「成熟スイッチ」
「成熟スイッチ」(林真理子 講談社現代新書)
作家であり日本大学理事長である著者による、ある種の人生論の本。この辺のネット記事を見て、何か生きるヒントが得られるかと思って読んでみたが、(当然だが)全く違う世界の方のお話だなと思った。
きゃりーぱみゅぱみゅやピコ太郎のコスプレの写真が載っていたのも、かなり衝撃的だった。(116ページ)
人づき合いにかぎらず、趣味やボランティアなど、本業とは別の世界を持っている人間は強いです。仕事熱心なのはいいのですが、その世界だけにどっぷりと浸かり「これが私のすべて」と重苦しい空気を放っている人は、話も面白くないですし、人間的な魅力も乏しくなってしまいます。どんな職業であっても、自分の視野を拡げていくことには常に積極的でありたいものです。(45ページ)
田辺先生はまた、
「女は六十歳からよ。六十を過ぎてから、すごく自由になってくる。体力は落ちるけど、「こんな可能性もある」「こんな考え方もある」と、視野が広がるから生きやすくなるのよ」
と教えてくださいました。この言葉のおかげで、還暦を迎えた時もどんなに心強かったことでしょう。(47ページ)
「五十歳を過ぎたら、仕事の三割はお金をもらえないことをやりなさい」と以前どなたかに言われたことがあります。それが頭の中に刷り込まれている私が五十代から力を注いでいるのが、「エンジン01文化戦略会議」の活動です。十一年間にわたり幹事長を務めています。(75-76ページ)
「支払うのは誰か」に敏感であれ
さて、今夜は面白いメンバーが揃う会食に出かけるとします。場所はなかなか予約が取れない高級日本料理店。そこで「わーい、楽しみー」と無邪気に浮かれているだけなら未熟者のそしりを免れないでしょう。成熟した大人の心得として、「支払うのは誰か」という問題に敏感であるのは当然のことです。(82-83ページ)
「人にされて嫌だと思ったことはしない」のが私の矜持です。そのために自分に課しているのが「三回ルール」というもの。その内容は基本的に「紹介された人と三回会うまでは、紹介者に報告する」ということ。四回目以降は、断りなく会って差し支えないというルールです。(94ページ)
私が何よりも気をつけているのが、揉め事やトラブルによって心の平穏を奪われないようにすること。身近なところでは、夫との諍いです。
(中略)
イやな気分から回復するには時間がかかります。人の不機嫌にいかに巻き込まれないようにするか、たとえ巻き込まれてもどうやって回避するかには細心の注意を払いたいものです。(104-106ページ)
理事長になったことに後悔はありませんが、仕事に慣れてくるほど、うわー大変、と思うことが増えていきます。目の前には壁がいっぱいあって、乗り越えなければいけない。こちらの考えている議案をなんとか通そうと、政治家みたいなことをしたり。もし、こんなに大変だと知っていたら引き受けなかったかもしれません。でもやるとなったら、人間力を試されていると思って懸命にやるしかない。背伸びなくして成長なし。この言葉を胸に真剣に働き続ける日々です。(125ページ)
私がたびたび引用する言葉、
「好きな仕事に就けるということは、人生の幸せの八割を得たということ」これは本当にその通りだと思います。仕事には「お金を得られる」と「生きがいを得られる」という二つの利点がありますが、その二つとも得られている人はほんのひと握り。私もありがたいことにその一人です。
好きな仕事に就くためにはどんな努力も惜しまない方がいい。しかし、かなわないことの方が圧倒的に多いのも事実です。
生きていくため、お金を稼ぐために仕事をするのは、呼吸をするように当たり前のこと。最近では定年後だってイヤでも働かなくてはならない人もたくさんいます。もし、自分はつまらない仕事をしているが、もう好きな仕事に転職するなどの打開策はないと確信しているのなら、仕事はお金を稼ぐ手段としてパッと割り切って考えることも、人生を面白くするためには大事なことかと思います。(128-129ページ)
本を読むと、頭がよくなるとか、思慮深い人間になると考えたことはないんです。最近の子どもたちや若い人の活字離れは深刻を通り越して絶望ですが、彼らにこんな話をすることがあります。
「いっぱい本を読んだからって、立派な大人になって、いい会社に入れるとはかぎらない。でも、本を読むと、大人になった時に一人でいることを恐れずに済む人間になれます」
若い人は一人でいることを恐れ、もっぱらスマホで「つながり」を求めますが、読書の習慣があれば、一人でもカッコよく見えるし、退屈もしません。(136ページ)
私の人生訓の一つが、
「生き残るのは大きなものでも強いものでもない。変化していくものだ」です。手を替え品を替え、いろんなジャンルの小説を書いてきました。
(中略)
さて、ジャンルを選ばず書いてきた結果、何が起こったか---。いつのまにか「書く私」という幹から「○○を書く私」が何本も枝のように生えていたのです。
(153ページ)
いいことが続くと悪いことが起こる。悪いことが続くと次はいいことがある。これらは私の物事の見方の根本にあります。時間軸で俯瞰すると、運の総決算は、いい運と悪い運でいずれはプラスマイナスゼロになると考えているのです。(157ページ)
俯瞰力は、人を謙虚にさせてくれたり、時に励ましてくれたり、物事を長い目で考えさせてくれます。自己愛は、バッシングされたり落ち込んだりした時に、たとえ根拠のない自信であっても自分を力づけてくれる。
(中略)
話を戻すと、俯瞰力と自己愛をバランスよく持っていれば、人生の苦難がちっぽけなことに見えたり、少しでも面白く乗り越えられたりすることはあると思います。(162-163ページ)
定年後にどのような生き方をするかは人それぞれですが、「いつも楽しそう」というのは自分自身はもちろん、家族や周囲の人をも幸せにしてくれる、大切な姿勢ではないでしょうか。(170ページ)
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