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Interview#51 ベーカーズプロダクション 今本美智雄さん
Sep22 2019
NKCレーダーで連載している『わたしの素敵なパン時間』より転載
これは食の仕事に携わる人々の、パンとの関わり、その楽しみについて伺う企画です。51回目はベーカーズプロダクションの今本美智雄さん。ベーカーズプロダクションて?という方のために少しだけご説明も追記しました。
ベーカーズプロダクションと、スターシェフのライブ
ベーカーズプロダクションは1965年創業。現社長の今本美智雄さんの父、創業者の直行さんは戦時中にパンを学び、パンを焼くためにオーブンの製造販売業を始めた人だ。
直行さんは京都、祇園の料亭の家に生まれた。戦後はイギリス領インド軍の司令官付きコックとして勤務、製パンを学び、帰国後、製パン工場を自営したり、山崎機械株式会社で製パン機器製造に携わったりした後、昭和40年にベーカーズプロダクションを創業。欧米、アジア諸国など、海外の製パン業界との間に信頼関係があり、国内外での製パン講習会を積極的に行った。結果として、戦後の日本に多くのパン職人を輩出したが、機械を売り込むというよりは技術指導に重きを置いて、「商売人ではない商売人」と呼ばれた。そのスピリットは現在の美智雄社長にも受け継がれている。
2年に一度開催される「モバックショウ(国際製パン製菓関連産業展)」で、近年は有名店のシェフのデモンストレーションが、あたりまえのように行われているが、機械だけを並べる見本市ではなく、参加型のライブ感あふれるショウの形式にした仕掛け人は、今本さんだった。各種コンテストも同様で、普段は厨房の中にこもってパンを焼いている若き職人たちがもっと表に出て、スポットを浴び、拍手を贈られる機会があった方が良い、という考えのもと、1995年頃からその場としてのステージを企画立案、実際に用意したのが今本さんだった。現在では機械メーカーも原材料メーカーもこの方法を取り入れ、モバックショウをはじめとする見本市では、有名シェフのデモンストレーションが常に賑わいを見せている。
そんな今本さんのパンのお話です。
カスクルートはトースターで焼くと、すごくおいしくなる
初めて食べたフランスパン
ぼくの父は戦後、パンを焼こうと思ったときに良いオーブンがなかったので、つくってしまった人です。そんな父の意向で日本パン技術研究所に行ったんですが、入所して間もない頃、先生が休憩時間に焼いてくれたフランスパンに感激しましたよ。パチパチと音がして、皮は薄くパリパリで、チーズがゴロゴロ入った生地もおいしくてね。それまではあんパンみたいな菓子パンしか食べたことがなかったから、びっくりしちゃって。フランスパンというのは、もっと硬いイメージやったんやけど、全然違ったんです。
ビゴさんとフランスへ
それから、日本にフランスパンを普及させたフィリップ・ビゴさんとの出会いがあり、亡くなるまで35年くらいのお付き合いになりました。ビゴさんとフランスやドイツに行って、何日も一緒に過ごしましたよ。1日に600キロも車で走って、ミシュランの星のあるレストランを何軒もハシゴすることもありましたし、フランス国立製粉学校教授、レイモン・カルヴェル先生の講義を聴きに行くこともありました。ワインやチーズ、そしてもちろんパンも、食べまくりましたね。旅の終わりにはノルマンディーの麦畑の真ん中にある、ビゴさんの実家に泊めてもらいました。昼間にあちこちのお店でチーズやパテやリエットなど、いろいろ買って来ますでしょう?それと地下のワインセラーから持ってきたワインを一緒にいただきました。パンはギロチンみたいなバゲットカッターでカットしてね。そうやって、素朴だけれど本物のおいしさ、フランスの食文化というものを教えてもらったんです。だんだんフランスが大好きになっていく自分がわかりました。
焼きカスクルートのすすめ
パリジーノ(淀川の堤防沿い十三東にある直営店「パリジーノ アンド アトリエ ドゥ ママン」)のテラスにトースターを設置してあるのは、ちょっと焼いて食べてもらいたいからです。特に冷蔵ショーケースのカスクルートは、表面がカリカリになって、すごく食べやすくなる。はみ出た具材はちょっと中に押し込んでいただいてね。普通、そういう食べ方をあまりしないかもしれませんが、焼くとパンが軽くなるでしょう? オーブントースターはどこにでも売っている3、4千円くらいので十分。ここでだけ高級なものを使っても、仕方ないでしょう? 普通の家にあるのと同じので十分なんです。
リエットのカスクルートなんて絶対、温かい方がおいしいと思いますよ。ぼくは一番好きです。パリジーノのリエットは、フランスから空輸したもので、豚肉と豚の脂と塩だけのシンプルなもの。カスクルートにはこれとコルニッション(小キュウリのピクルス)を挟んでいます。サーモンのカスクルートもおいしいですよ。これとワインがあれば最高やね。
ぼくは普段、お米のご飯を食べないんですよ。昼はここのカスクルートや、塩パンの「ふわふわたまごサンド」を食べます。
硬くなったパンもおいしく
硬くなったパンは、サッと水にくぐらせて焼いたらパリパリになりますよ。フランスでは、湿気たり硬くなったバゲットは、キッシュのベースにしたり、スープにつけて食べたりしましたね。クロワッサンはカフェオレにつけますが、汁物につけるのはいいですね。そういう食べ方は、もっともっとせなあかんと思っています。「フランスパンっておいしい、もっと食べたい」という感覚になってもらわないと、パン屋はただつくるだけじゃダメだと思うんですよ。食べ方ももっと提案しないとね。
今本美智雄 / 株式会社ベーカーズ・プロダクション代表取締役社長
1959年大阪府生まれ。社団法人日本パン技術研究所卒。日本製パン製菓機械工業会理事、「日本フランスパン友の会」理事、フランス伝統菓子、ガレット・デ・ロワの普及にも努めている。2018年、大阪・十三にパンとお菓子の店「パリジーノ アンド アトリエ ドゥ ママン」をオープン。
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