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なぜ、米津玄師は名曲「Lemon」に「ウェッ」の音を入れたのか

この文章を読み終わる頃には、この疑問の正体がなんとなくわかる様になります。​

※忙しい方は、真ん中あたりまでスクロールしてください。そうでない方は、初めから読んでみてください。(もっとめんどくさい人は最後まで行っちゃってください)






突然なのですが、こちらの本をご存知ですか?

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「ついやってしまう体験のつくりかた」元任天堂のゲームプランナーの方が、ゲームデザインをテーマに「ユーザがついやってしまう」体験をどのようにゲームに落とし込むかについて、述べたものです。人から勧められて購入したので知らなかったんですが、どうやら今流行っている本らしいです。

先日読んだこの本。「なんで、いきなり本の紹介やねん。」と思う方もいるかと思います。ひとまず「騙された!」と思って、今日はまず、この本の概要について説明させてください。内容は、僕の解釈を含めながら出来るだけ短くまとめます。(実際に本を手に取って欲しいので)

1. 直感のデザイン

ユーザは物に対して「〇〇のように動かせば、〇〇の様に動くんだ」という仮説を持つ。そして、その仮説を実際に動かしてみることで、思ってた通りに動くことがわかる。その時に「これで正しかったんだ!」とユーザが思う事で、どんどん体験記憶として蓄積されていく。これを「直感のデザイン」と筆者は呼んでいます。

例えば、スマホの画面スクロールでは、「指を上にあげれば今見ている画面が上にいくだろう」と仮説を持ちます。実際にその様に動いた時には「思い通りに動いている!」とワクワクする様に人間はできています。これが「直感のデザイン」です。ゲームデザインでは「直感のデザイン」を意識して、ゲームのルールを以下に簡潔に伝えるかが重要になっていきます。

本では、スーパーマリオブラザーズ・ゼルダの伝説を例に「直感のデザイン」とは何かについて書かれていました。

2. 驚きのデザイン

「直感のデザイン」でプレイヤーはルールを覚えていきます。ルールを覚えてくると「あ、このゲームは〇〇なんだ。」と結論づけてしまうので、面白みがなくなってきます。この問題を解決する為に、プレイヤーの結論を裏切る様な仕掛けが必要になっていきます。それが「驚きのデザイン」です。

本では、ドラゴンクエストを例に「驚きのデザイン」について解説していました。

実はこの本は「ユーザがついやってしまう」体験デザインを作るために、大きく分けて3つのエッセンスを僕たちに教えてくれています。先に述べた「直感のデザイン」、「驚きのデザイン」、そして、「物語のデザイン」です。ネタバレになってしまうので「物語のデザイン」は割愛します。気になった方は、是非Amazonでポチるなり、本屋に寄って購入するなりしてください。リンクも載せておきます。




ん、、、




そういえば、まだ本題が解決していないです。本題多分忘れてしまっている方もいるかと思います。

なぜ、米津玄師は名曲「Lemon」に「ウェッ」の音を入れたのか?

この文章がどのように進むかはもうお分かりだとは思いますが、僕はこの疑問に対して、先ほどの「つい、やってしまう」体験デザインのエッセンスを引用しながら考察していきたいと思っています。まずは、Lemonがいつでも聴けるようにこれまた同じくリンクを貼っておきます。冒頭の15秒しか扱いませんが。

冒頭の15秒「夢ならばどれほどよかったでしょう 未だにあなたのことを夢に見る」強烈な歌詞でこの曲はスタートします。歌詞だけ見るとどうでしょうか。何とも切ない印象を受けるかと思います。最初から最後まで歌詞は切ないんです。

こっからちょっと音楽玄人向けの解説です。歌詞だけじゃ物足りないので曲のコードを見てみましょう。(Uフレットという楽器を演奏したい人向けに曲のコードが載っているサイトをお借りしました。)

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もしあなたが音楽玄人なら、Key G#m で途中にdimも含みながら、もの寂しげな雰囲気を出しながら進むコード進行であることはわかると思います。あなたは、聴こえるメロディ・コードに対して次のコードをある程度予想できてしまうのではないでしょうか。そして、だいたいあなたの予想は大きく外れない。「そうそう、それそれ。」と米津玄師の描くコードの世界観を感覚で楽しむことができるはずです。

音楽玄人ではない人も同じです。「夢ならば〜」という歌詞に対して寂しい曲のイメージを思い浮かべる。そして、その予想は当たります。寂しいマイナーコードがはじめに聞こえ、その後も、思い浮かべた寂しいイメージが正しいと教えてくれる、何ならむしろもっと奥行きのある寂しさだと言わんばかりに、米津玄師の歌詞とコードが自然と体に入ってきます。

そうです。米津玄師の歌詞とコード(とメロディ)には「直感のデザイン」が用いられているのです。歌詞とコードがこの曲の一番重要な情報「寂しげな雰囲気」を提示してくれるのです。曲が明確なイメージを伝えてくれるおかげで、たった10秒のフレーズで、聴き手はLemonに対してこのような結論を出します。


「Lemonは、寂しげな雰囲気を持った曲だ。」


と。ここまで聴いたら、「あ、はいはい。Lemonは寂しい曲だよね。そんくらいなんとなくわかります。」ってなるんですよね。しかしこの結論を覆す「アイツ」がやってくるんです、、、そう、




「ウェッ」





!!!????


何や「ウェッ」って、、、場違いだぞ帰れ帰れ。って思うかもしれないです。ですが、僕はそうは思いません。米津玄師のLemonは「ウェッ」がなかったら、YouTubeで4億回以上も再生される様な名曲にはならなかったと断言できます。そのくらい、この「ウェッ」はLemonを名曲たらしめた素晴らしいエッセンスが隠されているんです。

この文章の流れからして、お気付きの方もいるかと思いますが、

実は「ウェッ」は曲の最重要ルール「Lemonは、寂しげな雰囲気を持った曲だ。」を覚えた聴き手を裏切るために作られたものなんです。

先に紹介した本でいう「驚きのデザイン」がここで使われていたんですね。恐るべし、米津玄師。もう国民は突然現れた「ウェッ」の虜になり、ますます米津玄師の世界観に引き込まれていくんです。YouTubeには「ウェッ」の虜になった人のコメントでいっぱいです。

ということで、僕が言いたかった事まとめです。

僕は、作曲や編曲(アカペラという音楽を中心に活動していたので編曲の方が多いです。)では、「聴き手の体験」を意識して作ることが大事だと思っています。

「聴き手が思った通りに進んでく心地よさの他に、ちょうどよく裏切りを入れていく。」

こんな風な意識を持って、作曲・編曲してみると聴き手がハマる曲が作れるのではないかと僕は思っています。最後まで読んでいただきありがとうございます。

まとめ
・米津玄師の名曲をゲームデザインで説明することができそうだ。
・Lemonの歌詞・コード・メロディには、「寂しげな雰囲気」を聴き手に伝える。→「直感のデザイン」
・Lemonの「ウェッ」は、聴き手が抱いた「寂しげな雰囲気」を裏切る事で聴き手に驚きを与える。→「驚きのデザイン」





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