長谷川武次郎が発行した明治期の「多読本」
長谷川武次郎 / アドルフ・グロート『舌切雀』 墨摺版 独語訳 明治18年 東京刊:弘文社
Takejiro, Hasegawa / Groth, Adolph, Shitakiri Suzume, Japanische Märchen Heft 1, Tokio, Kobunsha, 1885 <R23-269>
18.5x13cm, no pagination [18pp], original double folded Japanese plane paper, string for binding lost, title pated on front cover, front cover wormed, top of page 1-6 wormed, but not affected on contents and professionally repaired
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長谷川武次郎・弘文社によって発行されたちりめん本は、江戸時代以来の美しい木版挿絵と欧文活字の物語を印刷した和紙を圧縮してクレープ状に加工して仕上げた和装本であり、極めて優れた工芸品と評価され、明治期に来日した外国人にお土産として非常に珍重されていました。
ただ、長谷川武次郎の当初の関心としては、海外向けのお土産品作成や日本の文化紹介といったことよりは、日本人の外国語学習を促進する教科書販売の方に力を入れようとしていました。単語や文法といったことに捕らわれず、だれもが一度は慣れ親しんだことのある日本昔話を通して外国語に馴染む学習図書、現代風に言えば多読本のような図書の発行を目指していたといわれています。そのために発行されたのが、墨摺版と呼ばれる本品です。
外装は紐綴じ、表紙は茶色無地で題簽が貼ってあるだけで、扉絵も無く、図版に彩色も施されておらず、ちりめん本と比べれば非常に地味な作りとなっています。墨摺版は英語、ドイツ語、フランス語版の発行が確認されています。
ちりめん本はお土産品として、所有者により一定期間は保存されることが期待される書籍でした。対して、この墨摺版は学習を主眼に置いたものであるため、外国語学習という当初の目的が達せられた後には、その地味な外見も相まってか、保存されることもなく散逸したり、破棄されてしまうことが多かったようです。そのため、現在ではちりめん本そのものよりも希少な存在となっており、古書市場でもめったに出てくることはありません。
明治という西洋の国々との本格的な交流の始まった時代において、その交流の前提として西洋諸国の言語学習は必須のものとなりました。こうした変革の時代において、日本人はどのように対応しようとしたのか。本品は古書としての希少性もさることながら、明治という新しい時代において日本人の外国語学習の歴史を知る上での一級の資料と呼べるものです。
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