#8 情報
鉄道の面白さの一つに「情報」があると思っています。
同じ車両を見るでも、その車両が新しいのか古いのかとか、編成数が少なくて珍しいとか、行き先が珍しいとか。
ここで、車両のかっこよさというビジュアル面と、その車両に含まれる情報面、どちらに惹かれるかという問題を提起します。
20代前後の鉄道マニアからしたら、例えば485系や185系に対してかっこいいと思うその感情は、485系や185系のビジュアル面にかっこいいと思う以外に、国鉄型車両という情報を含んでいるから想起されるとは言えないでしょうか。
架空鉄道はビジュアルの趣味か、はたまた情報の趣味か。
車両を作成することはビジュアルです。路線図や停車駅表もビジュアルです。
なぜなら、路線図や停車駅表の本質は路線を示す線と駅を示す丸、そして路線名、駅名、(種別名)、注釈だけだからです。
しかし多くの架空鉄道作者の路線図や停車駅表は、現実にもありそうなデザイン性を伴ったものになっています。
それでは、情報の架空鉄道とはどんなものでしょうか。
そのためには、情報にフォーカスした現実の鉄道趣味を考えてみる必要があります。
前述した情報は、車両の歴や希少さ、行き先の珍しさでした。
架空鉄道では、本当の意味で車両の歴や希少さを作ることは出来ません。485系には40〜50年ほどの歴史がありますが、架空鉄道において485系ほどの歴史を生み出そうとしたら、2064年くらいまで待つ必要が出てきます。
そのため古い車両というのは、事実上あくまで設定としてしか表現できません。
行き先の珍しさは時刻表やダイヤを作れば表せられます。
現実の鉄道でも、古い時刻表を見て、写真が残っていないレア行き先列車に興奮することができます。では架空鉄道でも同じように、時刻表を作ればすぐに情報を楽しむことができるのでじょうか。しかしそのために一つ困難があります。なぜなら現実の古い時刻表を見てレア行き先列車を見つけ、興奮するためには、車両が走っていたことを想像する必要があるからです。となると、架空鉄道においても車両がなければならないでしょう。とはいえ先に述べたように、車両もまた情報を伴います。またレア行き先そのものにも、なぜレアなのか、どのようにレアなのかという情報にまみれています。
ということは車両という情報がなくても、別の情報の量で補うことができる可能性があるのです。路線の沿線、停車駅の様子、車両の運用、その列車が設定された経緯など、情報はいくらでも考えられます。架空鉄道は現実に存在しなくても、現実に最大限近づけることはできます。過去の記事で「物語」と表現したことがありますが(この時は地名についてのみ適用しましたが)、現実の鉄道のように無数の物語で補うことができるのです。
最後に例を一つ挙げます。関西本線の名古屋口に「快速みえ」という列車がありますが、今はこの列車は2024年7月現在名古屋〜伊勢市・鳥羽のみを結んでいます。
しかし1990年から1991年のみ、名古屋〜紀伊勝浦間の列車が1往復存在しました。全体の本数は9~12往復で、そのうちの1往復です。これは例えば相鉄の各停の中のかしわ台行きなどと比べたら相対的に珍しくはありませんが、名古屋〜紀伊勝浦は特急が並行していること、走行距離が名古屋〜鳥羽(122.5km)よりも圧倒的に長い(246.0km)ということ、新宮〜紀伊勝浦でJR西日本区間に入るということなど、特筆できる情報が多いです。
ちなみに紀伊勝浦発着の快速みえは現行の車両とは異なりますが、当時の車両を想像できなくても、これらの情報だけで楽しむことができるのではないでしょうか。