です。でも、どんなテーマにするのか。書店のどの棚を狙うか。どの読者層に届けたいか。タイトルはどうするか。装丁はどうするか。どのように売っていくか。そこには、編集者の思想が色濃くにじみます。(148ページ)

 本をつくっている間、著者は普段とは違う時空の中にいます。
 本を書くことは、自分の何十年分の思考を棚卸しして、高速で別の棚に出し入れすることに近い。かと思えば、涙がこぼれて地面に落ちるまでのわずかな瞬間を、何時間も見つめながら書くこともあります。
 時間が収縮し、増幅する。(159ページ)

 私は、本を出すとは、気体だった思考を固体にしてそれ以上変化しない形に固定する行為だと思っています。とくに紙の本は、本というひとつのパッケージに物理的に固体化するわけですからその側面が強い。ウェブの記事と違うのは、広告が入らないこと。読ませたい順番を提示できること。そして、まとまった分量。
 読者と本の間を邪魔するものが何もない。自分が望んだフォントで、自分が選んだ図版を添え、自分が決めた順番に並ぶ文章。本は、完全なる固体です。(162-163ページ)

 書くという行為は、考える行為です。「考えたことを書く」のではなく、「書くから考えることができる」のです。だから、本を出すときには必ず発見がつきまといます。(164ページ)

 本を出すことは、費用対効果だけで言うとまったくおすすめできません。ほとんどの場合、本業ほどは儲かりません。
 それでも、一度本を出した人は、また出したいと思う人が多い。私も、です。それはきっと、本づくりの過程で得られる自分の成長が、他のどの体験でもできない類の成長だからだと感じます。(166-167ページ)

 しかし、先に伝えたように、本を書く行為は「書く前には知らなかったことを書く」という行為です。1行目を書こうとパソコンの前に座ったときすでに知っていることは、その本のスタートラインでしかありません。その先は「本を書き始めたからこそ初めて知ること」を書くのです。これは、ChatGPTにはできません。
 余談ですが、そう考えると、重要なのは「集中」ではなく「拡散」だとわかります。集約したりまとめたりする仕事はいずれAIの仕事になります。(168ページ)

 もうひとつ、この事前の打合せで重要なことがあります。この編集者さんとの初対面のときの打ち合わせを、なんとしてでも「音声録音」しておいてほしいのです。
 というのも、この「初対面の顔合わせ」のときが、書籍の根幹となる一番大事な話を熱く語っているケースが多いからです。(178ページ)

 編集者さんに聞くと、著者が「自分で書く」と言って書けずにお流れになるケースは相当多いようです。(197ページ)

 私だけではなく、書籍ライターの人がよく使っているアプリケーションが、「Scrivener 3」という執筆に特化した文章執筆ツールです。もともとはシナリオや論文を書くために開発されたアプリのようです。少々高いのですが、これを導入してから、シールをプリントアウトして入れ替えする作業が、オンライン上でできるようになり、とても重宝しています。

自分で書く場合のテクニック①インタビューしてもらう
自分で書く場合のテクニック②しゃべったり、書いたりを発信
自分で書く場合のテクニック③単発原稿を納品し続ける
(226-228ページ)

 章や節の最初にエピソード(具体的な例)を配置すると、その先の総論や抽象論が読みやすくなります。この手法をエピソードファーストと言います。(241ページ)

 と、ここまで読者を離脱させないことについて書いてきて、全部ひっくり返すようですが、離脱させないわかりやすい文章だけが良い文章かというと、必ずしもそうとは言えません。本づくりの「ゴール」は、あくまで「読者の何かが変わること」であって、「文章が読みやすいこと」ではないからです。(259ページ)

 著者の手を離れた本は、著者が思ってもいなかった場所で、人の人生に影響を与えることがあります。そして、本に影響を受けたその人が、次に誰かの人生に影響を与えていきます。自分の本を必要としてくれる人たちの手に届くようにするためには、何をすれば良いのか。この章では、販促活動と、本を出したあとも続く著者と読者の人生について書きます。(265ページ)

 そのときはあまりよくわかっていなかったのですが、この「本が出ましたと知り合いに案内する」は、最もプリミティブだけど、最も重要な販促行動であることを、のちに知りました。
 というのも、本は発売日前後1ヵ月が最初の勝負どきだからです。(271ページ)

 ある編集者さんは、「書店の1冊は、販促の側面だけでいうとAmazonの10冊分の効果がある」と言い切りました。もちろん、このあたりは人によって、出版社によっても考え方が違う部分もあると思います。本のジャンルによっても、リアル書店で売れやすい本とネット書店で売れやすい本があります。(275ページ)

 編集者やライターが集まると、「売れて人相がよくなった著者、悪くなった著者」の話題がよく出ます。最初のうちはその話がよくわからなかったのですが、言われてみると、たしかに本を出して人相が変わる人は結構いるなと思い当たりました。
 人相がよくなる場合は、本が認められたことによる自信が顔つきにあらわれる感じです。本が売れると、できることが増え、会いたい人に会えるようになったりします。そこで得た刺激を本業に活かしたり、次の書籍に活かしたりして、良い循環が回るようになります。そういう人の人相はたしかにいいような気もします。
 人相が悪くなるタイプは、どんなタイプでしょうか。先輩に聞いたら、損得が顔に出るようになったら良くない兆しと言われました。私は人相のことはわからないけれど、最初は「自分の知っていることを人に伝えたい」だったのが、「本って、儲かる。なるべく楽に儲けたい」に変わったときは文章がにごると感じます。(285-286ページ)

 本を出したあとは、自分のこれまでの人生に対する通知表をもらっているような気持ちになることがあります。いや、実際、これまでの生き方が突きつけられているのかもしれません。(287ページ)

 「本を出したいけれど、何から始めればよいのでしょうか?」
 その質問に対して、ミリオンセラーを世に出した編集者の方は、いつもこう答えるそうです。
 「本業を頑張りましょう」
 この業界にこの人ありと言われるくらい本業が認められたら、自然と出版社から声がかかるようになると、その方は言います。
 また、別のミリオンセラーを手がけた編集者さんは、
 「本を出したいなら、本を出したいと思うのをやめなさい」
 と、言いました。禅問答のようですが、今、ここまでこの本を読んでくださったみなさんには、この言葉の真意が刺さるのではないでしょうか。(291ページ)

 これは私見ですが、本を出したあとにその先が続かない人と、その後も何冊も本を出したり、別の場でさらに大きく花を咲かせる人の間には、決定的な違いがあると思います。
 それは、「世界をもっとよくしたい」の気持ちの強度です。
 本の中にその想いをしっかりこめられた人は、ネタ切れしたり枯渇したりしません。たとえその先、本を出すという選択肢をとらなかったとしても、世界をよくする方法を探し続けます。(292ページ)

 書籍とは、著者と読者との共同作業で完成するのだと思うのです。

 本は、著者が書くものです。
 しかし、完成した本は読者のものです。
 読者を得た本は、百人百様に溶かされます。
 そして、読者がその本について語り書くことで、新しい物語ができます。
 その物語は、読者の周りの人に影響を与えていく。
 そして、あなた自身にも、影響を与える。

 すべては、あなたが本を書こうとしたから起こる化学反応です。
 起点は、あなたです。その起点になる覚悟は、できましたか。(299ページ)

 この本を書きながら生まれた新たな問いがいくつかありました。たとえばそのうちの一番大きな問いは、「本を出す行為を人生に盛り込むことは、その人の人生にどのような意味をもたらすのか」でした。
 本を出すことは他の何と似ていて、何と違うのか。自分の思考を表出させる手段として、なぜ本でなくてはいけないのか。日記ではダメなのか。なぜここまで時間がかかる手段を選ぶのか。
 私は、それを考えたい。(301ページ)

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