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多分みんな花より団子
4月1日、駅のホームで先を歩くひとのスーツの袖先に北海道銘菓《白い恋人》の大きな袋がぶら下がっているのが見えた。
ようこそ東京なのか、おかえり東京なのかは分からない。色鮮やかに咲きほこる花々よりも、そういうところに新しい季節を感じてしまう。
花より団子である。
花揺れる春だから、空を見上げた方がいいのかもしれない。でも、八重桜をみると毎年「これが全部さくらもちなら」と思う。
結局、花より団子である。
そして、この《もし~なら》の構文をみると、仮定法の説明のときに「もしもわたしがトリだったら、からあげになっていただろう」と言い放った英語の講師を思い出す。
そういえば彼、be subject to~というイディオムの説明のときに「なすがまま、きゅうりがパパ」とも言っていた。
人類みな、何よりも団子である。きっと。
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そんな人類共通の願い、もとい主観を叶えるかのように、春は会社のデスク上がお菓子であふれる。
異動される方や、異動してきた方のあいさつや気づかいが、ご当地お菓子となって手渡されるからだ。
あらたに着任された方とはしばらく腹の探り合いが続くが、おいしそうなお菓子をいつ食べようか、別の意味でも腹を探っている。
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ところで、新年度と同時に《プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律》が施行された。
略して《プラスチック資源循環促進法》と呼ぶらしいが、略しても墾田永年私財法より長いから、以下《新法》とする。
これまでも《容器包装リサイクル法》などプラスチック関連の法律は存在していたが、いかにリサイクルするかに重きがおかれていた。
《新法》には、そもそもプラスチック製品を減らす、設計から見直すという視点が盛り込まれている。
ただ、削減目標は各事業者に委ねられており、まったく減っていなかったり、増えたりした場合は50万円以下の罰金、とふんわりしている。
一足早く有料化されたレジ袋とは異なり、プラスチック製スプーンやフォークを有料化した事業者は少ないようだ。
紙や木製のカトラリーに切り替えたり、植物由来のバイオマスプラスチックを使用したり、柄の部分に穴を開けたりして、プラ使用量を削減しているという。
わたしが昼休みによく行くオフィス街どまんなかのコンビニは、液体に近い総菜やヨーグルトを買うと、スプーンをほぼ自動的に渡してくれた。
しかしここ数か月、渡されもしなければ、必要かどうかも聞かれていない。
そもそも渡さず、必要な場合は自分から申告してくださいね、という対策もとっているのだろうか。
レジ袋は、なくても問題なかった。持ち合わせた袋になんとか入るし、有料というハードルがあることで抑止力がはたらく。
ストローも、なくてもなんとかなる。
液体は、容器に口をつければ物理的には飲める。
しかし、スプーンはちょっと困る。
プリンやパフェといったチルドデザートの類は、オフィスで食べる場合、小さなスプーンをもらわないとつらい。
まず、飲めない。
箸でもなんとかなるが、食べ終わるより先に昼休みが終わるし、美味しさが半減するような気がする。
手づかみなんて、つかむやいなや指の先からお見送りだ。指先で送るのはメッセージだけでいい。
《新法》には、プラスチック製品の設計や流通から見直すべし、という内容が盛り込まれている。
そのうち、そもそもスプーン不要の飲めるプリンや、ワンハンドで食べられるパフェのようなスイーツが、コンビニのチルドデザートの棚に登場するかもしれない、とふと思った。
在宅勤務が減り、オフィスに出社するひとが増えれば、オフィス街の店舗では需要があるかもしれない。
手づかみ食べで思い出したが、古文の授業で「今はうちとけて、てづから飯匙とりて」という伊勢物語の一節を「手づかみでごはんをとって」と訳した子がいた。
わんぱく伊勢物語。
《新法》の効果で、プラスチックがどこまで削減できるかは定かではない。消費者側の意識改革や協力も必要だと思う。
とりあえず、花より団子、はいつの日もこの胸にあふれてる真理だと悟った。