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悲願のビッグイヤー|マンチェスター・シティ×インテル|22/23 CL 決勝|マッチレビュー

いよいよ22/23シーズン。欧州サッカーのクライマックスを締めくくるチャンピオンズリーグ決勝戦。この一戦に挑んだ2チームは悲願の初優勝を狙うマンチェスター・シティと13年ぶり4回目の優勝を狙うインテルの一戦となった。

試合は決勝戦らしく、ヒリヒリ緊張感たっぷり。我慢強い戦いが求められる試合に。それでは簡単ではありますが試合を振り返っていきたいと思います!

▪️シティの対インテル戦術

ボールの主導権はおおよその予想通りシティが握っていき、インテルが5バックをベースにしたブロックを形成してゲームが流れる展開となった。

インテルはいつも通り。どちらかと言うとこの試合の為にいつものやり方を変えたのはシティだった(プレミアリーグ最終節。ブレントフォード戦でも実践した形とは似ているが)。

シティの最終ラインに並んだ4人は右からストーンズ、アカンジ、ルベン・ディアス、アケ。ボールを保持すれば右SBのストーンズがロドリの横に入って偽SBを発動させて、後方3-2の五角形でビルドアップするのだろうと思っていたが違った。

右SBストーンズの立ち位置がいつもよりも高かった。ロドリと2CHを形成すると言うよりも、右のIHのような立ち回り。右のハーフスペースで積極的にボールを引き出し関わっていった。

それではストーンズがこの位置に入ることで全体の配置はどうなったのか整理していこう。

後方は右からアカンジ、ルベン、アケの3バック。アンカーのロドリはその頂点に入り後方に菱形を形成。そしてその前に右SBストーンズを加えた3人の選手が中盤に並んだ。右のハーフスペースにはストーンズが。ど真ん中にギュンドアン。左のハーフスペースにデ・ブライネが位置どり、両ワイドの幅はベルナルドとグリーンリッシュが担い、ワントップにハーランドが立つ[3-1-5-1]のように陣形でボールを動かし、インテルのブロックの泣き所を狙う配置なのかなと伺えた。

インテルの[5-3]ベースのブロック対して明確な配置の違いを見せたシティ。この配置によってどんな狙いがありどんな効果があったのか紐解いていこう。

▪️[3-1-5-1]の狙いとインテルの対応

インテルの守備ブロックはベース[5-3-2]。この強固な壁を打ち破る為に、ペップが狙ったエリアがインテルの中盤ハーフスペースだった。インテルの5バックの大外を担うWBの手前のエリアであり、インテル3CHの脇のハーフスペースのエリア。

そのエリアにデ・ブライネとストーンズを配置する[3-1-5-1]を採用していった。

シティは後方3枚でボールを保持。その為インテルが2トップで出てくると数的優位の状況が出来上がり、悠々とボールを持ち運べる状況に。

シティの最終ラインがフリーで前方にスペースがあれば当たり前のように運ぶドリブルで前進し、プレスをずらされてしまう。

そこでインテルは3CHのサイドを担うバレッラが一列上がって2トップ共にシティの3バックに噛み合うようにプレスに出るシーンも。

しかしそうなるとハーフスペースに立つデ・ブライネとストーンズがフリーに!これがペップがこの配置を採用した一つの狙いだったはず。バレッラを3バックまでつり出してハーフスペースに立つデ・ブライネにパスを届けられればシティの攻撃は一気にスピードアップ!と言う青写真を描いていたのかもしれないが、そう簡単にインテルの分厚い壁は破れなかった。

インテルは3つの縦スライドを加えてシティのビルドアップを妨害しにいった。バレッラの一つ目の縦スライドに合わせて周りが素早い連動性を持って、シティをボールサイドへ追い込んでいった。

インテルの対シティ.プレス①

これによりロドリとハーフスペースに立つ選手のスペースも消し去ることに成功したインテル。シティの後方の選手が迷うそぶり。そこから中盤に刺さった縦パスを引っ掛けてショートカウンターへ移行できそうなシーンを作り出したが、シュートまで持ち込むことは中々できなかった。

その要因となったのはルベン・ディアスの存在。ルベン・ディアスは前半だけでインテルのカウンターをペナルティエリア外で3回もシャットアウト。インテルの決定機になりそうなシーンを試合を通して何度も何度も遮断。彼の集中力、パフォーマンスは試合が終わるまで下がることなく、最後までインテルの前に立ちはだかる存在となった。

インテルの3つの縦スライドによりシティはボールは保持できるが、前進がなかなかできない。または時々ボールを引っ掛けられてショートカウンターを食らう展開に。中盤へのパスコースを消されたシティは大外に張るWGへのパスコースが増えていったがそこもインテルのWBがタイトにマーク。外への逃げ道もジリジリとインテルに封じられていったシティ。しかしそれでも中盤を打ち抜き、インテルの分厚い壁に亀裂を入れるシーンも見られた。

この中盤の鍔迫り合いからどちらに決定機へ転がるか?という展開は前半の大きな見どころだった。

中盤のバレッラ一列前に出たことで、シティの中盤には構造的に数的優位に。その数的優位を生かして前進した前半26分のロドリ→ギュンドアン→デ・ブライネ→ハーランドという崩しは完璧だった。ゴールにはならなかったがシティは中盤数的優位を瞬間的に生かしたシーンだった。しかしそれ以外は中盤の数的優位を生かしてシティは前進することはほとんど出来なかった。それだけインテルの[5-3]ブロックは緻密で連動性抜群。そして運動量の豊富さで中盤の数的不良を覆い隠していった。

インテルの対シティ.プレス②
インテルの対シティ.プレス③

▪️4CBのメリット発揮

次はシティのボール非保持の話へ。シティの右SBにウォーカーではなくストーンズが起用されたことで、シティの最終ライン4人はCBができる選手が並んだ。これは今季のペップ・シティの新たな試みの一つの形である。

4人のCBが最終ラインに並ぶことで生まれる高さと対人守備力のアップ。この試合でもそのメリットは発揮されて、インテルに長いボールを蹴らせてボールを回収するシーンを見せた。また押し込まれた際に降り注ぐインテルのWBからのクロスも跳ね返し続けた。

確かに最終ラインに4人のCBが並んだことで空中戦の勝率が高ったのはもちろん、前線からのプレッシングもその勝率を上げる要因となった。

インテルは相手のハイプレスを剥がす事を苦にしないチーム。GKオナナを加えてビルドアップは非常に精度が高いチーム。

インテルはボールを保持するとWBが高い位置に上がり幅とり。後方に残った3バックとオナナ、アンカーに入ったブロゾビッチを屋台骨にボール保持そして前進を試みる。相手の出方に合わせて3バックの中央アチェルビが一列前に上がってブロゾビッチと2CHを形成することも。

これに対してシティはWGのグリーリッシュとベルナルドが外切りプレス。トップのハーランドは中盤に下がってデ・ブライネ(orフォーデン)がインテルのブロゾビッチとアチェルビを監視。インテルのIHバレッラとチャルハノールにはロドリとギュンドアンが監視。幅をとるWBにボールが入るタイミングでシティのSBが最終ラインから縦のスライドで対応。そして2トップにはルベン・ディアスとアカンジがマークにつく、ハーフコートマンツーマンでハイプレスを仕掛けたシティ。

ボールを持ったGKオナナから先のパスコースを遮断しに行ったシティ。しかしこうなった状況でもインテルは逃げ道を持っているのがまた彼らの強みである。それが前線の高さを持つジェコ(orルカク)や右WBダンフリースへのロングボールでハイプレスをひっくり返す戦法だ。

長いボールで前進を試みるインテルだがそこに立ちはだかったのがシティの4CBだった。ジェコにはルベン・ディアスが。ダンフリースにはアケが空中戦勝負でそう簡単に負けない。空中戦のこぼれ球を拾ってインテルが高い位置でスピードアップするシーンを作ったのも何度かあったが、インテル側からしたらもっとその回数は増やせた勝算はあったのではないかと見解している。

特にルベン・ディアスは空中戦での強さも際立っていた。先程もルベン・ディアスの守備貢献の話をしたが彼が何度インテルのチャンスを事前に潰していったか。試合終盤まで彼の集中が切れることなく、ゴールマウスに鍵をかけたマンチェスター・シティだった。

▪️らしさ詰まったゴール

ヒリヒリする展開となった前半はどちらもゴールを奪えずにスコアレスドロー。ストレスの溜まる展開の中ペップは何か変えるのか?と思ったが、ペップは変えずに前半の戦いぶりを貫いていった。変化を加えていったのはインテルだった。

インテルは57分予定通りジェコに変えてルカクを投入。それに伴い守備プランを変更。前に出ていたバレッラは抑え気味となり中盤に待ち構えるように。[5-3-2]でシティのボールを高い位置で奪う!から、待ち構えて奪う!へ変更。カウンターの切れ味を残す為にラウタロと投入されたルカクはより前線で残るように。

そうなればシティの3バックに前半よりも時間とスペースが与えられることに。彼らからより精度の高い縦パスが入るように。

またシティの3バックの1人1人が持てる時間が増えたことで、シティの前線の選手たちはボールを受ける準備する時間が増える。またはシティの前線の選手たちが動き回れる時間が増えることで、ポジションチェンジをする時間が増えインテルのマンマーク気味のプレスを引き裂くシーンが見られ始めた。

そして67分ペップ・シティが均衡を破った。このゴールが入る前の2分30分間。そしてゴールシーンにはペップ・シティらしさが詰まっていた。ボール保持→ポジションチェンジ→インテルのマークかき回す→ずれた所アタック→トランジションプレスの繰り返しでインテルの陣形を少しづつ壊していった。

そして67分ペナルティエリアの左でボールを受けたフォーデンが一度ドリブルでペナルティエリアから出て、右のハーフスペースへ上がってきたアカンジヘパスを供給。

右のハーフスペースにいるはずのストーンズはどこへ?彼はこの時右の幅を取っていた。これによりインテルの左WBディマルコが外への意識がより強くなりインテルの守る左サイドのポケットが開門。

そこへ持ち上がったアカンジから優しいスルーパスがベルナルドへ入る。パスを受けたベルナルドはよりポケット深くへボールを前進させクロス。このクロスはインテルのDF陣に当たりマイナスのコースへ。そしてそこへ走り込んできたロドリが綺麗なインサイドキックでゴール右隅に流し込みシティが先制!

ボール保持からの前進。トランジションプレスで即時奪還。6トップでインテルの5バックを広げ。最後はポケットからの決定機演出で奪ったゴール。非常にペップ・シティらしさが詰まったゴール。ペップ・シティが積み上げてきた結晶が詰まったようなゴールが試合を動かした。

▪️猛攻凌いだシティ

先制点を奪って残り20分。シティは重心やプレー選択がやや後ろ後ろへとなっていった。対するインテルは当然一点をとりに猛攻を仕掛ける。

失点後すぐにゴセンスとベッラノーヴァを投入して両WBの人選を変更しサイド攻撃の強度を再生。長いボール→セカンド回収→ワイドへボール供給→クロス攻撃を繰り返しシティのゴールへ再三迫っていったインテル。

シティも疲れの見え始めた右SBストーンズに変えてウォーカー投入して守備の強度を上げる試みをしたがインテルの勢いを止められない。ただただ耐え凌ぐ時間帯が増えていった。

クロスに対してもアンカーのロドリを含めるとインテルのクロス攻撃にも十分に跳ね返せる構造だったが、疲れの見え始めたシティのWG(ベルナルドとグリーリッシュ)のインテルのクロスを上げるWBへのアプローチが遅くなったっていった。そうなるとインテルの大外から入るWBがフリーとなり何度もクロスを折り返されてピンチを招いていった。

しかしシティはそれでも耐え凌いだ。耐える時間はしっかり耐え切れるのが今季のペップ・シティの強みの一つ。GKエデルソンとCBルベン・ディアスを中心に耐え凌ぎ、そして待ち望んだ時を迎えることに。

シティがロドリの1点を守り切り、チャンピオンズリーグ決勝戦を勝ち切った。

▪️悲願の悲願のビッグイヤー

ペップがマンチェスター・シティに就任して7シーズン目。やっとの思いで掴み切った悲願のビッグイヤー。

国内タイトルを総なめにしてきたペップ・シティだが、チャンピオンズリーグのタイトルだけは非常に遠い存在だった。思い返せば色んな思い出が鮮明に脳裏に思い浮かんでくる。本当に心が折れる敗戦を一度だけではない。何度も何度もしてきた。しかしその度に彼らは立ち上がりチャレンジを繰り返し、そしてその度に出来ることを増やしていった。

出来ることが増える=チームが強くなる。

確実に確実に自分達の弱点と向き合い、チームを新陳代謝させながら、チームを上向きにさせ続けたペップ・グアルディオラ。

そしてその成果がやっと実った7シーズン目。インテルとの決勝戦は決してペップ・シティらしさが詰まっていたのか?と聞かれればそうではなかったかもしれない。戦った彼らもそう思っているのかもしれない。しかしそんな状況でも勝ち切る。悪いプレーだとしても勝ち切る。耐え忍んで勝ち切ることが出来た。それもまた彼らが味わった敗戦や経験から得た強さだと私は思っている。

私はペップが好きでマンチェスター・シティを見始めた。しかし次第に私はマンチェスター・シティというチームのファンになっていた。ペップがマンチェスター・シティに就任してもっと早くビッグイヤーを掲げていたらここまでマンチェスター・シティというチームへ思い入れはなかったかもしれない。しかし遠回りをしたからこそこのチームを好きになっていった。訪れる逆境に立ち向かうペップの姿。チームの姿を何度も何度も見る度に勇気をもらい、サッカーの奥深さを学ばせてもらった。そして次第に私はこのチームの虜になり、このチームが好きになっていった。

だからこそ彼らがビッグイヤーを掲げられたことを心の底から喜んでいる。本当におめでとうございますという気持ちで一杯だ。歴史の1ページが描かれた日の目撃者になれたことを本当に感謝しています。

そして私の幸せはまだ終わらない。この欧州で1番強く、大好きなチームが日本にやってきます。お陰様でマンチェスター・シティが日本で試合する2試合共にチケットをゲットすることが出来ております。またその試合の感想は共有させていただきたいと思いますのでお楽しみ!

マンチェスター・シティを追い続けた今シーズンが終わります。最後にチャンピオンズリーグ決勝戦。しかも勝ち試合のマッチレビューを書けたことは本当に幸せなことだと思います。

今季も多くの人にマンチェスター・シティ関連の記事を読んで頂きました。本当にありがとうございました!それではまた会いましょう。来季は来季できっとペップ・シティはまた面白いことを仕掛けてくれるはずです。そしてフットボールの面白さ、素晴らしさをまた私たちに届けてくれるはずですね。


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