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10月から読んだ本|読書リハビリとともに、感性を鍛える

気づけばもう11月の11日ポッキーが食べたくなりますね。振り返ってみると10月は息つく間もなく過ぎ去ってしまいました。

最近やっと寒さだけを感じられる季節になり、秋が深まってきた感じがします。秋といえば「読書の秋」という言葉がありますが、皆さんも本を読んでおられるでしょうか。

僕はもともと本が好きで、季節関係なく本を読みます。今年の前半は院試勉強をしていて全く本が読めていなかったので、10月からは本を読み始めようと決めました。読書リハビリ開始です。

本のテーマ

僕の本の選び方は、だいたいそのときの問題意識に基づいています。自分の中に漠然とある問題意識や好奇心を明確にするために本を読むことが多いです。10月の初めも、忙しくて本が読めていない現状を見つめ直したくて、『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』という、自分のテーマそのもののタイトルの本から読み始めました。

もう一つのテーマはアートです。僕は趣味でカメラを始めてから2年ほど経つのですが、その中で芸術を享受するだけの立場から言わばステップアップして、”芸術”を創作する側の視点が芽生えてきました。今はテーマを掴みかけているような状況なので、これに関して語れる言葉はまだ少ないです。今後本を読むなりして別の機会に考えをまとめたいと思います。

本紹介

さて、前置きはこれくらいにして読んだ本を紹介していきます。10月からは10冊しか読めなかったのですが、世界の解像度を上げてくれるようなものもいくつかありました。それぞれの本についてアツく語ることを期待されるような書き方をしてきて後悔しているのですが、軽くいきます。

○なぜ働いていると本が読めなくなるのか

この本は、本が読めていない現状にピッタリだったので一冊目に手に取りました。結論から言うとめちゃくちゃ良かったです。

タイトルからは想像できなかったのですが、本が読めない理由を明治時代から現代までの読書史から紐解いていくという内容です。それぞれの労働者階級がどのような読書をしてきたかというところに今まで知ることのなかった意外性があり、それだけでも面白かったです。

そして過去から現代に向かって、本が読めない理由、にもかかわらずスマホは触れる理由に迫っていきます。中でも印象に残っているのが、

本を読むことは、働くことの、ノイズになる。

という部分です。情報のノイズ性に着目した議論は自分には目新しくて面白かったので、詳しく知りたいという方はぜひ本を手に取って読んでみてください。(店頭での本の売り出し方を見るに、三宅香帆さんは今売れっ子の作家さんです。)

この本とは別に、情報のノイズ性に似た議論をした本に『スマホ時代の哲学』という本があります。そこでは、簡単に言えばスマホを触ってしまう理由(≒本が読めない理由)をより哲学的に議論しています。何も考えずにショート動画を見続けてしまう自分を客観的に考え直してみたいという方におすすめです。

訂正する力

この本は東浩紀さんの本をとりあえず読んでみたくて選びました。きっかけは、『訂正可能性の哲学』がAIに携わる人におすすめされている記事を見たことです。最初に『訂正可能性の哲学』を読みたかったのですが、少し高いのと、図書館でも借りられていたのでとりあえずこっちでいいや、と決めました。

内容に関しては、正直あまり刺さりませんでした。これは僕が持つ歴史や政治に関する知識が未熟だったことが原因です。確かに面白くはあったのですが、この本を理解し内容を評価できるほどの背景知識を持っていませんでした。最近政治への関心は高まっているので、改めて読んでみたいと思います。

○世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?

この本は、旅行先の友達が働いているBOOKOFFで見つけ、安いしせっかくだしと思って買いました。エリートと美意識がどう結びつくのか?以前から気になっていたのですが、ビジネスや社会における美意識の扱われ方や存在意義について学ぶことができ、非常に楽しく読めました。

『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』でもそうでしたが、この本でも自己実現が取り扱われていました。その中で、

人々は自分を他者と区別する記号としてモノを常に操作している。

ジャン・ボードリヤール『消費社会の神話と構造』

という引用がありました。ボードリヤールはこれを1970年に書いたらしく、人間の消費行動の分析力に驚嘆します。自己実現との関連で自分にも思い当たる節があり、内省を促されました。

また、「記号」という用語に関して思い出すのが『暇と退屈の倫理学』です。この本でもボードリヤールを引用し、浪費と消費について扱っている部分があります。そこで印象的だったのが、

人は物に付与された観念や意味を消費するのである。

という一節です。自分の行動に自覚的にさせられるような一文は得てして記憶に残るものですね。自分の中にはなかった言葉の用法を取り入れることも読書・勉強の意義や楽しさの一つです。

○センスの哲学

この本は帯につられて購入したわけではありません。千葉雅也さんの文章が好きで買いました。本屋に行くと、”東大・京大でいま一番読まれている本”は常に5種類くらいあるのはなぜでしょうか。

千葉さんの本は『勉強の哲学』を初めに読み、その独特な語り口に軽い衝撃を受けました。普段少しは意識するが言葉にできないことがリズム良く言語化されている。合わない人もいるかも知れませんが、僕にとっては憧れの著者の一人です。『勉強の哲学』、『現代思想入門』と併せて『センスの哲学』まででそれぞれのテーマにおける入門書の三部作のイメージだそうです。

『センスの哲学』も千葉さんを感じる語り方でした。テーマとして掴みどころがなく感じる”センス”について気持ちよく言語化されているところにセンスを感じます。

”リズム”と”ビート”という独特な捉え方で対象の理解の仕方を分析していきます。一度読むだけでは吸収しきれない部分も多かったですが、芸術の受け取り手・作り手のどちらの視点で読んでも新たな発見がある一冊です。

ブラックホール

ブラックホールは僕が今後研究したいと思っているテーマの一つでもありますが、それを世間の人向けに説明するならどう語るのだろうと気になって読みました。

一般相対性理論における重力の意味から始まって、ブラックホールに関する理論・観測などについて全般的に平易な言葉で語られていて面白かったです。理論については言葉だけで内容を理解するのは困難ですが、専門分野をわかりやすく説明するという視点で読んで参考になります。

宇宙検閲官仮説

宇宙検閲官仮説

この本はタイトルが強いですね。自然と気になる組み合わせです。宇宙検閲官仮説を比喩的に表現すると、宇宙には物理法則が破綻してしまう裸の特異点を取り締まってくれる検閲官がいるはずだ、という仮説です。

一般相対性理論の研究の一分野として気になって読みました。研究の全体的な方法や流れはわかりましたが、理論の背景知識なしで具体的なことまで理解するのは難しかったです。ブルーバックスということもあり、よくまとまって書かれているのでこの分野の雰囲気を知りたい方にはおすすめです。

恋文の技術

能登半島の七尾にある実験所に飛ばされた大学院生の守田一郎が、友達や妹、小説に出てくる”森見登美彦先生”に宛てた手紙から構成される書簡体小説です。書簡体小説を読むのは新鮮でしたが、森見作品らしい少し破天荒なキャラやストーリーが愛らしい。

相変わらずリズムの良い文体が癖になります。森見作品を読んだ後は毎回、右手が疼いて仕方ない中学生のように、森見さんのリズムを真似て歯切れの良い文章を書きたくなります。

喜嶋先生の静かな世界

富山にいる友達に会いに行ったときに、酔いながら渡されたのがこの本です。割と天才肌だけど鈍感な大学院生と、研究は抜群だがどこかつかみどころがない”喜嶋先生”の生活を描いており、ストーリーを楽しみつつ研究の肌感がわかるという点でも面白かったです。

帯についてはよくわからないです。心を整えてくれる小説?僕は読み終えてからもあまりそうは思わなかったので、読む人によって捉え方は異なるのでしょう。ストーリーは淡々と進んでいくのですが、最後にどんでん返しというか予想外の出来事が起こり驚きました。モヤモヤは残りますが、研究者の人生に対する問題提起のような意味合いも感じて面白いと思います。

○すべての、白いものたちの

最近のテーマがアートであったことに加え、『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』で美意識を鍛える方法として文学を読むことが挙げられていました。そんな折、本屋でこの本の帯を見て、ノーベル文学賞なら読むしかないと思って軽率に買いました。ノーベル賞を受賞するような作品に触れて感性を高めたいという思いです。

韓国語の元タイトルの直訳は「白い」だそうです。「白い」を軸に話は進んでいくのですが、書き方が抽象的で言いたいことを理解するのに苦労します。また、3部構成のうち第2部の構成が特殊で初め読むときは何も分かりませんでした。斎藤真理子氏と平野啓一郎氏による補足と解説を読むことにより、この本のテーマや世界(視点)の転換について理解が深まりました。ノーベル文学賞を受賞しているように、単に面白いというよりも文学における”一流芸術”を感じられる著作だと思います。

○正欲

読む前の自分には戻れない。

その通りの一冊です。よくこんな本が書けるなと思います。今まで読んだ本の中でもトップクラスに衝撃的な小説でした。分かりやすい多様性を持て囃す社会に対する問題提起のような一冊だと思います。社会の”正しい側のグロさ”をこんなにも真正面からぶつけてもいいのかと驚きました。

タイトルにもあるように、この本のテーマは「正しい」性、欲です。正しいと確信している欲をもつ人に囲まれて、社会からは想像もされない欲をもつ人たちがどう悩み悶え、諦め、生きているのかを描いています。正しい側の暴力性だけでなく、マイノリティ側の考え方や生き様の描写も繊細具体的で、どちらにも感情移入することができます。

読むことによって自分の生きる前提が覆されるような作品でした。世界を見る解像度が相当高くないとこのような文章は書けないと思います。小説作品をもっと読みたいという気持ちにもさせられました。

正欲は映画にもなっていますが、その主題歌は僕も好きなVaundyの「呼吸のように」という楽曲です。MVでは様々な場面でハグをする人たちのシーンが流れていきます。抱擁。それは無条件にその人を受け入れ、受け入れられていることを感じる行為です。それが繰り返されるMVの構成と、楽曲も相まって見ているだけで泣きそうになります。小説を読む前でも後でも、ぜひ見てみてください。


以上で本紹介を終わります。アートは当分自分の中のテーマになりそうですが、正欲を読んだせいで小説を読むモチベがかなり高まりました。小説を読むことで文章自体や世界の見方についての感性を上げていきたいです。

チョロっと書くつもりが長くなってしまいました。また本紹介書いてみます。


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