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「開示命令」の落とし穴(に落ちた私)の話

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この内容が世に広まるだけでも意味があると、私は思っております。


はじめに ~ フェミトー、訴えられる


こんにちは、フェミニスト・トーキョーです。
まぁ表題の通りなのですが、私ちょっと訴えられてます。
ちょっと、っていうかガチで。

Xでのフォロワーさんならご存知かと思いますが、私は日常的にさんざん色んな方々とレスバもしていますし、多方面から少なからず憎まれていることも重々承知しておりますし、何なら「法的措置を取るぞ」などと脅されたことも二度三度ではございません。

ですが、今回はそういう恨みつらみから来るものとはちょっと毛色が異なりまして、何しろ全く想定していなかった方向からいきなり撃たれたのと、その撃たれ方もなんとも奇妙なものでした。

そしてその先に待っていたのが、SNSでもよく耳にする「開示請求」と、今回の表題にしたメインテーマである「開示命令」なるものでした。

たとえば私のように、変に恨みを買うようないやらしいレスバをしたりですとか(←少しは自覚があるらしい)、あるいはこっちは私も自覚がありませんが、他人の名誉をむやみに傷付けるようなことを言ったり、罵詈雑言を投げたりといったことを遠慮なくする人も、SNSでは珍しくないですよね。

しかしながら今回の話は、普段からそんなことは一切やっていない人でも関係することがある、もしくはそもそもレスバなんかしないし特にフォロワーが多いわけでもないという一般ユーザーでも巻き込まれる可能性が十分にあるものだということが分かりました。

訴えられたこと自体に関しては自らの落ち度であるのは間違いなく、思慮が足りなかったと深く反省しております。
ただ、訴えられる側の視点から見た時に、この「開示請求」ならびに「開示命令」というものに対し、少なからぬ理不尽さのようなものを感じましたので、自身の回顧録として書き記しつつ、自戒を込めつつ、世の皆様にも警鐘としてお伝えしたいと思った次第です。

なお、本件はリアルに発生している訴訟にもとづくものであるため、かなり内容をボカして書いている部分があります。

ですので、読んでいるとおそらくは、
「ここをもうちょっと掘り下げてくれないかな…」
「もうちょっと詳しく知りたいな…」
と思われる箇所があちこちあるかと思いますが、それは書いていないのではなく書けないのだとお考えいただき、ここに書いてあることがお伝えできる精一杯なのだとご理解賜われれば助かります。

そこそこの長文ですが、なるべくわかりやすく書くよう努めましたので、よろしくお願いいたします。


①開示請求:X(旧Twitter)の巻


2024年のある日。
私がXのアカウント用に使っているメールアドレスに、一通のメールがXのサポートから届きました。

件名:「Xでの法的書面の受領について」

本文:
Xをご利用の方へ

Xが、あなたのXアカウント@feminist_tokyoに関する添付の法的文書を受け取ったことをお知らせします。
この法的文書に関わる民事訴訟の過程で、Xがあなたのアカウントに関する情報を作成する場合があることをご理解ください。

当社の核となる価値観の一つは、ユーザーの声を擁護し尊重することです。従って当社では禁じられていない限り、アカウントの情報開示請求を受けた場合、該当ユーザーへの通知を実施しています。

Xでは法的なアドバイスは提供しておりませんので、本件に関してはご自身の弁護士に相談することをご検討ください。

この通知に返信される場合は、このメールに直接ご返信ください。
よろしくお願いいたします。

X

(メール本文よりそのまま抜粋)

そもそも何の話なのか分からず、イタズラかとも思いましたが、このメールアドレスはXのアカウント管理のためだけに作ったもので他の用途では一切使っていませんでしたし、メールのヘッダやセキュリティ情報なども確認しましたが、どうやらDMやスパムではなく間違いなくXから届いたもののようでした。

そして文面を元にググってみたところ、これがどうやら、
「Xが私宛ての開示請求を誰かから受け取った」
というものであることが分かりました。


開示請求。
誹謗中傷されたことなどを理由に、相手ユーザーに関する情報の開示をサービス提供者に対して要求するためのもの、というくらいの知識は、その時点でも持ち合わせていました。SNSでも開示請求ってちょくちょく目にしますしね。

そこで、首をひねりつつ胸に手を当てて、はて心当たりは……と考えてみても、いっぱいあり過ぎてどの件なのか悩みました。

あの弁護士さんだろうか、いやあっちの活動家かビジフェミさんか、それとも最近やり合ってたあの作家さんだろうか、などなど。

ただ困ったことに、見ての通りメール文面の中には「添付の法的文書を受け取った」とあるのに、このメールには何も添付されていなかったのです。

もしかしたらその法的文書とやらに、訴え主が分かる情報があるのでは?それなのに、なんで添付されていないのだろう?と思い、
「この通知に返信される場合は、このメールに直接ご返信ください」
とメールの最後にあったので、
「なんにも添付されてなかったんですけれど、なんですかこれ?何かの間違いだったりしません?」
という主旨のメールを投げてみたのですけれど、現時点で半年以上経ちますが結局なんの返信も来ていません。いい加減過ぎるでしょX……。

ちなみに、のちのちX上で同じような通知を受け取った人を検索してみたりもしましたが、人によってはやはり「何も添付されていなかった」という話があったので、ユーザーサポートなのに法的書類を添付し忘れるというミラクルをやってのけるわ、返事は寄越さないわということで、Xのサポートはあまりアテにしない方が良さそうです。

そして、では結局このXに対する開示請求なるものが通ると、私の何がバレるのか?なのですが。

私に開示請求を行なった人、仮にホニャララ氏としますが、ホニャララ氏はおそらく私が呟いた数多のポストの中で、自分に関係しなおかつ自分を侮辱している、あるいは自分に何かしらの損害を与えるような内容があると考えているのであろうと推測されます。

ですので、その問題のポストに対し、裁判所を通じて、

・ポストしたユーザーのID
・正確なポスト日時
・私が呟いた時に使っていた端末のIPアドレス

をXに対して開示せよと請求します。
これが「発信者情報開示請求」と呼ばれるものです。

最後の「端末のIPアドレス」が重要ですので覚えておいてください。

「発信者情報開示請求」とは、インターネット上の匿名の投稿により他人の権利が侵害された場合に、被害者がプロバイダに対して、発信者の特定に資する情報(発信者情報)の開示を請求することを可能にするものであり、プロバイダ責任制限法に定められています。

電子掲示板やSNSなどのインターネット上の投稿によって、名誉権やプライバシー、著作権などの権利が違法に侵害された場合、被害者は、投稿を行った発信者に対して、損害賠償請求等の法的な請求を行うことができます。

しかし、電子掲示板やSNSなどのインターネット上の投稿は匿名で行われることも多く、発信者の名前や住所が分からなければ、発信者に対して法的な請求を行うことができません。

そこで、発信者情報開示請求により、電子掲示板やSNSの運営者、投稿時やアカウントへのログイン時等の通信を媒介した通信事業者などのプロバイダに対して、発信者の特定に資する情報の開示を求めることで、発信者の氏名または名称および住所といった情報を取得し、発信者に対する損害賠償請求等を実現することになります。

https://keiyaku-watch.jp/media/hourei/hasshinshajohokaijiseikyu/

これは真偽を確かめる術がないので「よく言われている話」レベルのことですが、Xには常に同様の請求がおびただしいほどの数で届いているため、一般的な情報共有サービスないし会員制ポータルサイトなどと比べると、ほとんどの場合は内容が詳しく精査されることもなく、相手の要求通りに上記の情報が開示されてしまうそうです。

ともあれ、このメールが届いた時点で上記の情報が相手方に伝わったのだろうな、というのは察しがついて諦めモードではあったのですが、何しろ相手がどこの誰なのか全く分かりませんし、Xのサポートからも音沙汰が無いということで、打てる手が何もなく、悶々とする日々がしばらく続きました。


②開示請求:プロバイダーの巻


モヤモヤとした気持ちのまま数ヶ月が過ぎた頃、契約している携帯電話会社から簡易書留で「発信者情報の開示等に係る意見照会書」という書面が届きました。

これで、①の段階でやはりXから私のアクセスに関する情報が開示されたのだな、ということがはっきりしました(涙)。

実際の書面(一部モザイクを入れております)

①で述べたIPアドレスですが、これは問題となるポストを呟いたのがスマホなど携帯端末からだった場合は、その携帯キャリアが端末に対して一時的に付与するものとなります。
これがPCか、もしくはWi-Fiなどを使用していた場合は、インターネットプロバイダーなどインターネット接続を提供している会社から付与されますので、連絡もそちらから来ることになるかと思います。

私は普段、PCとスマホの両方からXを使っているので、どちらから連絡が来るかも分からなかったため、ほとんど使っていないプロバイダー提供のメールアドレス(プロバイダー契約時に自動で付与されて、毎月の料金案内などが届くだけのアドレス)に連絡が来るのでは?と思い、しばらくはそちらもチェックしていました。
最終的に携帯会社から連絡が来たということは、スマホでXを操作していた時の何か、だということですね。

つまり、①の段階で私のアクセス日時とIPアドレスを知ったホニャララ氏は、そのIPアドレスを管理しているのがどこの組織(携帯電話会社もしくはプロバイダー等)かを調べた上で、今度はその組織に対して、あらためて裁判所を通して「この人物の情報を開示せよ」という開示請求の申し立てを行なったわけです。

IPアドレスがどこの組織に属しているか、なんていうと難しそうに聞こえるかもですが、IPアドレスは所有者(厳密に言うと管理責任者)が原則的に全て公開されていますので、理屈とツールさえ知っていれば一般人でも簡単に調べることが可能です。

――さて。
先の封書には、この意見照会書と回答のテンプレート用紙に加えて、ずーっと気になっていた、私に対して開示請求を行なった人物および、請求の根拠となったポストの内容が添付されていたのですが……。

おそるおそる開いてみたところ。

まず最初に思ったのは、

「……え、なにこれ……っていうか、誰??」

でした。

私はてっきり、名誉毀損や侵害の話なら、私が過去にレスバなどでやり合った際に、私の物言いが気に入らなかったですとか、侮辱されただとか、そういう話だろうと思っていたのですが、訴えの内容は全く予想していないものでした。

訴えの内容をかいつまむと、こういう話になります。

・2024年の1月、私はAさんという人のとある投稿をリポストしました(Aさんはホニャララ氏ではないです)。

・その内容は、当時、世間から多大な非難を受けて炎上した一つの事件がありまして、Aさんのポストはその事件を起こした当事者の行動に対して肯定的な意見を持つ人たちのポストを何枚かスクショして貼り付け、それらの意見を批判するものでした。

・そして、そのスクショの中に、今回のホニャララ氏の投稿が含まれていました。

・私はこのAさんの批判論に賛同し、Aさんのポストをリポストしました(引用ではなく単純なリポストです)。

で。
ホニャララ氏の主張というのは、

「Aさんのポストは自分の名誉を侵害するものである」
「ゆえに、それをリポストする行為も同様に自分の名誉を侵害している」

なるものだったのです。

初見「誰??」となったのは、何しろその人は、フォロー/フォロワーでもないどころか、今までに一度も絡んだことがない……どころか、アカウント名とアイコンにも全く覚えが無かったからです。

訴えに印刷されたAさんのポストのスクショを見てようやく、
「ああぁ……これの話だったの?Σ(゚Д゚;)」
となった次第です。

***

あらためて、内容を整理していきます。

まず第一に、ただのリポストが名誉毀損になるのか?という点なのですが、これは残念ながら「なります」というのが正しく、実際に判例もあります。
有名なところでは伊藤詩織さんの裁判例などがあります。

ですが、伊藤詩織さんのようにもともと顔も名前も身分も全て公表して活動していた人ならいざ知らず、X上に上げている名前も顔も、たとえそれがいちおうリアルっぽさを持っていたとしても、本当に実際の本人のものであるかどうかなど一般ユーザーには確認のしようがありません。

例えば私が、現実に「鈴木一郎」という名前で、それをXの表示名称にしていたとしても、よほど詳細な個人情報レベルのプロフでも併記されていない限りはX上で知り合ったユーザーはあくまでそれも「Xにおけるアカウント名」としてしか見ないでしょうし、私の本名までもが「鈴木一郎」であるかどうかなどそもそも知りようもありません。

もともとそのホニャララ氏と現実世界で関わっているリアルの知人ならば、数少ない情報から「これアイツかな?」と気づくかも知れませんが、Xでしかその人のことを知らないユーザーが、名前やアイコン、プロフといった非常に限定された情報だけで「特定可能な実在する一個人」として侮辱された、とするのは無理があるだろう、というのが率直な感想でした。

加えて、前述のとおり私はシンプルなリポストしかしていませんでしたから、ホニャララ氏の理屈が成立するためには、まずはAさんのポストが名誉侵害だとして認められない限りは成り立たないのでは?というのが大きな疑問としてありました。
ですが、元のAさんのポストに対してはどういう対応をとったか、といった記述などは書面上には一切書かれていなかったため、私は自分のリポストがそもそも訴えられるべきことなのか?という判断材料さえも無い状態でした。

ところで、その肝心のAさんのポストとやらは何が問題視されているの?と思われますよね。
これは内容がどうこうというよりも、Aさんが批判に使った言葉の表現と意味合いに関するものでした。

でも、これはもちろん現状においてはただの言い訳なのですが、その表現というのも、
「これがNGなら、Xで使われている大抵の表現はNGなのでは……?」
という代物で、いまここに至ってもそう思っています。
具体的には書きませんが、Xで検索してみても、昨日今日にも呟かれたものがゴロゴロ出てくるくらいにありふれた表現です。

そして私自身、Aさんのポストは批判として極めて真っ当な内容だと感じていましたし、あらためて読み返してもその印象は変わりません。
ポストのもとになった事件そのものが、私の中で到底看過しがたいものでしたので、Aさんの批判は妥当だと思ったがゆえにリポストしたわけですから。
個人を個人として侮辱しよう、攻撃しようなどという気は一切なく、個人ではなく意見を批判したのだと誓って申し上げます。

それに、これも言い訳にしかなりませんが、私は日常的にも差別表現や罵詈雑言が含まれるポストは、たとえ賛同できる意見であっても極力リポストもいいね!もしないように心がけています。

ですので余計に「これがNGだというのか……」という気持ちが強いです。

***

……といった主旨で携帯会社への回答書は書けるとは思ったのですが、なにぶん私も法律に関してはド素人です。文章として綺麗に書けたとしても、法的な措置にさらされるものにおいて、内容に書いて良いこと悪いこと、書くべきこととそうでないことの判別などつきません。

そこでもう腹をくくって、この時点でネット関係のトラブルに詳しい弁護士さんへ相談して、自分で作成した回答書を添削していただいてから携帯会社へ返送する、ということを実行しました。
もし何かあればこの先も引き続きお願いします……と、弁護士さんにお願いしつつ(TдT)

そうして、できれば何もない事を祈りつつ、また次のレスポンスを待つという悶々とした日々が続きました…。

***

とはいえ、①項で述べたXの時にはあっさり開示されてしまいましたが、プロバイダーなり携帯キャリアの場合は有料契約ユーザーが相手ですので、こうした開示請求に対してはきちんとした回答書さえ送れば、各社の法務部(あるいは顧問弁護士など)がちゃんと戦ってくれるとのことで、よほど明らかな名誉毀損などでない限りは開示請求が通ってしまうことはないそうです。

……それが、ただの「開示”請求”」なら、の話なのですが……。

実は2022年10月より前なら、ここまでの対応だけで無事に跳ね除けられていた可能性が高かったらしいのです。
ですが、この2022年10月に「プロバイダ責任制限法」という法律が改正されてから、開示請求に関する状況が大きく変わったのです。

それが次項③からご説明する「発信者情報開示命令事件」の話になります。


③プロバイダーによる情報開示~訴訟へ


回答書には当然ながら提出期限があり、それを超えると「反論は無い」と見なされてしまうので、文書を書いて何度も推敲し、弁護士先生に添削いただいて修正を加えて携帯会社へ返送、というのはなかなか骨の折れる作業でした。
携帯会社の法務部がきちんと戦ってくれていれば、開示請求は棄却されているはず……と祈りつつ、また数ヶ月が経過した頃。

また携帯会社から簡易書留の郵送物が届いたのですが。
内容は非常に残念なものでした。

実際の書面(一部抜粋、モザイクを入れています)

裁判所の判断により、請求どおりに私の連絡先などが相手方に開示された、という内容ですね。

さすがに落胆し、あの回答書は無駄だったのか……?と思いながら書面をよく見てみると、あることに気づきました。
それは、書面に赤線を引いた部分なのですが、

「発信者情報開示”命令”申立事件」

と、なっています。
私は①項にて、こういった事件はいわゆる、

「発信者情報開示”請求”

と呼ばれるものだと説明したのですが、あらためて先に届いた意見照会書を見返してみたところ、

「開示”命令”を求める申し立て」となっているのに気づきました…。
最初からこの訴えは「開示命令」の申立てとしてなされていた、ということのようでした。

***

この「開示請求」と「開示命令」の2つは全くの別物というわけではなく、情報開示を求めるという意味ではどちらも同じです。

後者の「開示命令」とは、2022年に改正された「プロバイダ責任制限法」によって新たに創設された「発信者情報開示命令事件」のことを指します。

従来の開示請求においては、ここまででご説明した経緯における、

①SNSのサービス会社(X)に対して、請求者から私の投稿に関する情報の開示を求める

②IPアドレスが開示されたら、今度はネット接続業者(携帯電話会社やプロバイダー)に実際の個人情報などの開示を求める

という2つの訴えを、それぞれ順番に裁判所に起こさなければなりませんでした。
①が通った時点で、あらためて②の訴えを起こす、ということですね。

「開示請求」のイメージ図(引用元


ですが、訴える側の視点からすると、裁判所に対して2度の請求を行なうというのは負担が大きいです。
また、全体の期間も最大で1年以上かかっていたことも多く、①を行なっている間に②側でアクセスログが削除されてしまい、せっかく①の開示請求に成功したのにユーザーが絞り込めない、ということが起きていました。

これを解消するため、①と②の手続きを1つにまとめたのが「発信者情報開示命令事件」、すなわち「開示命令」と呼ばれるものです。

「開示命令」のイメージ図(引用元

これにより、訴える側の負担が大きく軽減されるとともに、情報開示が成功した場合に開示されるまでの期間も大幅に短縮されました。

……って、開示請求される側としては厳しい話なわけですが。

この改正に関しては問題点も指摘されており、個人的に思うところもありますので、その辺りも後ほどの考察に回します。

***

その後、あまり日を置かずに、開示された私のメールアドレス宛てに、件の請求者から示談を求める内容のメールが届きました。

が、私はそもそもリポストが「名誉の侵害」であること自体に全く納得していませんでしたので、弁護士と相談の上でこれを無視することにしました。

その後いくらかのやり取りがありましたが、私はそれらの要求を全て飲みませんでした。

***

そうしてさらに数ヶ月が経過し。
諦めてくれたのだろうか……と、淡い期待を抱きはじめた頃。

簡易書留でもなく、内容証明でもない、さらに上の「特別送達」という、おそらく一般人ならば一生に一度も受け取らない人の方が遥かに多いと思われる特殊な郵便形態によって地方裁判所から訴状が届きまして。
(届けに来た郵便配達の方もどうやらあまり経験が無かったようで、受取りの際に慎重に手順を確かめながら渡してきました)

これまた一般人なら生涯で経験することがない人の方が圧倒的に多いであろう「被告」という立場に、私はなったのでした…。


④考察:「開示”命令”」に思うこと


考察の前に一つお断りを。

自分の肝にも銘じるつもりで申し上げますが、私は「被告」です。
どんな言い分があるにせよ、今の私は裁判においては「加害者」の立場です。

ここから先には制度に対する疑問などの見解が多々ありますが、それらは全て個人的な所感に過ぎず、自らの裁判において被害者を気取るつもりはありません。マクロな視点からの一般論で語るように心がけます。
(ただし多少は愚痴っぽくなっている点については否定しません)

……という点のみ踏まえていただきつつ。

先の項で、「開示命令」の施行によって情報開示請求がとてもやりやすくなった、というお話をしました。

「でも、そういうのってお高いんでしょう?(´・ω・`)」

と思われる方も多いかと思いますが、それは各種の手続きやら文書作成を、法律事務所ないし弁護士さんにお願いしたら、の場合です。

もし弁護士さんなどにお願いせずに自分で必要な書類を揃えるのであれば、実は裁判所で払う印紙代の1,000円だけで出来ます

従来は2回の手続きが必要だったが、昨年10月施行の改正プロバイダー責任制限法で導入された新制度では1回で済むようになった。法廷で争う一般の訴訟ではなく、裁判所が被害者からの申し立てに基づいて発信者情報の開示の可否を決定する。申し立て手数料(印紙代)は1件1000円で済む。

https://www.yomiuri.co.jp/national/20231016-OYT1T50063/

詳しいやり方をここに書くのは後述の理由から避けますが、事例が多いのでテンプレート的に使えるものも世に溢れており、ドキュメント作成に慣れている人ならば書面作成もさほどの難易度ではありません。

そんなわけで、制度の改正後から情報開示請求は爆増しています。
期限内に適切な対応が出来ないアクセス事業者には制裁金も課されるということで、Xだけでなく各種プロバイダーや携帯電話会社も、これらの対応に追われて負担が増えている、とのことです。

ん?でも待てよ?
事業者の負担が増えているということは、そこに指示出しをしている裁判所の負担も増えているのでは??

大体これって「制度が簡略化された」とは言っているけれども、それはあくまで利用者側から見ればの話であって、実務にあたる裁判所にとっては、今までは①の手続きが終わって次に進むとなったら②の準備をすればよかったのに、今は①と②の手続きを同時並行で行わなければならないのだから、一度にたくさん来られたら相当に大変なのでは?

……と思って調べたら、これはさすがに裁判所が自ら「大変です🥺」とは言っていないわけですけれども、そうした話もいくつか見つかりました。

昨今、インターネット上の誹謗中傷や名誉毀損が社会的な問題となっている。SNS等の書き込みに対して発信者情報開示請求をする仕組みも簡略化。誹謗中傷への対策を強化するプロバイダー責任制限法の改正も検討されている。

(中略)

簡略化されたことで誹謗中傷を止めやすくなっているのならいいことだ。しかし、問題も起きているという。
開示請求を行っている最中という50代メーカー会社員は、
「SNSで脅迫的な投稿をされたので開示請求を行おうと思い、弁護士に相談したところ、開示請求が殺到していて裁判所が困惑しているから、そこまで切実な状況ではないならやめるよう言われました。1人で100件以上の開示請求を行っている人がいるというのです
と明かした。
このままだと反動があるかもしれない。「開示請求が殺到し続けるようだと今後は開示請求の制度が見直される恐れもあるといいます」(同)

Livedoor News「SNS誹謗中傷の開示請求 仕組みが簡略化され裁判所は困惑か」


手数料が安いとなると、炎上した案件などで、その火元にいた人間が自分を中傷したユーザーを相手取って、一人で数件あるいは数十件という数の開示請求をまとめて出す、ということもありそうですよね。

と、なると。
冷静に考えてみて、なのですが。

私が今回訴えられている件も、私自身は「名誉の侵害にはあたらない」と今でも強く思っています。
実際、きちんと裁判をやった結果として「やっぱり名誉侵害ではないね」となる可能性もまだあるわけです。

ですが、私はすでにそのふんわりした状態であるにもかかわらず、原告には個人情報を握られてしまっているわけです。

つまり、

ちゃんと裁判をして争って精査したら「間違いでした」となるかも知れないことなのに、たったの1000円払うだけで他人の個人情報が手に入っちゃうって、恐ろしすぎないですか?

と、思うのです。

しかも自分が直面してみて痛感しましたが、この費用の負担というものが、訴えられた側にとっては非常に大きな障壁になるのです。

例えば、開示が通って訴訟となった場合に、
「示談金を30万円要求する」
と原告から言われたとします。

これに対抗すべく弁護士を雇おうとすると、だいたい着手金として20~30万円くらいは平気でかかります。
しかも当然ですが弁護士を雇ったからといって必ず勝てるという保証もなく、さらには裁判で勝った場合でも成功報酬を別途に支払うパターンがほとんどです。
(例としては、示談金として30万円を提示した裁判が棄却されて払わなくて済んだ場合、そのうち1割である3万円を成功報酬として着手金とは別に弁護士さんへ支払う、みたいな形式が一般的です)

こうなると、相手の要求額によっては戦うより従った方が安く上がるパターンも多いと考えられますので、相手と手を切りたい一心から裁判を諦めて示談に応じる、というケースも多々ありますし、何なら良心的な法律事務所ほどそちらを勧めてくることすらあるそうです。

つまり、言ってしまうと開示請求が通っただけで、訴えられた側はすでに負け戦状態でしかないのです。

さらに言うと、開示請求を個人で行えば1000円で済むと言いましたが、その後の裁判に関しても、弁護士を雇わずに個人で訴訟を起こすことも可能です。
原告側にほとんど勝てる見込みが無かったとしても、この金銭負担によって「訴える側」であるというだけでイニシアチブを獲っている状態です。

つまり原告側は、たとえ負けたとしても、金銭的な損害は裁判所に支払った数千円の事務手数料で済むのに対して、被告側は勝利してもン十万円の費用がかかるという、試合には勝ったけど勝負にはボロ負けみたいな、なんともひどい負け戦にしかならないのです。

要はこの考察において、私が何を一番言いたいかというと、

「開示請求のハードルを下げすぎたこの制度って、もしかして簡単に悪用できてしまうのでは??」

ということです。

本当はここでめちゃくちゃ書きたい「例えばこんなことができる」みたいな話もあるのですが、我慢しておきますので、それはここまで読んでくださった皆さんの想像力にお任せすることとします。

ここまでお読みいただいて、ある程度の法的な知識がある方なら、
「それってスラップ訴訟みたいなもの?」
と思われたかも知れません。
SNSでも何度か話題になった事案がありましたしね。

ですがスラップ訴訟とは本来、言論弾圧などを目的として、支配者側が弱い立場の人間に対して行なうものを指します。
豊富な資金源を利用して、自らに楯突くものたち相手に訴訟を起こしまくるイメージですね。

そうではなく、というか、今までは資金が無ければ出来なかったようなスラップ裁判じみたことが、個人レベルでも最低限の負担で出来るようになってしまっているのではないかと、私は思っております。

本稿の冒頭で「誰でも巻き込まれる可能性はある」と申し上げたのはこの話です。
僅かな手間賃だけで、誰もが「被告」にされてしまう危険性があるということを、SNSなどを使う上でどうか知っておいていただきたいです。


おわりに ~ ご支援のお願い


そんなこんなありまして。

裁判をせずに示談で済ませる、という選択肢もあったわけですが、今回はちゃんと弁護士さんに委任して争うことにしました。

裁判を受けることにした理由としては、

・そもそも訴えられた内容に全く納得していない
・手軽に情報開示されすぎる現行制度にも疑問がある
・示談金の額が3万円とかなら諦めたかも知れないけれど、あまりに高額だったので覚悟が決まった

という辺りです。

ただ、考察でも述べたとおりですが、資金面は正直かなり苦しいです。
なんとか弁護士さんの着手金は工面しましたが、万が一相手が上告してくるようなことがあれば、先行きの予算感も分かりませんのでさすがに持ち堪える自信がありません。

そのような事情で、この記事がもし有用であると思われたならば、noteのチップ機能からで構いませんので、ご支援を賜りたくお願いいたします。

なお誠に勝手ながら、ご支援につきましては下記の事由をご了承ください。

・個別の御礼であったり、クラウドファンディングのような返礼は予定しておりません。
・最終的に使用用途はお伝えいたしますが、領収書など公的な書類を提示しての細やかな金額明細は個人の特定にも繋がるため出さない方針です。
・私の訴訟に関して情報提供をしてくださったり、あるいは自身も同様の示談金請求をされている方々がおりまして、私自身の裁判をより有利に進めるために、そちらの協力費用にも充当することを検討しております。
・もし上記の充当を行なっても剰余があった場合には、日本赤十字社の「能登半島地震災害義援金」へ送らせていただく予定です。返金には対応致しかねますので、何卒ご了承ください。

裁判の詳細をお伝えできない状態ですので、このような勝手なお願いをするのも無茶なことだとは重々承知しております。
たとえご支援がなくとも、最後までお読みいただけたことに深く感謝申し上げる次第です。

また、「発信者情報開示命令」の怖さを広く知っていただくために、ご支援の有無にかかわらず、この記事に書かれた内容を広めていただければ何よりです。
おそらくは私と同じような事案で困っている方々も相当いらっしゃると思いますので、今後は類似の話に関しまして情報発信や各種協力のための活動もしていけたらと考えております。

裁判の動きについては、状況が許す限り続報をお伝えしますので、引き続きよろしくお願いいたします。

重ねながら、最後までご精読いただき誠にありがとうございました。

(了)


情報開示を受けた後の「示談金請求」とはいかなるものなのか?について掘り下げた話を追加しましたので、よろしければこちらもご覧ください。

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