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『黒革の手帳』いつの時代でも

黒川の手帳

昭和ーおそらく今よりも夜の世界にお金や政治が渦巻き、女は30歳をすぎると年増呼ばわりされるような時代ーで年増の独身銀行員女が銀行の架空預金リストを黒革の手帳にしたため、お金を手にし夜の世界で上り詰めていくというサクセスストーリー。

と、思っていたが、とんでもない展開だった。読了後は、人間への不信感、おそろしさに背筋がゾッとした。

一般的に、銀行=表の世界、銀座=裏の世界として対比されるであろうが、悪い奴はどこにでもいるというのが松本清張の言い分ではないだろうか。

元子を主人公として読み進めると、総会屋(表社会に顔のきくヤクザ)、政界、水商売などの裏世界の奴らは卑劣で恐ろしく、大層欲深く思えるのだが、そもそも、元子だってかなりの悪い奴だってことを忘れてはいけない。
元子は店と金を失い、子どもを流産したという悲惨な末路を辿ったが、東林銀行の上司達も左遷や病死、かなり悲惨な末路となっている。
この物語のラストはある意味自業自得とも捉えられるが、橋田や安島、長谷川などバチが当たっていない奴にもぜひ相応の報いをと思ってしまう。ただ、そううまいこと悪い奴に天罰がくだらないのがこの世の不条理なのだろうか。

ともあれ、当時は女性はまだ卑下されていたであろう時代で、まさか東林銀行の上司たちはバカにしていた年増女から出し抜かれるとは思ってもいなかったであろう。(黒革の手帳を手に入れて思うがままになると有頂天になっていた元子も然りだが)

この世は思ってもいない悪い奴らがいて、騙されないように、関わらないように、人をバカにせず気をつけて生きていかねばと思った。

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