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#018 切り絵作家 辰己雅章さんからの絵葉書 『鞄談義3』

 『鞄談義3』で、切り絵作家 辰己雅章さんのことを書いた。彼とはスペインへの旅で知り合った。辰己さんにとっては海外旅行と言えばスペインで、出会った旅が15回目のスペインだと言っておられた。他の国には興味はないと。
「そんなにスペインばかりで、飽きないですか」
「スペインへの旅の目的は何ですか」
 私の質問に対して、辰己さんは明快に答えてくれた。
「飽きないね。何度来ても」
「旅の目的はないよ。ただビールを飲んでボーとしているだけ」
 実際、新しい町に着くと、辰己さん、すぐビールを買って飲んでいた。
 しかし、目は違った。目は作家の目だった。スペインの空気を身体全体で吸収し、作品に命を注ぎ込む作家の心を育む。そのためにビールを飲む。
 きっとそうだ。そうに違いない。私の思い込みかもしれないが…。

 辰己さんから届いた個展の案内状。スペインの白い教会と青空の対比。私はこれを原稿ノートの栞として使っている。ノートを開いて新しい原稿を書くとき、絵葉書の作品を見て、辰己さんのことを思い出す。原稿を書くスイッチが入る。

 ああ、コロナが収束したらスペインに行こう。そして、辰己さんの真似をしてビールを飲もう。スペインの青空の濃さ。それを見るだけのためにスペインに行ってもいいとすら思っている。

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