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「東大教授、若年性アルツハイマーになる」

「東大教授、若年性アルツハイマーになる」(若井克子 講談社)

元脳外科医で、東大教授の夫が若年性認知症になり、定年より早く退職して沖縄に移住したり、認知症の経験を講演で語ったりして、やがて寝たきりになって亡くなっていく過程を、著者である妻がまとめた本。

最初の方の、自分が認知症であることがわかってきて、それでもそれを認めようとしなかったり、それでも生活に支障が出てきて、自分で漢字を何回も書く練習をした手帳が出てきたりしたところは、さぞ苦しかったことだろうと思った。ただ、「認知症になったら人生は終わり」とか「認知症を『恥ずかしい病』と考える」のではなく、「病は人生の一過程にすぎない。たまたまそれが脳の病気だっただけだ。」(10ページ)と受け止めて、一緒に生きてきた著者は素晴らしいと思った。また二人ともクリスチャンで、それが縁で結婚をしたこともあり、宗教が心の支えになっていることがよくわかった。

700名近くの修道女を検査し、脳を研究した「Aging with Grace」(「100歳の美しい脳」藤井留美訳 DHC)では、亡くなるまで認知症を発症させずにいることは可能で、そのためには生活習慣が大事であること(89ページ)。

病もまた、神様から与えられたもの。目的があり、試練として与えられたのだから、正直に受け止めて、生きていけるように(95ページ)。

「Who will I be when I die?」(「私は誰になっていくの?アルツハイマー病者からみた世界」クリエイツかもがわ)(111ページ)。

「老いゆけよ、我と共に!最善はこれからだ。人生の最後、そのために最初も造られたのだ。我らの時は聖手の中にあり。神言い給う。全てを私が計画した。青年はただその半ばを示すのみ。神に委ねよ。全てを見よ。しかして恐れるな!」と。(ラビ・ベン・エズラより)(122ページ)

人々の中に行き           Go to the people
人々の中に住み           Live among them
人々を愛し             Love them
人々から学びなさい         Learn from them
人々が知っていることから始め    Start with what they know
人々が持っているものの上に築くのだ Build on what they have
社会教育運動家として知られた中国人・晏陽初(イエンヤンチュウ)の詩「Go to the people」の一節です(134ページ)。

「アルツハイマー病になると人格が変わる」と、言われるようです。でも私には、<ちょっとちがう>という実感がありました。確かに晋には、空間認知や記憶の面で支障が出ています。そのせいで、できないことが増えたのは、ここまで長々と書いてきたとおり。しかしそれは、生活の「技術」の問題にすぎないのではないか?支障が出て困るから、人柄が変わったように見える、そういうことではないでしょうか。だから、人間性が壊れるわけではないと思うのです。むしろ、かえって深まるものもあるのではないか---。たとえば晋の場合は、正義感、優しさ、謙虚さ。そして進行も深まったように、私は感じていました(153ページ)。

「人の価値についてどう思いますか」と、こんな質問が。とっさには答えにくい問いですが、晋は動じるふうもなく、こう応じたのです。
「人生で一番大切なことは何か、ということが分からない人、分かる人、いろいろあると思うんです。その中で一人一人が自分の生き様に合わせて絶えず歩み続ける。そういう中で私も生きてゆきたい。これからも、この後も生きていきたいなと思います。」(154ページ)

質問者 「アルツハイマーとはどんどん余分なものが取り払われて本当の自分になっていく」とおっしゃっていたけれど、その感じはいかがですか。
晋 今まで自分が何かいいことをしたとか、そういうものが私たちではないんじゃないかと思うんです。大切なことは私たちが本当の自分と出会うことじゃないかと。自分が自分になって他の人と一緒に歩んでいけるというところが大切なんじゃないかと思いますね。(156-157ページ)

ナチス政権下でユダヤ人として収容所生活を経験したフランクルは、苦悩について次のように書いていました。
苦悩を志向し、有意味に苦悩することができるのは、何かのため、誰かのために苦悩するときだけなのです。(中略)意味に満ちた苦悩とは、「何々のための」苦悩なのです。私たちは苦悩を受容することによって、苦悩を志向するだけではなく苦悩を通り抜けて、苦悩と同一ではない何かを志向するのです。(160ページ)

それは「ダメ三原則」というもので
怒らない
ダメと言わない
押しつけない
認知症の人と接するときは、この3つを原則とせよ、というものです。(166ページ)

講習会も最終日となる3日目、高橋先生は聖書講義のなかで結婚についてお話しされた。神様は、信じる者の結婚を、どんな時も、いかなる時も、誠実をもって支えて下さる。人間の誠実が変わることはあっても、神様の誠実は変わらない。それゆえに神様の誠実を信頼して結婚するのである。そんな趣旨だった。(190-191ページ)

晋はリビングウィルに、「恩師から学んだこと」として、こう書いてある。
生きることは死することであり、死することは生きることである
もし人間がこの世の歩みで終わるなら、病気はただの不幸にすぎない。けれども、生命を与え、とり給う神様が私たちの歩みをご覧になっている。愛をもって支えていてくださる。であれば私たちは、それに応えて、たとえどんな状況におかれても、一生懸命生きる価値があるのではないだろうか。(234-245ページ)

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