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【海外動向】米国発スタートアップから学ぶビジネス成功のヒント

米国のフェムテックマーケットはグローバルの半分を占めています。2023年の米国のフェムテックマーケットの評価額は約510億円、2024年から2030年のCAGR(年平均成長率)は16.30%というデータもあります。また、2023年11月にはバイデン米政権のもと女性の健康に関する研究と資金提供へのアプローチの変革を目指すホワイトハウス主導のイニシアチブが設立されました。

このような背景から、本記事では米国で、2024年に資金調達を実施したフェムテックスタートアップの事例を分析し、優れたフェムテックビジネスモデルをつくるポイントを探っていきます。

※為替レート 1USD=150円で換算しています


1. フェムテックを取り巻く米国の社会背景

まず、日本でフェムテックビジネスをうまく立ち上げるヒントを得るため、日米の社会的・経済的な違いを見ていきます。

▼日本のフェムテックを取り巻く社会背景や最新動向についてはこちらの記事をご覧下さい!

①医療機関へのアクセス

広大な国土が原因で、医療施設や医師へのアクセスが限定される人口が一定数存在している米国では、早い段階から遠隔診療(テレヘルス)の整備が行われてきました。1993年にはアメリカ遠隔医療学会(ATA: American Telemedicine Association)が創設され、遠隔医療の推進に取り組んできました。2021年時点で、米国の18歳以上のうち過去1年以内に遠隔診療を利用した人は約37%となっています。

出典:Adobe Stock

②高額な医療費×活発な転職市場

米国の平均勤続年数は約4.1年であるのに対して、日本の平均勤続年数は約12.3年とおよそ3倍の数値です。これを日本の労働制度の基準にあわせ、新卒23歳~定年65歳まで働いたと仮定すると、生涯で約10.2回転職していることになります。

米国の公的医療保障制度は高齢者等の医療を保障するメディケアと、低所得者に医療扶助を行うメディケイドに限られているのが特徴です。米国民1人当たりの医療費と見ると、2021年時点で1万2,318ドルとOECD加盟国の中で最も高く、米国を除くOECD諸国上位10カ国の平均の約2倍でした。

高額な医療費を確保する上で民間部門の役割は大きく、企業にとって健康保険や、福利厚生としての健康関連サービス及び費用補助は優秀な人材を獲得する1つの要素です。また、Harris Pollが2022年に米国の18歳以上の就業者に行った調査によると、78%が転職先を探す際に自分のニーズに合った健康保険があることが重要であると答えています。

また、Deloitteの2024年の調査では男女の回答者のうち3分の2近く(63%)が企業の健康保険の内容が勤続意欲に影響を与えると答えています。さらに、女性のみに焦点を当てると50%が1年間のうちに何らかの医療サービスを遅らせた・スキップしたと回答し、34%が健康診断(スクリーニングや妊産婦の健康、産科、婦人科のニーズ)の受診を遅らせたりスキップしたりしたと答えています。

2.米国フェムテックスタートアップ

続いて、2024年に大型資金調達($10M以上)を行った米国のフェムテックスタートアップを3社ピックアップし、ビジネスモデルや提供しているソリューションを見ていきます。

①更年期に特化したテレヘルスを提供:Midi Health

設立:2021年
調達額:シリーズB 合計$65M(約97.5億円)
総調達額:$100M以上(約150億円)

更年期と閉経周辺期の女性を対象に医師が遠隔診療を行い、ホルモン治療やサプリメント、ライフスタイルの指導などパーソナライズされたケアを提供しています。全米50州で利用でき、保険適用が可能です(2024年12月時点)。従業員向けの福利厚生サービスも販売しています。

同社によると、米国の女性のうち35歳以上は約30%を占める一方で、更年期診療・治療に関する十分な知識や経験をもつ医師が少ないことから、患者は適切なケアを受けにくい環境にあります。

同社の特徴は積極的なアライアンスです。2023年8月には、女性従業員の不妊治療やその家族の健康をサポートする福利厚生を提供する米Peppyと、2024年6月にはKeck Medicine of USCと、同年7月にはデジタル認知評価会社の米Neurotrackと、同年8月には筋骨格系疾患ケアのデジタルヘルスを提供するHinge Healthと業務提携しています。

②マタニティーケアに特化した福利厚生を提供:Pomelo Care

設立:2021年
調達額:$46M(約69億円)
総調達額 $79M(約119億円)

福利厚生サービスとして、全米46州の300万人以上の母親、乳児に妊娠から産後までの周産期に特化したケアをテレヘルスとクリニックのハイブリッドで提供しています。24時間365日チャットや電話、ビデオ通話で医師、看護師、助産師、小児科医、メンタルヘルスセラピストなどの専門家から治療を受けたり、メンタル不調や、育児や乳児の栄養管理などについて相談できます。2024年9月の資金調達に続き、産後の母親をサポートするコミュニティDoula Networkを買収し、全米のメディケイド受給者の約6人に1人にリーチすることを目指しています。

同社によると、米国の新生児の10人に1人が出生時に新生児集中治療室(NICU)入院しており、妊産婦の死亡率は他の先進国を上回っています。特に、地方と都市、人種の違いによる妊産婦の医療格差は深刻な社会問題となっています。

日本では、令和6年度版の男女共同参画白書で女性の健康課題がもたらすキャリア継続への影響が示されました。そして、厚生労働省は2025年の女性活躍推進法改正案として、従業員101人以上の企業に対し、「一般事業主行動計画」に生理休暇や相談窓口など女性従業員に対する健康支援の取り組みの公表を促す方針です。

「女性活躍推進」や「人的資本経営」、「DEI推進」の動きが加速するなかで、企業は福利厚生として女性従業員の健康課題に取り組むメリットが大きく、米国の福利厚生×フェムテック事例参考になるかもしれません。

③細胞工学を活用した卵巣治療のプラットフォームを開発:Gameto

設立:2020年
調達額:シリーズB $33M(約49億円)
総調達額 $73M以上(約109億円)

iPS細胞から女性の生殖器系のオルガノイドを作成し、さまざまな生殖器系疾患の治療薬・治療法の研究を行う卵巣治療のプラットフォームを開発しています。

『Fertilo』は体外受精(IVF)の成功率向上を目指す技術です。iPS細胞から作る高純度な卵巣支持細胞を用いて卵子の培養を行うことで、体外受精と卵子凍結を10〜14日から2〜3日への短縮を可能にしました。この技術を使った生児出産も発表されています。また、卵巣機能の老化が原因である更年期症状(障害)を改善する治療薬『Ameno』も開発しています。本拠地NYに加え、マドリッドに欧州事務局を構え世界的な拠点を拡大しています。

婦人科系疾患の解決を目指したDeepTechスタートアップによる大型資金調達は多く見られました。例えば、AIを活用した乳がんリスクの評価技術を開発するPreciseDxはシリーズBで$20.7Mの調達、非侵襲の子宮内膜症検査技術を開発するHeranovaはシードで$13.5Mを調達しています。

2024年は日本でも婦人科系疾患に取り組むプレイヤーが増加しました。このような特定の婦人科系疾患の治療薬、検査技術や医療技術の臨床応用を目指す海外の事例については、それらを主軸にした事業展開の可能性を読み解くヒントになると考えられます。

出典:Adobe Stock

3. 優れたフェムテックビジネスのポイント:n1顧客の課題特定

フェムテックビジネスの背景には、グローバル共通の課題として、女性が性教育の不足などにより自分の体の健康に関する悩みを話しにくい・正しい情報を得にくい問題や、更年期などの女性特有の疾患に関する専門医の数が少なく適切なケア・治療を受けにくいことが挙げられます。そのため、マクロ視点でみると、国内外どちらで事業を立ち上げるにせよ「女性の健康課題」というフィルターがありターゲット層の課題は捉えやすいです。

一方で、個別の健康課題なると、長らくタブー視されてきた課題であることによって、顧客である女性自身も根本的な悩みを言語化しにくい、あるいは伝えにくい現状があります。例えば、更年期であれば顧客の課題として「ホットフラッシュなど不定愁訴のつらさ」を解決するのか、「更年期について家族やパートナーに話しにくいつらさ」を解決するのかでソリューションは変わってきます。

解決したい顧客課題をしっかりと特定した上で、ソリューションとなるサービス・プロダクトのコンセプトを設計することがフェムテックビジネスにおけるProduct-Market Fit(PMF)達成につながります。したがって、フェムテックビジネスの成功のためには、ミクロ視点でのn1顧客の具体的な課題を正確に把握し、事業を貫く軸となる解決すべき顧客課題を明確化することがポイントになるかもしれません。

出典:Adobe Stock

【執筆:Femtech Community Japan 金井 響加】
京都の大学でジェンダー論を専攻しながら、Femtech Community JapanでSNSを担当。フェムテックをはじめ、「エンパワーメント」と「社会実装」を軸にビジネスで社会課題を解決したいと考えている。

4. Femtech Community Japan法人会員募集中

Femtech Community Japanでは、スタートアップ・大手企業、VC・投資家、⼤学・研究機関、医療・ヘルスケア関係者メディアパートナーなどが集まり、フェムテック関連の取り組み・情報共有や現状の課題と今後に向けた議論・WG活動などを行っています。

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