デジタル雀士の"脆弱性"を攻撃する最強AI 「Suphx」! (戦術本レビュー)
こんにちは。
今週 7/13に発売された、お知らせ著「世界最強麻雀AI Suphxの衝撃」が良書だったため、簡単なまとめとレビューを書きたいと思います。
▼まとめ
Suphx は、押し返しのためのスリム化を多用する!
この本を読んで、我々も「デジタル雀士」をメタる打牌をインストールしよう!
1.Suphx とは? 著者:お知らせ氏とは?
この本の主役となる 「Suphx」とは、マイクロソフト社が開発した麻雀AIである。
読み方は、スーパーフェニックス。
オンライン麻雀「天鳳」において、10段を達成した。
成績は天鳳位にも引けをとらないほどだという。
しかし、勉強用に、そのSuphxの牌譜を読んでも、残念ながら、意図を汲める人は多くはないと思われる。
なぜなら、自分より上手い人(AI) の考えていることはわからないからである。
そこで登場するのが、著者の 「お知らせ」氏である。
お知らせ氏は、14代目の天鳳位で、実力は申し分ない。
本書では、Suphxの打牌意図を、天鳳位のお知らせ氏が解説することで、Suphx の考えていることや、AI によって麻雀がどのように変わるかを細部まで知ることができるのである。
2.「デジタル雀士」とは。
最近は、麻雀研究が進み、統計データなどの情報も増えて、戦術が2000年代と比べて大きく変わった。
スピード重視の展開であったり、カンチャンでも即リーといったような戦術が当たり前になった。
また、ベタオリを皆がするようになり、先制リーチが強い戦術とされてきた。
"先切り" もメジャーな戦術ではなく、外側牌が信頼されることもある。
速度を重視し、「低打点」「愚形」のリーチも厭わない現在の戦術に対して、最強AI 「Suphx」 はこの速度重視の戦術をメタるように、押し返せる手組みを組む戦術を取っていると感じた。
以降の章で、現代のいわゆる「デジタル雀士」をメタる戦術にどのようなものがあるかを紹介したい。
3.「押し返しのためのスリム化」とは。
本書のメインテーマ、および、Suphx の最大の特徴として取り上げられているのが、「スリム化」である。
麻雀でいうスリム化とは、先制リーチに備えた手組みをすることを指すことが多い。
他家の先制リーチに押し返すために必要なものは、以下3つである。
・打点
・良形
・聴牌打牌の安全さ
中でも、Suphx は聴牌打牌の安全さの評価が高く、
Suphx は様々なタイミングで他家からリーチがかかったときのことを考慮し、押し返す際に放銃しないことを意識しているとのこと。
当然アガリを目指すためには受け入れを広げてシャンテン数を進めなければなりませんが、「リーチ」と聞こえた瞬間多くのノーテンの手牌から進めた価値が消失し、手牌価値 ≒ 安牌枚数に入れ替わります。この逆転現象が結構な頻度で発生するため、特に中盤以降は安牌を持つ必要が生まれがちです。
「世界最強麻雀AI Suphxの衝撃」P28より
このような打点変化・良形変化・聴牌打牌の安全さを取るためには、14枚手牌に空きスペースが必要である。
Suphxには、浮き牌を持つスペース作りのために、5ブロック打法を積極的に意識している。
5ブロック打法 だが、こちらは割と浸透している戦法だと思う。
南場・東家 4巡目
この牌姿で、Suphx は 打6s とした。
説明するまでもないが、麻雀の和了形は4面子1雀頭で、5ブロック必要である。
両面と、役牌対子で、5ブロックあるため、最も弱いターツの 68s落としとなる。
このようにSuphxは、ブロックが余っていてそれらに明確な優劣がある場合は、最弱ブロックを払っていき、安全牌や打点の種を残す打牌選択をする傾向がある。
一般的な5ブロック打法は、フォロー牌を抱えて、一向聴時の受け入れをより多くするのが目的であった。(イーシャンテンピーク理論)
Suphx は、二向聴時は2枚、一向聴時は1枚分、空きスペースを作ることで、その空きスペースで押し返すために打点、良形変化の種や安全牌を抱え込むことを目的に5ブロックで打っているようにみえる。
空きスペース作りのためには、現代の常識も破壊するのが Suphxである。
4ブロックにしてまで、打点を目指しに行く場合もある。
南2局・北家 36,100点持ちトップ目 ・5巡目
ここから、Suphx は打5pとした。
このような和了りの価値が高い局面で、打点を取りに行くことから、フラットな場でも、打点を取りに行くことが多いということがわかる打牌である。
4.余剰牌の優先順位
さて、早めにブロックを絞り、余ったスペースで押し返すのための、打点変化・良形変化・聴牌打牌の安全さ の余剰牌を持つのがSuphxだと紹介したが、優先順位はどうなっているのだろう。
結論としては、超序盤(目立った動きのない1段目)は、
打点変化> 聴牌打牌の安全さ > 良形変化
序盤以降は、
聴牌打牌の安全さ > 打点変化> 良形変化
である。
ポイントは、"聴牌打牌の安全さ" の評価の高さ と、 良形変化および受け入れ枚数増加の軽視 である。
たとえば、
「世界最強麻雀AI Suphxの衝撃」P100より
南1局・南家 点差の開いた3着目 7巡目
25p、36s受けの一向聴で、余ったスペースで 断么九・平和 の打点の種である7mを保持している状態。
このような自分ワンチャンスの7mであっても、Suphx はより安全度の高い1sと入れ替える判断をした。
記事を書きながらも、私はツモ切りしたほうがいいのではと思ってしまうが、Suphx の意図を汲みながら打牌選択をしていきたい。
(本書には、より詳しい打牌意図が書かれているのでぜひ買ってみてください。)
次に、良形変化および受け入れ枚数増加の軽視 について。
Suphx は良形フォローは積極的に先切りしている印象があるほど、良形フォロー牌の評価が低い。
良形フォロー先切りだが、どちらかといえば昔流行ったイメージの戦法である。(少なくとも私にとっては)
南二局・南家 2巡目
ここから、Suphx は 打2s である。
1巡目は、西を切っていることから、ただ先切りとして1sの出和了りしやすさ、安全度を取って選択しているのではなさそうである。
2sと南、發 との比較で、役牌>2s という判断に至ったと考察されていた。
Suphx は、打点の下がる受けは積極的に先切りしている傾向があると本書にも記載があった。
また、本の最後には、
むしろ序盤を除き、リャンメン×2 + 完全安牌の構えこそが「完全な」1シャンテンなのではないでしょうか。
との記載もあり、Suphx の影響で、完全イーシャンテンの定義が変わる日も近いかもしれない。
以下、有料記事だが、統計的にも安全牌残しの優位性が示されている。
5. まとめ
安全牌の比重が多い Suphx の打ち方を見ると、テレビ対局などでよく見る麻雀プロの打ち回しに似ているなと感じた。
ネット麻雀をしていると実力差のある人との対戦も多く、80点打牌をすることでミスを少なくして戦うのが正攻法と言われがちである。
麻雀プロは、限られた面子での対戦でが多いため、その80点打牌を咎める打ち方をしている人も多く、なかなか正攻法では伸び悩む場合もあると思う。
今回紹介した Suphx によって、一般層にも打牌が広まる要素になると思っていて、実力差がなくなるのではとも考える。
(たとえばポーカーも、先にAIが開発されて既に似た状況になっており、"PokerSnowie" という一手一手レビューしてくれるソフトがある。)
そうなった場合、その Suphx 戦略に勝つ戦略を取る必要があるため、備えておく必要がありそうだと感じた。
ポーカーの "GTO戦略" と "エクスプロイト戦略" が似たような関係になっていて、麻雀もそのような関係になるのではと予想する。
Suphx が ネット麻雀層の隙を突く "エクスプロイト戦略" を取っているなと感じたため、今回のタイトルにしました。
そして、まさに Suphx の行っている戦略が、現在のネット麻雀層(デジタル雀士)に刺さる戦略だと思うので、うまくこの戦略を取り入れていきたい。
そして、このSuphx戦略を取り入れるためには、その余剰牌がどのような役割があるかというのを正確に把握する必要があると思うので、改めて牌理を学習しようと思えました。
次回は、牌理について学習した内容をまとめます。
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