言い間違い良い間違い
仕事柄、「ひがし」の変換トップバッターは方角より「干菓子」だし、「さとう」は人名より先に「砂糖」が変換候補にあがる。業界用語ならぬ、業界変換。佐藤さんにメールを送ろうとして、「砂糖様 お疲れ様です」と、原材料を敬い労ってしまうことはザラである。
在宅勤務が本格化してから、ちょっとしたお詫びや御礼も、わざわざ文字で送り送られるようになった。謝罪と御礼は大人の基本、とは誰のセリフだったか。文字自体には抑揚がないから、文末の「ございます!」や「ございます~」、「ません…」や「ませんっ」などから個性や感情を読み取り、わたしもまた伝える。右脳と左脳がせめぎ合って少し疲れる。
だから、言いたいことが伝わる程度の「良い間違い」に日々癒やされる。
「お手数をおかけしてごめんなさん」
謝っているし、誤っている。
すみません、と書こうとして、より申し訳なさがこもったごめんなさいに書き換えた、あたたかい人柄と逡巡が垣間見える。大した手間でもなかったのに、わざわざお時間割いてくれてありがとさん。いつか声にして投げるよ。
「よろ食お願いします」
社内用語とかではない。はじめて見る書き間違いだ。よろしょく。検食や試食をしてもらう時とかに使えそう。菓子こまりました。
「よろしくお願い足します」
お断り足します。
わたし自身も
「市場の冷え込みが、当社の売り上げに大きな影響を及ぼしています」
と書きたいところを、
「市場の冷え込みが、当社の打ち上げに大きな影響を及ぼしています」
と書いてしまう。頻繁に。
これはこれでむしろ真理だと思った。
最近はご時世と内臓の弱体化で完全に控えているものの、かつて、部活終わりの高校生がスポーツドリンクを飲む速度で飲酒しても顔色ひとつ変えなかったので、「ザル通り越して筒」という呼称がついたことがあった。
あいつ今酒欲してる?と思われたら心外なので、速やかに打ち直した。
そういえば、原材料表示を作成する部署にいたとき、
「乳等を主要原料とする食品」が、「乳等を主要原料とする職人」になっていたことがあった。
それはもう赤ちゃんである。