「遠慮のない批評」で綴られたソニー経営史研究のバイブル 〜『S社の秘密』 田口憲一 著 (新潮社 1962)
「ソニー技術の秘密」にまつわる話 (37)
1962 (昭和37)年10月に発売された書籍『S社の秘密』 は、おそらく最初のソニー経営史研究本で、その後ソニーについて語られる多くの関連書籍の「参考文献」には、必ずというほどリストされている本でもあります。
著者は、産業経済新聞の論説委員を務めた、経営評論家の 田口憲一(たぐち けんいち)。
あとがきに自身で書かれているように、「遠慮のない批評」でやや辛口な印象を受けますが、とてもニュートラルな視線でソニーの販売面での分析や、その組織体制や労務対策といった経営分析評論をされており、とてもわかりやすく読みやすい内容になっています。
外国からの直訳経営学に挑戦し、自分の頭脳だけで発展して来た日本の代表的な新企業を例に、現代の経営思想と戦略を画く!
『S社の秘密』オビより
と、ありますが、『S社の秘密』では経営分析評論にとどまらず、ソニーの歴史とそのフロンティア精神の起源を辿る物語として、井深大、盛田昭夫のルーツを紹介し、ソニー誕生前後の出来事など非常に事細かに記述され、その時代背景にも深く触れることもできます。
“ 私は過去においても、現在においても、ソニーとは何んの関係もない者である。この仕事を引き受けるまで、ソニーのソの字も考えてなかった。それが却ってよかったような気がする。だから本書を書き終えた今、私は静かにソニーと訣別するだろう。
なお書中一切の敬語をはぶき、またかなり遠慮のない批評をしたことを恕して頂きたい。本書が結果において、ソニーの宣伝になろうが営業妨害になろうが、それは私の知らぬことである。”
『S社の秘密』あとがきより
経営評論家が分析するソニーの経営史『S社の秘密』、
盛田昭夫 (経営者側) から見たソニーの歴史を振り返る『学歴無用論』、
木原信敏 (技術者側) から見たソニーの技術史『ソニー技術の秘密』、
後に多くの関連書籍が発刊され、現在においても多くの場面で語られる世界的大企業となったソニーという会社の礎を、同じ時代に生きた、それぞれ立場の異なる視点から書き記されたこの3冊の書籍から読み始めることで、現在の私たちに必要な新しい発見があるかもしれません。
“ ソニーの先輩は世界の至るところにいる。だから自信過剰に陥らず、お山の大将にならず、ソニーは今後もソニー自身の "意見 (フィロソフィー)" でやって行けば、或はさらに大きな未来が待っているかもしれない。それは神のみが知ることだが、しかし、今迄の業績だけでも、記録され研究され学ばれるに値する会社であることは確かだ。
それは結局、自分の頭で考え、考えたところをガンコに実行してきたからに外ならぬ。今日から見れば、ソニーは、直訳経営学への挑戦者だったのである。”
『S社の秘密』終章 直訳経営学への挑戦より
今となっては、この本でしか見られないような写真も多数含まれ、ソニー創業期を知る最適な一冊であり、非常に充実した内容の貴重な史料であるといえます。
文:黒川 (FieldArchive)
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?