思い出の黄色かぼちゃ
現代アートの島として有名な直島のシンボル、草間彌生さんの黄色かぼちゃが姿を消してまった。
2メートルはある大型彫刻作品が、台風の荒波にさらわれ、バラバラになって岸に流れ着いた姿に愕然とした。
あまりの衝撃映像に、最初フェイクニュースかと思ったくらいだ。
このかぼちゃは台座から取り外すことができ、自然災害のときは避難させることができるそうだ。今回はどうも判断が間に合わなかったらしい。
在りし日の直島かぼちゃ
わたしの卒論は、「アートと現代社会」というテーマだった。
法学部だったが、「現代社会に関係あれば研究テーマは自由」という、へそ曲がりセーフティネットのようなゼミがあったのだ。
芸術社会学は研究者が少なく、文献もあまりなかったため、フィールドワークで地道に考察を重ねた。
学生ゆえ、基本的な交通手段は在来線と夜行バス。運転免許もない。行く場所は絞らざるを得なかった。
そのひとつとして厳選したのが「企業主体で島ごとアートで町おこし」の直島アートプロジェクトだったから、直島への思い入れは強い。わたしの社用Gmailアイコンは、だいぶ前からこの黄色かぼちゃである。
社会人になってからは、新幹線や飛行機も使って、気軽に遠くの美術館や芸術祭に足を運べるようになった。
そして、いろいろなところで黄色かぼちゃに遭遇した。
黄色かぼちゃだけでなく、各地の美術館・美術展を旅すると、かなりの確率で草間彌生さんの作品に出会う。さすが世界的アーティストだ。
ここ10年くらいの写真フォルダを振り返ってみる。
福岡市美術館
直島から関門海峡を越えて、福岡県。
福岡市美術館の屋外にも、黄色かぼちゃがある。
草間彌生さんがはじめて手掛けた野外彫刻がこの《南瓜》だそうで、直島のかぼちゃとほぼ同時期の1994年に制作されている。こちらは少しだけ面長。
《南瓜》
春に訪れたので、隣接する大濠公園の八重桜が満開だった。公園内を散歩しながら、八重桜ってさくらもち(道明寺タイプ)みたいでおいしそうだなと終始思っていた。
十和田市現代美術館
一気に北上して青森県。
以前こちらの記事で書いた、十和田市現代美術館にも黄色かぼちゃ。
こちらはややぽっちゃり。体験型なので、中に入ることができる。
《十和田で発見された私の黄色カボチャ》
こちらのcube cafe&shopには、地元洋菓子店のアップルパイや、陸奥湾ホタテのクラムチャウダー、津軽りんご100%ジュースなど、青森の素材を使ったメニューがたくさんある。
美術館は、展示のみならず、併設のカフェやミュージアムショップも楽しみのひとつだと思う。
Reborn Art Festival 2019
少し南下して、宮城県の芸術祭。
かぼちゃではないが、草間彌生作品に特徴的な水玉のオブジェ。
牡鹿半島北西部にある、カキの養殖が有名な桃浦エリアの屋外彫刻作品だ。浅く水を張った場所に展示されているが、炎の赤を意味しているという。
《新たなる空間への道標》
バスツアーの現地ガイドさんによる、「今日はお天気がよくて工事現場もきれいにみえます!」「皆さん!あそこに草間彌生さんの商品が!(正:作品)」「あのセブンイレブン前に~(正:七十七銀行)」などの愉快な発言もいい思い出だ。
松本市美術館
つぎは草間彌生さんの出身地、長野県。
美術館の入り口に鎮座する、水玉模様の巨大な花の彫刻。
美術館の壁面も、水玉や動物のドローイングで彩られている。大規模改修工事のため、2022年4月まで休館しているそうだ。
《幻の華》
新宿から特急スーパーあずさに乗って松本まで行った。車内アナウンスの「特急スーパーあずさ松本行き、車掌は松本です」がジワジワきた。
クレマチスの丘
戻って、静岡県は富士山の裾野。
花とアートが楽しめる広大な丘。
その名の通り、クレマチスやたくさんの花が咲き誇る庭園と、4つの美術館で構成された施設である。屋外彫刻も数多く並ぶ中に、特徴的な水玉模様の巨大な花を発見した。
《明日咲く花》
クレマチスの花が観たくて行ったら、草間彌生さんの花も観ることができた。天気がよく、彩度が爆発していて花という花がまぶしかった。
大地の芸術祭
最後は新潟県の中越エリア。
越後湯沢の少し上のあたり、越後妻有一帯で毎年開催されている芸術祭で、国内の地域芸術祭のパイオニアでもある。まつだいエリアの「能舞台」というミュージアム前に展示されている、巨大な花の彫刻作品。
《花咲ける妻有》
常設の彫刻だが、公開期間が「4月下旬~雪解け後順次公開」となっているところに、自然とアートの共存を感じる。草間彌生さんの数ある野外彫刻の中でも、ご本人のお気に入りナンバーワンだという。
*
記憶や写真がないだけで、ほかにも出会っていたかもしれない。
そして、わたしの知らない草間彌生作品がまだ各地にたくさん待ち受けているはずだ。
ここ十数年で、各地の芸術祭やアートプロジェクト、パブリックアートは明らかに増えた。卒論ではアートの持つ力と展望について述べたが、おおむね合っていたのだろうか。
しかし、アートに興味のないひとにとっては税金の無駄遣いと感じるだろうし、作品によっては意図せず戸惑いを与えてしまうものもある。
ハコモノ施設を飛び出したアートと社会(自然)の共存には、課題はまだまだたくさんあるようだ。
「アンサー卒論」として考察するかどうかは別にして、来年こそは各地の芸術祭や美術館に行けたらとあらためて思う。
それまでに、黄色かぼちゃ、どうか修復展示されますように。
*
正直、フォルダを見返していて一番インパクトが強かったのは、草間彌生作品ではなくこの作品だ。
クレマチスの丘にある、ヴァンジ彫刻庭園美術館(一部エリアを除き撮影可)の《チューブの中の女》。
なにか社会的なメッセージがあるのだとは思うが、「あの、ふざけてたら出られなくなったの…」と言っている気がしてならない。
芸術の解釈は自由だ。
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