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「学校に行きたくない君へ」
「学校に行きたくない君へ」(全国不登校新聞社 ポプラ社)
不登校を経験した子ども若者編集部の聞き手による、著名人20名のインタビューをまとめた本。その聞き手の人への人生相談的な内容も含まれていて、普通のインタビュー記事とは違う面白さがあった。不登校新聞という組織があるそうだ。
荒木飛呂彦
マンガって、ネタに困るよりも描く気力がなくなることのほうがよっぽど怖いんです。「なんだか今日は描きたくないな」という気持ち、これが一番怖い。それが何カ月も続くとスランプになります。
「やらなきゃ」と思えば思うほど、どんどん描けなくなってしまう。そういうときにあえて散歩に出かけるとか、描く気力をなくさないための気をつけ方というのは人それぞれだと思いますが、なによりも大切なことは「好奇心」をなくさないことだと私は思います。(33ページ)
柴田元幸
ムカつかないです。小さいころから、世界は筋が通らない場所だと思っていたから。それと、自分は世界に求められていない、という思いもずっとあった。僕が育った町では勉強ができても全然えらくなくて、ケンカが強くなきゃダメ。友だちどうしでチーム分けをすると、かならず最後まで選ばれない。それがデフォルトでした。
僕が翻訳を始めたのは35歳のころですが、いまだに僕がやっている仕事で誰かが喜んでくれるというのは、すごく新鮮でうれしいことです。世界に対する期待が低いと、幸福を感じるのもわりとかんたんなのかもしれません。(39-40ページ)
リリー・フランキー
自尊心を持っていることが、ひきこもる原因をつくるんだけど、その自尊心と戦ったときに外に出て行くきっかけをつかむんじゃないか、と思うんです。(中略)
本当に頭に来るのは、自分のことより、自分が美しいと思っているものが汚されたときなんです。自分のことなんかじゃない。プライドというのは自分のことだから。自分のために戦うと消耗するんだけど、美意識の部分ではやらなきゃいけないときがあるんです。(53ページ)
雨宮処凛
---最後に親の方へのメッセージをお願いします。
私自身も「無条件の生存の肯定」という言葉で楽になれたので、自分への期待値と子どもへの期待値を最底辺にしておくといいと思います。そこまでハードルを下げれば、生きてるだけでオッケーだと思えるはずです。(68ページ)
不登校経験者
---親の立場の方に伝えたいことはありますか?
親の言葉は子どもにとってはすごく大きいんです。私はとくに、母や同居していた祖父母の言葉でつらくなることが多かったです。一番イヤだったのは「ふつうにしなさい」でした。ほかにも「ほかの子は行けてるのになんで行けないんだ」「この先どうするの」「あなたのためを思って言っているのよ」などでしょうか。きつかった言葉は今でも覚えていますね。
(中略)
なるべく、本人を否定しないような言葉をかけてあげてほしいと思います。(71ページ)
田口トモロヲ
だから、誤解を生む言い方ですし、言っちゃいけないことかもしれませんが、僕は「死んでもいいじゃない」と思えて救われたんです。それまで本当に地獄だった。学校にも家にも居場所がなくてつらくて、死にたかったけど、その勇気もなかった。映画を見て、生きていること自体が地獄にいることなんだと思ったら楽になれた。ざっくり言えば、いまの状況や自分自身に対して、あきらめて受け入れることができたんです。
あきらめると言うと、ネガティブに聞こえますが、肯定することと同じ勇気だと思うんです。(88-89ページ)
---それでも私は生きづらさから解放される気がしないのですが。
経験的に言えるのは、自分のハードルを下げたらいいと思うんです。
本当の自分を見つけたい、自分らしくありたい、やりたいことをやっていきたい、自然体でいたい、幸せになりたい......、そういうものはまとめて捨てたほうがいいです。まず、「自分」なんてどこにもないし、僕は一度も「自分」なんてなかった気がします。幸せになりたいというのも、他人と比較するから不幸や幸福を感じるものだと思います。(91ページ)
横尾忠則
その絵に価値があるかどうかは第三者が決めることで、作者はそこには存在しない。展覧会に並んでいるのは過去の作品で、アトリエで描いている絵が「いま」という瞬間なんだ。たったいまという瞬間が一番大事。「いま」という瞬間に、自分がどれだけ充足しているか。(97ページ)
玄侑宗久
人は「変わらない」ことを大事にしすぎているんじゃないでしょうか。何かを経験すれば「人生とはこういうものだ」と確信を持とうとする。揺らがない、ブレない。それがアカンのです。頑丈そうに見えて免震構造がない。
現実は、つねに新しい局面を迎えていきます。「いま」を見て、感じて、合わせていく。そのためにはいったん揺らがないといけません。「揺らいでいい」という自覚を持つことが「無常という力」です。世の中は無常であるし、私も無常なんです。
仏教では昔から「揺らぐ」ことを「風流」と呼びました。揺らぐことが自然だと思っていれば、あるいは植物のようにあれほど変化していいと思えれば、もっと楽になれるんじゃないでしょうか。(111ページ)
---最後に不登校、ひきこもりの人へのメッセージをお願いします。
仏教に「五蘊盛苦」という言葉が出てきます。五蘊盛苦とは、心や体が盛んであるために苦しいという意味です。
夏は草木がうっそうと茂っています。冬に比べると、とても活発なように見えますが、じつは日が差しにくく風通しもよくない。心や体が盛んに動いていると、まわりからはすごく充実したように見えますが、じつは苦しんでいることもよくあります。
盛んになることよりも、この心と体をうまいこと使いこなしていくほうが大事なんです。うまく乗りこなすには時間がかかります。でも、だんだんとうまく乗りこなせるようになれば気持ちがいい。みなさんは、そのあいだのちょっと苦しい状況にいる、ということなんだと思います。
それと、すごく悩んでいるときは「ここは考えないでおこう」という決断も重要です。しばらく問題を漬けておく。考えつめればいい結論が出ると思うのは甘いんです。坊さんの世界では「しばらく潤かしましょうか」なんて言っています。(118-119ページ)
宮本亜門
親の方には申し訳ないのですが、すぐに答えは求めないでほしいんです。本人は疲れはて、どうしたらいいのかわからないはずです。苦しいんです。本人が一番、自分で自分を否定し続けているのですから。
だから親の方には、わが子がみんなと同じようにできないからと言って否定しないでほしい。ほかの子とわが子を比べないで、その子だけの個性を大切に見てあげてほしいんです。(129ページ)
高山みなみ
不安よりも自分がおもしろいと思えること、楽しいと思えること、そっちに力を注いでほしいなと思うんです。そういう前に進もうという気持ちがあれば、不安には負けない力になると思うんです。
大人になると時間が進むのがすごく早いですからね(笑)。みなさんの、いまという時間を大切にしてほしいです。思い立ったらなんでも行動しちゃって、たくさんの経験をしてほしい。そのなかで自分がどういうことならば、本当に心から楽しめるのか、それを探してもらえればと思っています。(156ページ)
辻村深月
「読書が現実逃避になったんだね」と言われたこともありますが、そう言われると違和感があるんです。私にとって読書は現実逃避ではありません。人生の拠り所、もっとも大事な支柱でした。(159ページ)
押井守
いろいろやって「この程度の人間だな」とわかることは失望じゃない。むしろラクになる。僕も「凡庸な映画監督なんだ」ってわかったら、とたんに映画をつくるのがラクちんになった。いまはすごく自在感がある。自分の正体が見えたからなんだ。たぶんキミは、当たり前のことだけど、自分の正体がまだわからないんだと思う。(186ページ)
内田樹
子どもが親に望んでいるのは愛情よりもむしろ敬意だと僕は思います。敬意を「距離」と言い換えてもいい。親が子どもを「未知なるもの」と認めて、少し遠い距離から、まぶしげに見つめるというような扱いのほうが子どもとしてはたぶん居心地がいいんです。(209ページ)