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吹奏楽の地域移行団体を妄想してみて思ったこと
部活動の地域移行団体を妄想してネットに公開してしまった。ワンパターンな思考回路のものしかできてないが、叩き台としてもらえれば幸いである。吹奏楽の地域移行団体の先行事例はヤマハのホームページで紹介されているし、文化庁や文部省のページにも資料が掲載されている。文科省や文化庁のページでは、活動回数、会費や謝礼の金額も公開されている。補助金をもらっているにもかかわらず謝礼が最低時給を下回る事例がいくつもある。
部活動の地域移行に関しては賛否両論ある。どちらの主張も私は納得できる。しかし、文部科学省、スポーツ庁を中心とした国策として決まってしまった以上、それに従って動くしかない。やってみてわかることも多い。もしかしたら、「ゆとり教育」が元にもどりつつあるように、ある程度したら部活動も管理を学校側に戻されるかもしれない。
部活動の歴史を振り返ってみると、明治以降様々な変遷があった。明治の学制開始の頃は校友会(部活動)は生徒自発的なものであった。海外から招へいされた教師が様々なスポーツを紹介する場でもあった。また、部活動の意義はイギリスの思想である「児童の品性は校庭における遊技で育成され、紳士は運動場で養成される」が持ち込まれた結果でもあった。
戦後すぐの時代の部活動は選択科目だったが昭和44年の学習指導要領改訂でクラブ活動は必修(正課活動)となり、それと並行して正課外活動の部活動も展開されるようになった。この時からクラブ活動と部活動の言葉を使い分けられるようになっている。平成11年の学習指導要領改訂で正課のクラブ活動が廃止になり指導要領内での部活動の位置づけがなくなった。それに従い部活への参加は義務ではなくなっている。そして令和になり部活動は地域移行となる。現実は教員の負担減が目標かもしれないが、理念は「選択の自由と生涯にわたる活動」と変化してきている。
歴史を見るとこのように部活動の位置づけはものすごい変遷をしている。時代に合わせて変化しているのである。
妄想で吹奏楽部の地域移行団体の経費を考えてみて思ったことがたくさんある。妄想での地域以降団体はお金の心配だけで団の理念などは全く考慮してない。また、妄想で作り出した会計パターンは塾考を重ねて出した結論ではなく、一晩で思いつくままに計算したにすぎない。抜け落ちは多々あると思う。
妄想してみて最初に感じたのは「お稽古事」と何が違うか、である。これまでの部活動はほぼ無料で学校内でできていた。地域移行した場合、各受け入れ団体は赤字経営となるわけにはいかないので会費を徴収する必要がある。建前では営利目的となってはいけないことになっているが、営利目的と非営利目的の境界もあいまいである。そうなるとお稽古事と全く変わりがなくなってしまう。
地域移行の団で吹奏楽を行うのに指導者なしで単に生徒が集まる会にするということもできる。楽器経験がない人でも構わないので見守る人が誰かいればいいというふうにすればいいだけである。しかしそれでも、見守る人がボランティアで行うのか最低時給で行うのかで会費は変わってくる。中学生に練習、曲決め、演奏会の段取りの全てを自主性だけに委ねることは不可能である。どこまで大人が介入し目標をどう定めるのかは様々な意見があると思うし、それぞれの考えで団が出来上がればいいと思う。
楽器ごとに指導者をつけるとなると人件費がかかりすぎる。スポーツでは一人でチームの全てを教えられる競技が多いが、吹奏楽は楽器ごとに指導者が必要である。一人で大勢の生徒の安全を見守るのは困難なので複数人を配置する配慮が必要なのは承知している。それにしても吹奏楽では必要となる指導者の数がスポーツと比べて多すぎる。私が作成した妄想では指導者をFl, Ob, Cl, Fg, Hr, Tp, Trb, Percを想定し8人としたが、実際にはもっと多彩な楽器が使われる。8人はオケの管楽器の感覚から出てきた人数に過ぎない。
会費を上げればたくさんの指導者をつけられる。上げてしまっては本当に「お稽古事」と変わりがなくなってしまう。会費に対する抵抗感は今まで無料で行われていたという影響が大きい。無料というのは適正価格ではなく学校予算で賄われていただけである。無料に慣れているので数千円でも高いと感じる人が多いと思う。月3000円で計8回(20時間)も練習できたら、1時間あたり150円である。これはかなりの低価格である。
妄想での計画を考える時に様々な事例報告から月3000円を基準に始めた。保護者の希望としてもそのくらいがマックスという感触のようだし、先行事例の運動系の地域移行クラブ(土日に活動)もそのくらいの金額である。先行事例の地域移行クラブでは時間あたり500円の会費徴収を要望しているところが多いようである。先行事例は補助金が入ってくるものが多いため現在は低価格で賄えているが、補助金がなければ成り立たないという声が多い。
価格を抑えるためには、一つの管理団体が複数の場所で参加メンバーを変えながら活動した方が事務経費を抑えられる。事務作業員はどうしても必要だが、メンバー数が少ない団体に事務作業員一人を専属で配置するのはもったいない。事務作業も一つのシステムで動かせるので複数の団体を一人で管理することができるはずである。また、指導者の融通を効かせることができる。人数が少ない場合、各団に全ての楽器の指導者をつけることは予算的に不可能である。管理団体が一括して指導者をそろえ、場所ごとに練習曜日を変え、曜日ごとに指導者を移動させるということをすればいい。回数が少なくなってしまうが、指導者を巡回させることで様々な楽器を教えることができる。また、少人数の団で発表会を開催するのは難しい。しかし、一つの管理団体が複数の場所で団を展開しているなら、それらの団を集めて同時に発表会を開催することもできる。そうすればお客さんも増えることになる。
妄想での地域移行団体を3パターン提示したが、この金額と練習回数で納得する保護者はどのくらいいるのだろうか?お金を払っているのにプロの指導者が来ない練習があるというのを理解してもらえるのだろうか?今回のシミュレーションはあくまでも各地域の最低時給をクリアすることしか考えてない。というか、クリアできない可能性が高い金額設定である。本来は時給と交通費は別とすべきだし、事務員に対する人件費も月数千円では法律違反となる可能性が高い。プロに指導料を支払うのだったら最低でも時給5000円である。集団に対する指導なのだからもっと高くすべきである。今回設定した価格では、プロの音楽家は誰も指導にきてくれないかもしれない。そういう危機感を私は持っている。
地域移行団体の数を管理する必要があると思う。少ないのも多すぎるのも問題が起きる。連盟などが音頭をとって団体数を管理できないだろうか?神戸市教育委員会でも構わない。誰も何も采配をしなければ、人口の多い地域ばかりに団ができ、人口の少ない地域には団が存在しなくなることが危惧される。音楽の普及を考えるなら、満遍なく団が散らばっていた方がいい。
楽器屋のバックアップも必要である。今までの部活では、業者が学校に出入りしてメンテナンスなどを引き受けていた学校が多い。新入生の楽器購入も、音楽の先生に申込書を提出すれば、伝票が楽器店に届けられ学校で楽器を一括で受け取るというシステムもあった。また、有料無料にかかわらず、楽器の貸出も必要である。楽器の修理のためにも馴染みの楽器店というのは必要である。楽譜の購入も楽器店を経由することが多いだろう。
これまでの部活動で蓄積された資産の活用について、色々と要求したい点がある。楽譜は各部活の宝物となっているはずであるが、その楽譜の貸し出しを行うことはできないだろうか?部活がなくなってしまったら、部室(音楽室?)の中で永眠するだけとなってしまう。活用してこその宝物である。楽譜以外にも様々なグッズがあるはずである。それらは今後どうなるのだろうか?
余談ではあるが、校歌の楽譜を誰かが責任もって管理しておいた方がいい。部活がなくなると誰も校歌を演奏しなくなるかもしれない。でも、その学校にとっても卒業生にとっても非常に重要な財産である。地域移行で吹奏楽部がなくなっても散財しないようにしておくべきである。校歌の楽譜が行方不明になってしまってはとりかえしがつかなくなる。楽器店では絶対に買うことはできなく、二度と復元不可能となってしまう。
各学校は場所の貸し出しと共に楽器も貸し出すようにしてほしい。文化庁の方針では、「各学校の校長先生に相談してください」、となっている。しかし、貸し出された物は持ち帰りが原則であり、校内に置く場合は校長先生への相談と許可が必要である。壊れた時の保証についてもセットで考えなければならない。校長先生が楽器の管理に詳しいとは限らないのが悩みの種である。楽器の貸し出しがなければ地域移行団体の設立は難しいだろう。貸し出しがなければ、各自が購入するような小型の楽器のみのアンサンブルしかできなくなる。これまでの吹奏楽部が財産として楽器を持っているはずである。部活動が廃止されたら誰もその楽器を使わなくなる。税金で購入した資産の貸し出しというのはハードルが高いが、その空間から基本的に持ち出さないなどの条件付きだとしても場所と共に貸し出しを希望する。
教員の中には部活を続けたい人が少なからずいるはずである。そういう先生をうまく取り込むにはツテが必要である。そのツテを介する部署を行政側が準備してほしい。現在のところ、各教員は要望により本業に支障をきたさない範囲で地域移行団体への関与が認められている。でもそこまでである。行政が積極的に教員を地域移行団体に紹介するというシステムはない。教員の負担を減らすために地域移行となったためかもしれないが、全ての教員が部活から強制的に切り離されるというのももったいない。本番前だけ指揮者を頼むとしても音楽教員へのツテがあるのとないのとでは大違いである。また、教員同士の人脈もうまく利用できればいいと思う。学校間の楽器の貸し借りもこれまでは教員の人脈で行われてきていたことである。
先行事例を見ていると、教育委員会やコンサートホールや既存の楽団が管理団体となっている例もある。それぞれの形態にアドバンテージとなる点はたくさんある。どこも魅力的である。しかし先行事例とは違い、今度は市内の中学生全員を受け入れるだけの団体を作成しなければならない。全てが特徴のある団というわけにはいかないだろう。また、先行事例では補助金があるものが多いが、神戸市は部活動の地域移行団体に補助金を打ち出してないと思われる。先行事例でも見かけられたことだが、指導者への謝礼が最低賃金以下になるのは問題がある。プロの音楽家だから謝礼が高いとかいう問題以前である。
連盟の方で指導者の斡旋をするシステムを作れないだろうか?プロ、アマに関係なく指導に立候補する人のプロフィールを登録し、必要な人がそこから選ぶというシステムができないだろうか?現在の社会人アマチュア団体も指導者は口コミで引っ張ってくるしかない状況である。システムで指導者を選ぶとなると当たり外れがでてしまうが、ないよりはマシのような気がする。そのようなシステムがあれば、本末転倒かもしれないが現在の形式の部活動でも活用できるはずである。部活の休日の引率も講習を受けた人の中で時間がある人を選べるようにすればいいような気がする。
参考情報
・吹奏楽部活動地域移行Navi(ヤマハ)
・地域文化倶楽部(仮称)の創設に向けた検討会議(文化庁)
・地域での文化活動を推進するための「学校施設開放の方針」について(文化庁)
・⽂化部活動の地域移⾏等に向けた 実証事業事例集(文部科学省)