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【フェムテックの社会学的探究シリーズ】Vol.3 フェムテックとジェンダー論
Vol .2では様々な組織でのフェムテックの定義についてご紹介しました。
フェムテックについてジェンダーの文脈でも語られることが多いと思います。Femtech Insider のCEOを務めるKathrin Folkendt氏にインタビューの中で議論する機会に恵まれましたので、今回はジェンダー論との関係性をKathrinの意見も交えてご紹介したいと思います。
(英語でのインタビューのため筆者による意訳である旨、ご了承ください。)
フェムテック情報メディアFemtech Insiderとは
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自身が多嚢胞性卵巣症候群(PCOS:polycystic ovarian syndrome)になったことをきっかけにフェムテック情報メディアのFemtech Insiderを立ち上げ、現在ではフェムテックスタートアップの資金調達情報や新サービスの情報、関連する仕事の紹介など幅広く取り扱っています。メディアの運営だけでなくフェムテックを中心に起業やエコシステム、VC投資などのアドバイザーやコンサルティングも行っている女性起業家です。
Kathrinから見たフェムテック
ーフェムテックを新しい産業として見ていますか?流行りなのでしょうか。
「フェムテック」という単語は物議を醸すものではあるが、実態としては、女性の健康格差を埋めるためであり、その意味で成長していくと思う。
ーフェムテックという言葉とどのように付き合っていますか?
時計のアラームのように大体半年に一度くらいかな、定期的に誰かが、「フェムテックなんて言葉はいらない、使うのやめよう!」なんてX(旧Twitter)などで盛り上がるんですよね。でもそれでいいと思います、誰もがそこを行ったり来たりしつつ進んで変化していっている証拠だと考えているから。
言葉だけに集中することが間違っているのであって、実際に私自身、「フェムテック」という言葉があるからこそコミュニティが出来たり新しい人と繋がることが出来るわけだから、それでいいのではと思います。
ぶっちゃけ私だってすごくFemtechという言葉が好きな訳じゃないのです。Femtech Insiderの運営者がこういうのは驚かれるかもしれないけど、Femtech Insiderを考えた時に、Women's healthとか別の単語も考えたのです。ただそれでは長すぎるとかFemtechの方がキャッチーで言いやすいとか、そんな理由でもあります。
実際に私自身は”フェムテック”と”女性の健康のためのイノベーション”は区別なく同義として使っています。
そしていつの日か、誰もフェムテックという言葉を使わなくなると思っていますが、もしかしたらそれが我々のゴールなのかもしれないじゃない?
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⭐️ひと休み⭐️
定義についてフェムテックの生みの親と言われているIda Tin氏が必要性に迫られて使い始めた約10年前から変わっておらず、またKathrin Folkendt氏以外でもフェムテック関係者では一定の共通認識のようです。組織や政府がどのように定めているのかが気になる方は是非Vol 2をご覧ください。
ジェンダー的批判ってなんだろう?
一般的にはあまり馴染みがないと思うので少しだけ簡単にご紹介させてください。もちろんこれが全てではなく議論としてこういいった考え方もあるんだと認識いただいて、ぜひ考えるきっかけになればと思います。
⭐️(1)フェムテックでジェンダー不平等は解消されない、むしろ隠すのに都合良い!?
Q.「日本社会の中で女性の活躍を阻んでいるのは何なのでしょうか?」
A.「大きな支障の一つとして注目されているのが、生理や更年期など女性特有の健康問題です。」
という会話はもしかしたら良く聞くフレーズではないでしょうか。
しかしこれは”ジェンダー不平等の社会構造の問題にも関わらず、あたかも健康問題という個人的問題であるかのようにすり替えている、もしくはアリバイのようにフェムテックが利用されているのではないか(田中 2023)”
言い換えると、社会で活躍できない女性の原因が個人に起因され自己責任化を押し付けられる社会構造になっている、という視点です。
⭐️(2)女性の生産性をとにかく高める、酷使したい!?
様々なテクノロジーやサービスを通して、女性を「生産性の高い良き労働力」として社会に組み込んでいこうとしていて、本来であれば休息すべきはずの体もテクノロジーと社会の共謀によって酷使可能なものにされている、という視点です。
ここでのポイントは、女性自身の主観として「快適に、生理忘れて仕事できる!」というような好意的感覚を持っているところです。
⭐️(3)女性の身体の商品化!?
これはフェムテックに限らずヘルステック全般に言えることだと思いますが、企業によるデータの搾取、多様性と謳いながらビッグデータをもとにスタンダードを定め、むしろ規範的身体を再構築しているのでは、という視点です。
いかがでしょうか。このような視点を知っておくだけでも、フェムテックについての視点が広がる気がしますね。
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ジェンダー論的批判を当事者はどう見るのか
ーフェムテックが既存のジェンダー格差を解決するどころか男性からすると誤魔化すためのツールだという指摘がなされています。
なるほど、それは一理ありますね。否定は出来ないです。根本的な構造的ジェンダー不平等を解決するためのものではないと思います。この不平等な既存の社会システムの中での解決策を提示しているのが現状で、最終的にはもっともっと平等な世界を目指さないといけないと思うけども今は残念ながらその段階ではないだけじゃないでしょうか。
何度もいうけど、フェムテックって言葉を使わなくても対話できる世界になってくれたら一番いいのです。
ーフェムテックによって結局は女性が男性と同じように働けと言っているようなものだという批判もありますがどう感じますか。
私たち世代(1970~1990年代前後)の親は、男性が働いて女性は子育てをするような考えだったけど、私たち、そしてこの次の世代のキーワードは「選択肢」だと思います。何をしなきゃいけなくて、何はしたくないか、という選択を自分でしていくことがエンパワメントに繋がっていく。
そこに正しいとか間違っているということがない時代なのです。ただただ単純に女性にとって「より良い選択肢」を提供していくことがフェムテックであり、例えばタンポンが好きな人はタンポンを選べばいいし吸水ショーツが快適なのであればそうすればいいのです。働きたければ働き、子育てに専念したければそうする。
女性が、自身の健康に対して自身の好みを持って選んでいくことが大事なので、ある意味ジェンダー論やフェミニズムが何かを決めていく話ではないんじゃないかと思うし、その批判には同意はできないですね。
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終わりに
今回はフェムテックに関するジェンダー論からの批判を軸にご紹介させていただきました。ジェンダー論とかフェミニズムは、日本では少し距離を取られる方が多いと思います。私が常々思うのは概念的、理論的視座と現場感覚には当然乖離があるので、「こんな風に見ることも出来るんだな」と両者を行ったり来たりしながらフェムテックを包括的に捉えていけると様々な角度に話が広がったりサービス検討の役に立ったりするのではないかと思います!
イベントの様子はこちらから☺️
主要参考文献
田中 東子(2023) 「情報の神殿」としての女性たち. 現代思想, 51(6), 117-120.
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