第三章 忍び寄る陰
(会見2時間程前)
グルント連合大臣会議室
「............、........。」
以上が我々グルント連合の今後の方針だ。
異論は無いな?
連合書記長が注意深く、刺すような鋭い眼差しで全員を見渡す。
不気味な沈黙が流れた後、書記長が軽く、だが部屋中に響き渡るのに十分な音量で手を叩く。
(パンッ)
その音が会議の真の終了の合図である事は皆の次の所作で示された。
それまで背筋を伸ばし、彫刻のような表情から、姿勢を変えたり、葉巻を取り出したりと様々だが、それまでの張り詰める空気が和らいだのは明らかだった。
だが、その中でも表情一つ変えずに、何か次の仕事があるかのようにさっと席を立ち、落ち着いた様子で椅子を戻し、部屋を去る。
ミリヤ.ノーヴェス。
その様子を見て、出しかけたタバコを乱雑にポケットに突っ込み、彼女にそそくさとついていくもう一人の男性
ジャイデル.ムーア局長
その様子を横目に、二人の退室を黙認する連合書記長。SPが彼に耳打ちする。
「最近二人の行動が怪しいですね。何らかの理由をでっち上げて二人を逮捕するべきでは?」
書記長が外に集まる報道陣を見ながら口を開く。
「彼も彼女も有能だ。確かに、最近何かと怪しい動きをしているかもしれないが、まさかこれといった動きは起こさないだろう。仮に、二人を逮捕したとしても、後任にあたる彼ら程の有能な人物はいないだろう。特にミリヤは軍事面で有能な将校の育成や軍拡に献身的であるし、ムーアも少々性格に難ありだが、諜報活動については彼ほど優れた人は、少なくとも私は知らない。」
そう返すとSPは押し黙った。彼は彼なりに思う所があるらしい。
(確かに彼の言うことも正しいな。)
書記長は他の大臣の会話に耳を傾ける。
十数人の様々の会話を聞き取ることは出来ないが、所々、”ミリヤ”や”ムーア”といった単語が聞き取れた。
(やはり彼らも二人を警戒している。)
書記長は振り返り、笑顔で他の大臣に語りかける。
「皆、本日はありがとう。ねぎらいの意味を込めて極上のワインを皆に振る舞いたいのだが....。」
皆がざわめく。
大臣の一人が口を開く。
「失礼ですが銘柄は何でしょう?」
書記長は自信満々に答える
「ペラニョー産の”DE.Losmond”だよ!」
更に大臣が歓喜し、浮ついているのが感じられる。
「それは是非頂きたい!」
「で、そのワインはどこに?」
内心ガッツポーズを取りながらシェフを呼ぶ。
トローリーに乗ったワインを見て、更に部屋中が今だけは嫌なことを忘れて志向の時間を楽しもうとしているのが肌で感じられる。
これからも、この可愛い大臣たちを率いて国を守らなければ!グラスに注がれるワインを見ながら心に誓った。