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読書記録┃村山由佳『PRIZE』
天羽カインは憤怒の炎に燃えていた。本を出せばベストセラー、映像化作品多数、本屋大賞にも輝いた。それなのに、直木賞が獲れない。文壇から正当に評価されない。私の、何が駄目なの?
……何としてでも認めさせてやる。全身全霊を注ぎ込んで、絶対に。
主人公、天羽カインの性格はキツい。
序盤はキツさにやられて、読むの止めようかと思うほどキツい。
昔の作家気質というか、自分の作品を信じてやまないからこその毒親感というか、作品の中では誰も指摘しないが、周りに当たり散らす様は間違いなくパワハラである。
でも序盤で挫折しなくて良かった。
私が『PRIZE』の〈話の構造〉に気づけたのが小説の中盤だからだ。
『PRIZE』はメタから小説の中の小説(二重構造)まで現実と小説の視点をスムースに行き来する。
序盤は直木賞受賞までのステップがシステマチックに説明されるなど、かなりメタ寄りの視点だ。
そこにキツい天羽カインが当てられるものだから、『PRIZE』ってこんな話だったんだ?と当惑もした。
そして中盤に、小説の中の小説、『テセウスは歌う』のゲラが登場する。
波線が引かれるなど、ゲラの使い方はメタ的ではある。
しかしここで、『テセウスは歌う』の内容が『PRIZE』の今までと、特にこれからを暗示しているとふと気づく。
ここから一気に小説の中に引き込まれていく。
最後はきちんと『PRIZE』の主人公として収まった天羽カイン。
キッツい天羽カインだったからこそ得られる爽やかさを感じた。
類似の小説は思い浮かばないけど、映画『プラダを着た悪魔』の終わりに近かったかな。
『PRIZE』は前評判から違わぬ面白さでした。