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映画『土を喰らう十二ヵ月』(2022)
水上勉のエッセイ『土を喰う日々』を読んだので、これを原作とした中江裕司監督の映画『土を喰らう十二ヵ月』(2022)を観る。
原作には物語らしい起伏はないので、素材(原作)の味わいを活かしつつも、丁寧に膨らませている。
作家のツトムは信州の山家で愛犬さん“さんしょ”と暮らしている。
時どき、担当編集者であり恋人の真知子が訪ねてくる。
いちおうドラマではあるが、畑や山野の旬の食材と向き合い生きることをみつめるドキュメンタリー風の作品にもなっている。
信州の春夏秋冬がキレイです。
作家ツトムの死生観のようなものが練り込まれているのが原作との大きな違いだろうか。
ツトムが倒れ病院に救急搬送されるシーンもある。エッセイにはそうゆうことは書いていない。
食をテーマにした映画でありながら、うっすらと死が見え隠れするのは、死を意識することで生きることが鮮明になるのだろうと思う。
食で例えると
甘いお汁粉に穂紫蘇や塩昆布が添えられたりするのと同じかと思ってみたり。
ツトムを演じたのはジュリーこと沢田研二。
演じているというより老齢ジュリーそのものを、さらけ出してそこに存在しているので色気とともに凄みもある。
本作は料理いうても食べることが中心ではなく、土から口へ入るまでの経過が重要となる。本質的には、畑と相談して料理を作る人の視線だ。
だからジュリーが畑から大根を引っこ抜くし、沢に入って水芹をとる。
編集者にして恋人の真知子役に松たか子。
いい雰囲気の二人だ。
二人がゆでたてのタケノコを「急げ!」とかぶりつくように食べるのを見せられて、こっちはたまったもんじゃない。オレにも食わせろといいたくなる。
子供の頃はタケノコだなんて食い物のうちに入らなかったが、歳を重ねてくると嗜好も゙変わってくるものらしい。
義母役の奈良岡朋子、村の大工役の火野正平といった、もういらっしゃらない方の顔がチラリと見える。すてきなキャスティングだ。
映画の中の料理は料理研究家の土井善晴が担う。
器も洒落ている。変に主張したりはしない。山家暮らしをしている文筆家の趣味にかないそうなものである。
この作家の住まいには大きな窓があり、信州の山並みが見える。こうゆうところで自然と共に生きるのも悪くないなと。
そう思える年になってきたということか。
さて今宵は何をいただこうか。