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しまむらのブランド「バースデイ」の炎上はキャンセルカルチャーか?
こんにちは、フェミニスト・トーキョーです。
今回はちょっと駆け足で、「ファッションセンターしまむら」で有名なしまむらグループが手掛けているベビー・トドラー向けブランドの「バースデイ」で販売されていた、デザイナーコラボ商品の炎上について取り上げてみます。
タイトルの通り、これまで何度か起きた企業のキャンペーンや広告に対する拒否反応から発生した、いわゆる「キャンセルカルチャー」と呼ばれる炎上事件がありましたが、今回のこれもまたキャンセルカルチャーではないのか?というご意見がありましたので、それについて考えてみようと思います。
ざっくりですが炎上の概要を。
Xにおける下記のポスト、バースデイが加賀美健さんというデザイナーとコラボして販売していた下記の商品について、でした。
7/29(月)より全国のバースデイ店舗で販売します。
— バースデイ@しまむらグループ (@birthday_gr) July 28, 2024
7/29(月)9:00よりオンラインストアでも販売します。
加賀美健さんの新作アイテムのご紹介です。
今回はいつものフレーズシリーズに加え小さな子供の言い間違えシリーズなどなど新しいデザインが盛り沢山。
▽詳細はこちらhttps://t.co/ezC8oW4gWX pic.twitter.com/8IFatJtW1d
特に主たる問題とされたのは、4枚めのくつ下の商品群のうち、右上にある一つです。
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拡大すると、
「パパは全然面倒を見てくれない」
と、書かれています。
このポストで私が最初に気になったのは、商品展開がしまむらではなく「バースデイ」ブランドだったことです。
バースデイは、しまむらの中でもベビー・トドラー(乳児~幼児向け)の製品を扱うブランドです。
これが普通のしまむらにある面白系くつ下のコーナーで、自虐ネタを前面に打ち出した感じで売られているような商品ならともかく、ブランドそのものが異なるので、購買ターゲット層は当然ながら、いままさに子育てをしている世帯・世代を照準にしていると考えるのが自然でしょう。
さて。
その上で、写真のくつ下に書かれたコピーたちを全て並べてみると、以下のようなグループ分けが出来ると思います。
Aグループ:子どもの素朴なセリフ(子→親)
「ママがいい」
「パパママいつもありがとう」
Bグループ:子どもの言い間違い(子→不特定多数)
「へりぽくたー」
「くくった」
「だなな」
Cグループ:親の気持ち(親→子)
「うちの子一番」
「うちの子かわいい」
「うちの子最高」
Dグループ:???(???→???)
「パパは全然面倒みてくれない」
こう分けてみると分かるのですが。
Dの1つ、今回の原因となったコピーだけが明らかに異質なのです。
丸括弧は(発信者→訴える相手)として想定されるものを書いていますが、そもそもこれ、誰から誰に向けている言葉なの?ということすらよく分かりません。
いや、というか残念ながら、簡単に解読できてしまうのですが…。
この1つだけは母親から父親に向けて言っているただの愚痴になっているのです。
読みようによっては、子供→父親では?と思われるかもですが、AとB、それからCを順に見ていただくと分かるのですけれど、このデザイナーさんは、子供が喋っていると想定されるセリフはひらがなとカタカナだけで、かつ簡易な言葉で書き、Cのように大人が喋っている言葉にはちゃんと漢字を混ぜています。
ですので必然的に、Dは大人が大人に向けて話しているものだと見ることが出来ます。
そして、主語が「パパ」なので、父親→母親でもないことも明らかなわけでして…。
こうした認識が多くなされたことで、当該ポストは引用もリプ欄もバッシングの嵐になり、この商品群はメーカーにより販売中止の判断が下されることになりました。
— バースデイ@しまむらグループ (@birthday_gr) July 30, 2024
繰り返して言いますが、私はDグループの1つだけがやけに異質だったと考えています。
先の商品群、A,B,Cだけだったらおそらく炎上などしなかったと思うのですが、わざわざDのようなものを加えたのは何故かと考えると、正直これは言いたくないのですけれども、感情は抜きにしてマーケティング的な視点から見たとしても、
「このセリフを見て『そうだそうだ』と喜び、面白がって購入する消費者が存在するはずだと、ある程度の確信があったから」
であろうと推測しています。
何故そう思うかと言えば、一般的な商品企画の場合、実際にはデザイナーさんには製品化されなかったボツ案がこれ以外にいくつも、あるいは大量に存在するのが定石だからです。
少なくとも、デザイナーさんが上げてきたものをそのまま右から左へと受け流して商品化、なんてことを一般企業で行なうはずはなく、いくつもある案の中から実際にどれとどれを商品化するか、という検討が社内で必ずあることでしょう。
その上で選ばれたのが先の9種であるわけで、Dグループの1案についても「売れる」という、少なくとも社内の人間を説得して稟議を通せるレベルの根拠は存在したから製品化されたのだろうと思っております。
ここで、この記事のタイトルにも入れている「キャンセルカルチャー」とは何か、についてあらためて確認してみましょう。
キャンセルカルチャーは明確な定義があるわけではありませんが、概ね以下のような解釈で通用するものでしょう。
キャンセルカルチャーとは、社会的に好ましくない発言や行動をしたとして個人や組織をSNSなどで糾弾し、不買運動を起こしたり、ボイコットしたりすることで、社会から排除しようとする動きのこと。
具体的にはメディアやSNSを通しての猛批判、テレビ番組やCMへの出演停止、番組の放映中止、解雇・解任、出演作品を観ない、著作を読まない、製品を買わないといった、支持や支援を取りやめる(キャンセルする)行為や呼びかけを指す。
これを読むと、確かに今回、炎上によってあの商品群が販売中止に追い込まれたことはキャンセルカルチャーであると見ることが出来るかも知れません。
でも、私はちょっと違うことを思いました。
定義を見返してみると、
キャンセルカルチャーとは、社会的に好ましくない発言や行動をしたとして個人や組織をSNSなどで糾弾し、不買運動を起こしたり、ボイコットしたりすることで、社会から排除しようとする動きのこと。
と、あるわけですが。
これがキャンセルカルチャーならば、そもそもあの商品においてDグループの1作を加えたことは、育児という文化において男性の参加を滞らせることに繋がりかねない、いわばあの商品自体が男親を糾弾しキャンセルしようとしている代物だと思うのです。
炎上の中で、批判に対する反論として、
「こんなことで怒る父親は器が小さい」
「マジになっちゃう弱者男性」
といったものがありました。
いちいち、一部をみて、
— はせにい|メンズヘルスコーチ・こーじ|男のアンチエイジング (@hasehase28) July 30, 2024
パパディスりとか、昭和の感覚と叩くやつが多くてワロタ🤣
逆ならもっと炎上するだろうけど、
こんな程度で怒るパパは器小さいと思うよ。
こんなことでマジになっちゃう弱者男性 自分らが嫌ってるフェミと一緒になっちゃってる事に気付いてない
— 秋山 (@saikyouakiyama) July 30, 2024
これらはひどい揶揄のようにも見えますが、当該商品の「パパは全然面倒を見てくれない」というコピーは、というかバースデイというブランドは、残念ながらこれらのひどく見える意見をそのまま肯定してしまっているのです。
このくつ下は子供用ですから、家庭でこの商品を購入した場合、父親はこれを履いている自分の子供を文句を言わず許容しろ、ということになります。
つまり、先の揶揄にあった「男がこの程度のことで騒ぐな」といったような、男性に対して強要される前時代的なジェンダーロールを父親が呑み込んでいることが、この商品が存在できる前提であるからです。
育児というのは、それ自体が国により地域により時代によって変化しているカルチャーであると私は考えます。
そして現代においては、父親と母親による、ワークライフバランスを踏まえた上での、積極的かつ互いに承諾された育児というのが文化の中心になりつつあり、社会としてもそこを目指すべしとされています。
厚労省もそうした考え方を踏まえたガイドブックを、父親向けに配布しているほどです。
そうした潮流の中で、ベビー・トドラー向け商品を標榜するブランドが、旧態依然としたジェンダーロールを許容することを前提とした商品を販売するというのは、大袈裟ではなく、新しい育児文化に対するキャンセルカルチャーではないのか、とさえ思っております。
あるいは元ポストの引用やリプ欄にも数多くあった意見として、
「これをユーモアの範疇として父親に許容しろというのなら、同様のコピーを父母で逆にしたものを販売し、それを母親にも許容せよと言うのが”平等”というものではないか」
といった話もあります。
これ自体はいちおう理に適っているとは思うのですが、これもこれで幼稚なやり取りに発展しかねませんので、個人的には好きではありません。
できれば賢明さを持って、片一方をdisることでもう片方を喜ばせるなんていうやり方はそろそろ終わりにして、双方を褒めあうことで互いを幸せにするようなもので界隈を埋め尽くしていって欲しいと思います。
と、ここまで書いておきながら何ですが。
グローバルではなく局所においてならば、「こんなのはネタだから、気にするほうが馬鹿らしいな」として許容するような、そうした考え方はもちろんあっていいと思っています。
いちいち理詰めで考えていたらギスギスしますしねw
ただ、個人によってどこまで許せるかのキャパシティは異なりますから、Aさん宅では笑い話になっても、Bさん宅ではケンカになる、ということもあるでしょう。
でもそれもまた、夫婦なりの距離感とか、個人の価値観によるものなわけですから、そこは家族の中できちんと話し合い、理解しあっていって欲しいと願います。
世の中的にはこうなのに、なぜうちの相方は、なんて考えるのは一番よくないと思いますから。
貴方のパートナーは、貴方だけのパートナーです。
世の中的には許されていても、その人の中では許せない。あるいはその逆といったこともありますよね。
世間に迷惑をかけるようなことでないのなら、時には世界の常識を捨てて、その家庭だけのローカルルールを適用してもよいのでは、と思います。
(了)
最後までご精読いただき、誠にありがとうございました。