第四章 クーデター直前
会議直後
ミリヤ.ノーヴェスは会議室を出た後、会議室扉横の廊下にもたれ掛かっていた。タバコが入った箱を取り出そうとした瞬間、ムーア局長が出て来た。出てくるなり、局長が口を開く。
「いつ頃始めます?」
ノーヴェスがタバコをふかしながら嗜めるように言う。
「部屋の様子はどうなってる?」
局長が片耳にはめたヘッドセットに指を当て、暫くの後、答える。
「最後の晩餐ってところですかね。」
ノーヴェスが顔をしかめる。
そしていっそう深い溜め息を吐く。
鋭い刀のように飛び出した煙が、すぐにまとまりを失い天井に昇っていく。
ムーアがノーヴェスの顔色を伺うように、おどおどした様子で注意する。
「こ...ここは喫煙禁止区域ですよ?」
ノーヴェスはムーアを一瞥した後、面倒くさそうに口を開く。
「これからは我々がこの国を率いる。」
ムーアは彼女の言わんとしていることがわかったらしく、それ以上は追及しなかった。だが、不安そうに辺りを見渡す。これから自分達が為そうとしている事が他の誰かに聞かれたらマズいとでも思ったのだろう。
ノーヴェスがムーアに向かって口を開こうとしたと同時に足音が遠くから聞こえてきた。
ムーアの顔つきが変わる。胸元の拳銃に手を伸ばし、足音の方向に野生の狼のような目を向ける。だが、ノーヴェスがムーアの前に手を広げ、行動を制止する。
ムーアが怯えた様子でノーヴェスの顔を見る。
足音の正体が廊下の突き当りから姿を見せる。
完全武装の兵士三人。
ノーヴェスお抱えのhidden wolf 部隊の一員だと分かるやいなや、ムーアが糸の切れた人形のようにへたり込む。
{"hidden wolf "ノーヴェスの私兵部隊だ。主に多くの戦場をくぐり抜けてきた兵士の中から選ばれた叩き上げのエリート中のエリートであり、ノーヴェスに心から忠誠を誓った精鋭部隊だ。実態は不明であり、書記長はおろかムーア自体も実態を知らない極秘部隊だ。}
そんなムーアをよそにノーヴェスは彼らに命令する。
「書記長のSPは殺しても良い。だが他は可能な限り確保しろ。だが、反撃するようならその場で射殺しろ。最優先目標は書記長だ。」
その場に居るwolf 部隊が彼女に向かって敬礼し、準備は出来ているといった様子で武器を構え直す。
wolf 部隊の一人が、へたり込むムーアを見てノーヴェスに質問する。
「こんな奴大丈夫ですか?大丈夫というか、そのー....。」
言い淀む彼に対し、ノーヴェスは毅然とした態度で返す。
「これでも彼は中央諜報局を率いる最高統率者だ。君たちとは、状況は違えど数々の修羅場をぐぐり抜けてきた叩き上げの精鋭だ。
今はこんな状態だが、我々の大義を理解しそして陰ながら我々のサポートをしてくれたパートナーであり同志だ。」
言い終わるなりハッとした様子で質問したwolf 部隊の隊員がムーアに肩を貸し、しっかりと立たせた後ムーアに向き直り敬礼しながら口を開く。
「大変なご無礼を働き申し訳ありません!
ジャイデル.ムーア局長!」
それに対しムーアは少し照れくさそうに下を向き、ありがとう。と小さく呟いた。
その間無線機を取り出し、どこかと連絡を取っていたノーヴェスが用事が終わったらしく、無線機をしまい、wolf 部隊の隊員を見る。
(いくぞ。)
彼女の意図を理解した隊員達は扉の両端に立ち、彼女の合図を待つ。
(さあ、革命だ。)
彼女の口元が微かにほころんだのをムーアは見逃さなかった。