#17 マニア・利用者・鉄道会社の視点
この記事では架空鉄道の多様な視点を提案するとともに、架空鉄道の作成に踏み切れなかったり、作りながら迷いを持っていたりする人に、架空鉄道の面白さ、奥深さを提供できたらと思っています。
そして、現実の鉄道に「疲れてしまっている」人にも読んで欲しいです。
なおこの記事では、現実の鉄道会社の路線・ダイヤを改変したものも架空鉄道として扱っています。
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鉄道の是非を検討する際には3つの視点があり、それらのうち2つを組み合わせた視点もまた3つあるのではないかと思っています。さらに最後には、3つの視点全てを組み合わせた視点も考えていきます。
3つの視点とは、
①鉄道マニアの視点
②鉄道利用者の視点
③鉄道会社の視点
です。
関係性の視点は、
④鉄道マニアと鉄道利用者の視点
⑤鉄道利用者と鉄道会社の視点
⑥鉄道マニアと鉄道会社の視点
⑦鉄道マニア、鉄道利用者、鉄道会社の視点
です。
架空鉄道は、おおよそこの7つの視点から作られると考えています。
以下では各視点の解説を行っていきます。
①鉄道マニアの視点
欲望のままに、こんな車両があったらいいな、こんな路線があったらいいなというものを作ります。採算や利用客といった現実味は度外視です。架空という、趣味の世界だからこそできる技であり、架空鉄道の魅力が一番感じられます。また架空鉄道を作る人のほとんどが鉄道マニアのはずですから、誰しもこの視点を持つはずです。後述する④との違いとして、利用することを念頭に置いていないという点が挙げられます。
相鉄・東急新横浜線でメトロ車や東武車を相鉄線まで乗り入れる妄想をしたり、小田急小田原線の快速急行を全区間で通過運転させるダイヤを考えるといった感じです。
②鉄道利用者の視点
多くの架空鉄道作者は鉄道を利用しているはずなので、①と同様誰しもがもつ視点となります。利用することを想定して一番便利なダイヤを考えるというのが考えられます。そのためこの視点で架空鉄道を作る場合は、現実の鉄道路線や路線図の改変に終始することが多いと思われます。後述する④との違いは、利便性だけを考えた架空鉄道という点です。
新横浜線開業によって少なくなった横浜直通や、二俣川〜横浜ノンストップの急行の廃止を不便と感じた利用者が、「これが相鉄ユーザーの理想」と称して時刻表や停車駅表を作るとしたらこれにあたります。私だったらいっそ、海老名発の日中ダイヤを横浜行き×6本、JR直通の分岐駅を新横浜に変更した上で新横浜線×6本にしてしまうかもしれません。
③鉄道会社の視点
架空鉄道作者には社章や乗務員の制服、規則を作る人がいます。リアルなホームページを作成したり、全くの架空路線の運行情報を出したりする人もいます。つまり、鉄道を運営する気持ちを架空鉄道で味わうというものです。
これについては例示するよりも、Xで「架空鉄道 制服」と検索した方が早いかと思います。
④鉄道マニアと鉄道利用者の視点
趣味的にも面白いし、利用するにも便利。そんな架空鉄道を目指す視点です。おそらく全架空鉄道の中で一番多いパターンではないでしょうか。
特に、停車駅の少ない速達列車を設定する架空鉄道はこれにあたります。
速達列車は主要駅間を通して利用する場合停車駅が少ない方が所要時間が短く出来るため便利であり、鉄道マニアは概して旅行好きで長距離を移動することが多く、もしくは停車駅が少ないことそれ自体に浪漫(=伝統)を感じる人もいるため、マニア・利用者両方の視点といえます。
⑤鉄道利用者と鉄道会社の視点
⑤と⑥、そして⑦は、鉄道会社とその鉄道を利用する者や、趣味の対象とする者との関係性の視点になります。概して鉄道会社の思惑や都合が反映された車両や列車、ダイヤを、利用者目線、マニア目線で妄想していくことになります(これに関しては、「利用者のことを考えて」、「マニア的にこうあってほしいから」という視点を鉄道会社が汲んで、サービスとして提供するとも取れるので、どちらが先かは言えませんね)。
なお現実の鉄道会社の思惑を架空鉄道作者が作り上げることは困難なため、基本的に架空の鉄道会社、もしくは土地も架空のものとなります。
さて⑤ですが、通勤ライナーや観光特急は、通勤客、観光客といった利用者を想定した架空鉄道と言えそうです。一方優等列車の千鳥停車は複雑さを見せるためマニア的ですが、沿線人口や流動を考えた結果の産物であれば利用者的と言っていいでしょう。
またダイヤを作る際、運用の都合上主要駅の手前で折り返さないといけない場合に、接続列車を用意してあげるという利用者目線の配慮もこれにあたるでしょう。
⑥鉄道マニアと鉄道会社の視点
沿線人口とかは考えないこととして、走っていたら面白そうという鉄道路線・列車を会社ごと考えていくものになります。有料特急に対する有料急行や無料速達列車(例:旧東武本線系統の快速)、列車愛称や特急車両のロゴなどが考えられます。マニア的に面白い多層建列車や珍運用を、利便性度外視で考える場合もこれに該当します。
⑦鉄道マニア、鉄道利用者、鉄道会社の視点
作者としてのマニア的願望を鉄道会社が汲んでくれて、かつ利用者のためを思って作る架空鉄道です。言うなれば鉄道の理想郷です。
身もふたもないことを言ってしまいますが、架空鉄道をこだわっていくと必然的に⑦に収斂していきます。現実の改変を伴わない架空鉄道、つまりは架空鉄道会社を考えるものに限定していえば一番多いパターンと言えそうです。
⑤で挙げた通勤ライナーや観光特急はマニア的に見て面白い場合がほとんどのため、マニア的視点が入っている可能性が高いです。多層建列車を考える時も、複数の観光地に股をかける路線にしたり、そもそも土地を架空にして需要のある場所を点在させることで、利用者がついてくるような動機づけを後から行うことがあります。
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さて、これまで紹介した架空鉄道の7つの視点ですが、最後にこの視点で考えた場合における大きな魅力を伝えておきます。
それは、③、⑤、⑥、⑦で見たように、鉄道会社を理想の形で考えられるという点です。
現実の鉄道は、少子化や人手不足、それに伴う輸送の効率化、車両の老朽化など、鉄道マニアにとっては逆風を起こしやすい存在です。ネット上では鉄道会社を嫌いなのではないかと思うような鉄道マニアが多くいらっしゃいます。批評的な見方や建設的な意見など、私も読んでてハッとさせられるものが多い一方、趣味をしていて消耗するというのはもったいない気もします。
架空鉄道は倫理的である限り(=人に迷惑をかけない限り)自由なものです。最大のデメリットは乗れないこと、撮れないことですが、そこを妥協しても余りある楽しさを提供してくれます。1ミリでも鉄道趣味の楽しさの助けになるのであれば、やる価値は大いにあるのではないでしょうか。
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普段はXで架空鉄道、架空地図、その他鉄道やバスなどの投稿をしています。