映画『病院坂の首縊りの家』(1979)
1976年『犬神家の一族』から続いてきた市川崑監督による名探偵・金田一耕助シリーズは本作『病院坂の首縊りの家』でひとまず終わり。
このあと市川崑監督は、豊川悦司主演で『八つ墓村』、石坂浩二主演でふたたび『犬神家の一族』を監督したりと、金田一耕助に取り憑かれていますが、これらはシリーズにはカウントしないことにしています。
物語はある作家の先生のもとを金田一耕助が訪ねるところから始まります。金田一はしばらく海外へ旅に出ると言う。そこでパスポート写真を撮るために先生がすすめてくれた本條写真館をおとずれる。
そこで金田一は写真館の店主からある調査を依頼される。
この作家先生役を横溝正史が演じている。ご本人の役というわけではありません。横溝正史は『犬神家の一族』にもご夫妻で登場していらっしゃいましたが、今回は出番が増えました。
本作は金田一が作家先生の家をたずね渡米の意志をのべてみたり、彼の出生や経歴に少し触れてみたりと金田一個人の人間像にも少しばかり照準をあてて描かれています。終盤には重要証拠品を金田一耕助みずから壊す場面もあり、これまでの天使のような存在が、ここでは地上に降りて来たかのようです。
原作は20年の歳月にわたる大長編の事件で、これを映画ではギュッと詰めていますから、物語の背景に横たわる3代か4代に渡る複雑な系図はいくらか厄介かもしれません。
劇中の金田一耕助でさえも複雑すぎる家系を一度聞いただけではわからないようです。しかしこの混乱が、かえって横溝映画の醍醐味かもしれません。
またこれは厳格な家父長制のもとで男の欲望の犠牲となった女たちの物語でもあります。このシリーズにはそうゆう側面があります。
主要な登場人物を申し上げると、まずは法眼家の方々。
法眼家は法眼病院の経営者一族。かつては、とある坂の途中に屋敷を構えていたので、その坂は病院坂と言われていた。いま坂の屋敷は空き家になっている。この空き家が事件の主たる舞台となる。
法眼家の当主弥生を演じているのは佐久間良子。法眼病院は弥生が取り仕切っている。弥生の娘由香利に桜田淳子。ちょいとワガママ娘な感じ。
ジャズバンド、アングリーパイレーツの面々。メンバーの山内敏男(あおい輝彦)と山内小雪(桜田淳子)は血のつながらない兄と妹。山内兄妹の母冬子はかつて病院坂の空き家で首をつっている。だから病院坂の首縊りの家。山内敏男は亡き母の復讐を法眼家にはたそうと考えている。
法眼由香利と山内小雪を桜田淳子が二役で演じている。桜田淳子は歌を披露する場面もあります。
それから本條写真館の面々。事件の外側にいるのかとおもいきや、意外と中心にいたのが本條写真館の当主。
本條写真館の助手である日夏黙太郎役に草刈正雄。超イケメンが二の線を封印して三枚目で好演。写真館の助手が、いつの間にか金田一耕助の探偵助手までこなしてしまう。
出演者で触れないわけにはいかないのが、入江たか子。
華族出身の女優。戦前の大スターですが、戦後は病気もあり作品的にも化け猫映画などのヒット作はあれど恵まれたとはいえず、昭和30年代前半には映画界から身を引いていた。
ですが、黒澤明が『椿三十郎』に、市川崑が『病院坂の首縊りの家』に引退している入江を起用している。またこののち大林宣彦が『時をかける少女』やテレビドラマ『麗猫伝説』で入江をキャスティングしている。