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映画『八つ墓村』(1977)
今日も横溝正史原作の映画です。1977年野村芳太郎監督による『八つ墓村』は、金田一耕助を「寅さん」で知られる渥美清が演じています。松竹で撮るなら渥美清がいいといったのは原作者横溝正史だともいわれています。
ただし『八つ墓村』の主人公は探偵ではなく事件に巻き込まれる青年の寺田辰弥。映画では萩原健一が演じています。終戦後を舞台とした原作と異なり、時代設定は映画製作の70年代に置かれています。
新聞で自分を探している人がいることを知った辰弥は、そこに書かれている大阪の弁護士事務所を訪ねる。辰弥は幼くして母と死に別れ、本当の父を知らずに育っていた。
弁護士事務所では母方の祖父にあたる老人を紹介されるが、老人はその場で倒れ死んでしまう。
遺骨とともに辰弥は自分の生まれた岡山の山村、正式名称よりも旧称が通りがよいという八つ墓村へ足を運ぶことになる。
さて、寅さんは、もとい金田一耕助はちょいちょい顔をみせますが、どちらかというと狂言回し的な役割。
もともと萩原健一演じる辰弥の視点で物語が進行するので、渥美清演じる金田一が何を考えて何をしているのかはよく分からない。個人的にはやや物足りない金田一耕助。
この『八つ墓村』は戦国時代の落ち武者による祟りを前面に押し出しているのでいくらかオカルト風味で本格探偵小説の趣が薄味。
祟りを利用した連続殺人事件ではなく、いやもう祟りそのもの。例えば、戦国時代に殺された落ち武者たちが、事件の起きている現代の村を山から眺めているとか、もうホラーやん。
終盤、金田一耕助は警察や村人の前で事件の犯人を公表する。誰が犯人で動機は何かを披露しますが、そのとき「証拠はあるのですか」の問いに対して「そんなことよりね」と、被害者や加害者の系図をさかのぼり因縁めいた話を始めてしまう。
映画の中盤に村を離れていろいろなところを訪ねる金田一耕助。その時、何日の何時にどこの寺というテロップまでつけられてドキュメンタリー風にしているにもかかわらず、それは重要な証言や証拠を得るものではなく、被害者あるいは加害者の系図を遡るための取材に過ぎなかったようだ。
お寺の過去帳を調べるほうに興味があるようにお見受けする。
もっとも『八つ墓村』の連続殺人は、意図的な被害者もいれば、祟りとみせる為に無作為に選ばれてしまった人もいる。
となると、すべての殺人を丁寧に解きほぐす必要はないのかも知れない。
なんだかこの金田一耕助に文句を言ってますが、映画は壮大なスケールのある作品で、こうゆう映画はもう撮れないだろうなとも思われるくらい。
山崎努による村人32人殺しのシーンや、クライマックスの洞窟のシーンなどちょいと怖いが見どころも多い。落ち武者8人を村人たちが寄ってたかって惨殺するシーンなどもショッキング。
『八つ墓村』(1977)
監督:野村芳太郎
原作:横溝正史
脚本:橋本忍
撮影:川又昂
音楽:芥川也寸志
美術:森田郷平
出演:
萩原健一 … 寺田辰弥
小川真由美 … 森美也子
渥美清 … 金田一耕助
山崎努 … 多治見要蔵・久弥(二役)
山本陽子 … 春代
中野良子 … 井川鶴子
市原悦子、山口仁奈子、加藤嘉、井川比佐志、下條正巳、浜村純、藤岡琢也、浜田寅彦、夏純子、山谷初男、任田順好、大滝秀治、花沢徳衛、綿引洪、下條アトム、夏八木勲、田中邦衛、稲葉義男、橋本功