【つくる人たち】Chandra en Chandino
「7年前、会社員を辞めて就農した時、料理人のために野菜やハーブを作ろうと初めから決めていました」
遠藤秀行さん、由佳さん夫妻が作る農作物は、無農薬、無肥料、自然栽培、バイオダイナミック農法で育てられています。固定種や在来種の自家採取した種を紡ぎ、月の満ち欠けに合わせて、地中の生物を生かして行います。今では農園で作るほぼ全ての作物の種を自給しています。
名前の由来は「月の神」と「火」。ヒンドゥー語とイタリア語の造語で、栽培サイクルを月と太陽の動きに反映させていることが由来です。以前暮らしたイタリアやインドで食べた〈味〉と〈香り〉を探求した末、このスタイルにたどり着きました。
年が明けると温床で苗作りです。一粒一粒ピンセットを使って丁寧に蒔いていきます。発芽するまでの間は、温床の温度や土の渇き具合を作物ごとに付きっきりで調整します。トラクターなどの重機は使いません。人力で開墾/耕作します。重機が畑に入ることで土が硬くなり、作りたい作物本来の味にならないからです。緑肥も入れず、生えた草や作物の枯葉枯枝を、晴れた日に細かく砕いて長期間熟成したのちに苗を入れます。土に棲まう様々な生き物を生かしておくことも大切です。
「彼らの力で味が決まります。何でも、穫れて6割。残りは虫たちにお裾分け。蜘蛛やトカゲ、カエルが小さな虫から護ってくれています」
季節で変わる加工品はジャム、ケチャップ、シロップ、ハーブコーディアルなど。全て季節のハーブや野菜、果物で作られています。人気のジンジャーシロップの材料は、自然栽培のハイビスカスとラベンダーとしょうがです。ストローを使わずに、是非ワイングラスに炭酸で割って〈香り〉ごと楽しみましょう。
「育てながら何が一番楽しいかって、自分の畑で獲れた作物の余りで献立を考え、調理したものをつまみにワインをちびちび呑みながら、ハーブの香りについてあれこれ話している時ほど幸せなものはない」のだそうです。
Instagramでは200種以上もの収穫物の様子を堪能できます。さながら、持続可能な地球のための〈ガストロノミー百科事典〉を見ているかのようです。
Text & Photo : Yoshikazu Shiraki