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クリスマスの思い出オムニバス【前編】

HSPは場面記憶が鮮明だと言われるが、私も昔のことを細部までよく覚えているねと言われることが多い。
しかし寄る年波には勝てず、懐かしい記憶が忘却の彼方へ消えつつある。
そこで今回は、クリスマスの古い思い出をオムニバス形式で書き残してみたい。

①赤いソノシート盤つき音楽絵本

もう半世紀も前になるが、子供の頃の私はこの季節になるとクリスマス用のレコードを聞くのが楽しみだった。
特に思い出深いのは、音楽絵本。
物心ついた時には家にあったので両親が姉のために買ったのだと思うが、赤ずきんちゃんと狼が登場するその絵本には、赤色のセルロイド製ソノシート盤がついていた。

私は音楽劇仕立てのそのレコードを、母にうざがられるほど何度も繰り返し聞いた。(レコードに針を置く操作は子供には難しく、いちいち母に頼まねばならなかった)
おかげで物語の中の歌やセリフは、断片的ではあるが私の潜在意識に深く刻まれ、クリスマスがくるたび頭の中でリフレインするのだ。

その物語は、お腹を空かせた狼が森をさまようシーンから始まる。

クリスマスの夜、お腹を空かせた一匹の狼が食べ物を分けてほしいと森の住人達の家を訪ね歩く。
しかし嫌われ者の狼は・・・

〽くまさんのうちでも 
「あっちいけ!」
〽やぎさんのうちでも
「あっちいけ!」

狼は、熊さんの家でも山羊さんの家でも門前払いなのだ。(猿さんもいたかも?)

〽お腹を空かせた狼は フラフラ辿り着きました  
赤ずきんちゃんのうちの前

赤ずきんちゃん「あら狼さん、どうしたの?」

・・・という感じで続くのだが、はっきり覚えているのはここまで。
後のあらすじはこんな感じだったと思う。

狼はどの家でも門前払いを食らったことを打ち明け、今までの自分の行動を詫びる。
赤ずきんちゃんは、もう二度と乱暴をしないと狼に約束させ、集まってきた森の住人達とも仲直り。
皆で仲良くクリスマスパーティーをしましたとさ。

わが家にはこれ以外にもクリスマスソングが入ったLP盤があり、こちらもよく聞いていた。
LP盤には今はほとんど耳にしなくなったスタンダードナンバーが何曲も入っており、明るい曲だけでなく悲しげな「トロイカ」なんかも入っていた。

ふと、トロイカは冬の歌ではあるがクリスマスソングなのか?と思い調べてみると、歌の4番目にクリスマスが出てくる。

〽クリスマスも近いが あのこ は嫁に行く
金につられて行くなら ろくな目にあわぬ

「トロイカ」より

いわばロシア版「クリスマス・イブ(by山下達郎)」、つまり失恋ソングだった。

LPの中で私が一番好きだった曲は「もみの木(O Christmas Tree)」。
今でも大好きな曲だが、子供のくせに厳かな曲が好きなだったんだなぁと思うと同時に、幾つになっても人の本質って変わらないものだなとつくづく思う。

②痛いクリスマス

子供の頃、我が家は父の冬のボーナスが出ると県内唯一のデパートに出かけるのが恒例だった。
しかし、よその家の子のようにデパートの屋上遊園地で遊んだり、最上階のレストランでお子様ランチを食べたりは出来ず(お昼は一旦デパートを出て近くのラーメン屋で食べていた)、デパートでの買い物は幼い私にとって恨めしいだけの苦行でしかなかった。

あれは4歳くらいの頃だろうか、私は長い買い物につき合わされ、かなりグズっていた。
婦人服売場で母に叱られながらグニャグニャしていると、私はガラスの陳列ケース(当時は服飾売場にガラス戸のついた陳列ケースが多用されていた)に追突してしまったのだ。

陳列ケースのガラスは割れ、私のおでこは血だらけ。
当然激しく泣きわめいた。
売り場は一時騒然となるも、店員さんはテキパキと私達親子をデパートの医務室に誘導した。
父に抱えられ泣き叫びながら通った従業員通路はまるで病院みたいに無機質で、ますます恐怖心を煽られたのを覚えている。

医務室での治療を終えると、母と姉があまりかわいいとは言えないお馬さんのぬいぐるみを私のクリスマスプレゼントとして買っていた。
泣き疲れていた私は、リカちゃん人形を買う約束だったことも忘れお馬さんを抱きしめた。

自分の不注意が発端とはいえ、こうして私は、母と姉の策略により念願のリカちゃん人形を買ってもらうチャンスを逃し、バーゲン品とおぼしき馬のぬいぐるみでお茶を濁されたのだった。

怪我が治った頃、私は「クリスマスプレゼントはリカちゃん人形の約束だったはずだ」と母に訴えた。
しかし母は「あんたのせいでガラスケースを弁償させられたから、お金が無くなったんだよ」と言い退けた。
本当に弁償させられたかどうかは知らないが、吝嗇家の母の一面が窺い知れる苦い思い出である。


長くなったので、後編に続きます。

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