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「異次元緩和の罪と罰」

「異次元緩和の罪と罰」(山本謙三 講談社現代新書)

元日銀理事の著者による、異次元緩和の問題点や現在の日銀の苦境をわかりやすく書いた本。異次元緩和によって日銀が大量に国債を買い入れ、それによって金利を抑え経済を活性化させるための政策だったが、「意外にも、異次元緩和の前後で、実質GDP成長率はほぼ横ばいである。」(27ページ)とあるように効果はほとんどなく、「日銀が保有する国債残高は約590兆円に上り、普通国債の発行残高の56%に達する(24年3月末時点)。」とあるように日銀が国債を大量に保有する状況が続いている。金利が上がると国債の価格が下がり、わずかな金利上昇で日銀が債務超過に陥る可能性がでてきている。また異次元緩和の過程で日銀はETFの買い入れも行い、「24年3月末時点での日銀の日本株式保有額(ETF)は約74兆円(時価)」(6ページ)となっていて、株価の下落によっても債務超過の恐れがある。「性急に出口戦略を進めれば、金利の急騰や大幅な円高を招く恐れがある」(10ページ)として、2024年8月初めに起きた円相場の急騰と株価の急落について指摘している。「日銀が市場の急変におびえ、今後、金融正常化への歩みを遅らせるようであれば、「永遠の金融緩和」のリスクが一段と高まる。」(12ページ)と述べている。諸外国が金利を上げている中で金融緩和を続けていれば円安になるのはある意味で当然であり、金利を上げようとすると日銀が赤字になって破綻してしまうとなれば、正常化のために打つ手がほとんどないように思われる。

物価上昇率の「目標数値「2%」にそこまで強い根拠があるわけではない」(83ページ)や、「望ましい物価上昇率は基本的に0%程度」(ボルカー回顧録)(98ページ)など、意外で面白いと思う指摘もあった。なぜ異次元緩和の過程で立ち止まれなかったか、また中央銀行のあるべき姿とはについての議論もあった。いろいろな場面で書いた文章をまとめた本のようで、読んでいてやや重複する部分もあったが、日銀が非常に困った状況になっていることがよくわかる本である。

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