太陽の陰影②
恋愛小説『マイ・ブラウン・シュガー』
【第四十四話】
(ユリ)
タクトさん、と呼んでいたっけか。
フランクなこの青年とはどんな私で話すべきなのか、まだ戸惑っていた。なにせ自身の脳みそには対策情報が一ミリもない。
「ユリちゃんはさ、ヒロのこと好き?」
店内の片付けが終わって早々にまさか直球質問とは。勝手に”ユリちゃん”と呼ぶ馴れ馴れしさや自分のキャラがどうでもよくなるくらい、私の全神経は”どう答えるか”に集中された。
「んー、どうだろうなぁ」
ほぼ正解と言っているようなものだけれど、曖昧にして首を傾げておく。ただでさえ本人に伝えまいと必死なのに。はっきりとした私の気持ちを言わなければならないなら、1番最初に伝わるべきはヒロさんだ。
この青年ではない。
しかしながら、なぜか私までタメ口を使ってしまうほどの彼の人間交友力には心底関心する。
「へぇ~」
こっちを向きながら、ニヤリとする茶髪青年。おそらく私の気持ちには勘付いている。これ以上深掘りされるのは危険だ。
「そういえばタクトさんは、ヒロさんといつから知り合いなの?」
無難になんとなく聞いてみたかったことをぶつけてみる。あの雨の帰り道に一度軽く聞いたことがあるから答えは知っていたけれど、君はポツリポツリと部分的にしか話さなかった。
それだけでも嬉しかったけれど、やっぱりもっと君のことが知りたい。君に直接聞かないのは反則かもしれないけれど、止められなかった。
タクトでいいのに…と呟きながら困り顔をするので、わかったと渋々了承した後、満面の笑みで「中学の時だよ」ともうすでに知っている情報を答える彼に、少し肩を落とす。
「…もしかして、姉貴とヒロの話って聞いたことない?」
ハッとした様子で言う彼に、私は首を横に振る。なぜここでこの青年のお姉さんの話が出てくるのか、と思いながら急な女性の登場で、ちょっと心臓がやられた。
「ほほう、では俺とヒロの運命的なお話をして差し上げましょう」
普段からこういう人なのだろうか。
少しおどけた様子でこちらに顔を向けている。
やはり、私はこの人が苦手だ。
でも君についての全く知らない話に俄然興味が湧いた私は、さも興味の無いような振る舞いで聞き始めた。
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