深夜に
硝子が割れるような音で
目を覚ましたとき
部屋には誰もいなかった
私は確かにここにはいたが
私の存在すらも不確かだ
この部屋はすべてが
水底に沈んでいるように静かだ
ボウルに張った水に映る蛍光灯
寝息を立てる食器棚
まだめくられていないカレンダー
夜の海に眠る深海魚の棲み家のような台所
深い静寂のなかで
脳裏に響く音楽を聴いている
青空に架かる
透明な虹のような美しい音楽が
私をつくるものひとつひとつを満たしていく
耳を澄ますと
遥か向こうから
朝の胎動が聴こえてくる
真夜中でも時間は呼吸をしている
季節は少しずつ移ろいでいる
夏がくる
タチアオイの花が天に向かって
花開くときが夏の始まり
いつか二人で行った
輝く向日葵畑が眩しい
あの場所に還れますようにと
静かに目を閉じる
やがて潮騒が
眠りの海へと
私を浚っていく
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