受付等担当者への指示と教育
事前打ち合わせ、あるいは受付用事前配布資料(受付マニュアル)では、集合時刻および解散予定時刻、集合場所、服装、各担当者の紹介、タイムスケジュール、各仕事内容、お客さんから聞かれる想定問答などについて詳細に説明するべきである。社会人のアマチュアオーケストラでは事前説明会なんて行わないことが通常であるしマニュアルも作成されないことが多い。それは、複数の慣れている人が担当するからである。スクールオーケストラの場合は慣れていない人が圧倒的に多いので事前に詳細な説明をした方が、結局は演奏者の当日の負担も減ることになりお互いの安心感にもつながる。
受付担当者へは、早い時期に服装だけは指示を出しておくべきである。それ以外のことは当日でも間に合うかもしれないが、服装だけは事前に知らされていないと準備ができない。また、集合時刻と集合場所も事前に知らされなければならない。特に集合場所へのルートの説明は必要である。楽屋口から入るのか、ホール正面玄関から入るのか、入った後はどのようなルートをとれば集合場所にたどり着けるのかなどについての説明が必要である。
演奏会当日にも打ち合わせは行われるが、事前に資料を準備して目を通しておいてもらうべきである。当日の打ち合わせでは、各担当者の紹介、タイムスケジュール、資料に書かれていない補足説明などを簡潔に行う。演奏をする団員から直接説明を行う場合もあるが、演奏者がステージリハーサルを抜けて他の仕事をすることは極力避けるべきである。事前に受付担当の代表者を指名してその人から当日説明をしてもらうようにする、あるいは顧問の先生を活用する、受付業務に慣れているOBや保護者に依頼する、などの対策をとるべきである。
受付等担当者の服装はスーツが基本である。サンダルは不可であり、革靴が鉄則である。スニーカーも履くべきではない。中学生や高校生なら学校の制服、大学の男性ならダークスーツが無難である。女性は、男性のスーツに見合う服装やリクルートスーツなどがおすすめである。受付等の担当者が学校の制服を着用していない場合は、スタッフとわかるように名札をつけておくべきである。名札といっても個人名を書く必要はなく、単に「スタッフ」とだけ書かれていれば十分である。高校生以下の団体では、顧問の先生にも名札をつけてもらうべきである。「顧問」あるいは「学校教員」の名札を付けた教員が受付近辺に待機しているだけで、例え何も受付業務をしなくても絶大な効果を発揮する。
当日打ち合わせの終了のタイミングで表回り担当者全員で館内ツアーをすることを私はお勧めしている。受付を手伝ってくれる人の中にはホールに来るのが初めてという人もいる。受付担当者が迷子になることも時々あるし、ホール内の構造を知らずにお客さんを案内するのは不可能である。館内ツアーでは下のような観点を中心に回るといい。
・障害者、高齢者、妊婦など足腰に不安のある人への対応経路の把握
・トイレ、喫煙所、飲食可能場所の把握
・クロークの場所と業務の把握
・客席番号の大まかな位置の把握(特に指定席制の場合)
・各客席ドアの位置の把握
・バックヤードへの出入り口の確認
・バックヤード内の構造の把握
・楽屋口や搬入口の把握
古いホールだとエレベータがなかったりバックヤードの大道具搬入用の大型エレベータしかなかったりすることもある。バックヤードにしかエレベータがない場合は足腰の不自由なお客さんをバックヤードに通すこともある。どのような対応とするのか事前に相談しておかなければならない。喫煙可能場所をお客さんに聞かれることはよくあることである。ホール内にない場合、ホール外の喫煙所を案内することになる。
お客さんが間違えてバックヤードに入ってしまわないようにするのも表回り担当者の仕事である。表回り担当者が様々な用事でバックヤードへ往復することも度々ある。バックヤードのどこに行けば主要な担当者に会えるのかを知っておいた方がいい。また、スクールオーケストラの場合、忘れ物を保護者が持参することがよくある。演奏開始前に届ける必要があるため、ある程度バックヤードを知っておくのも重要である。
演奏会終了後にお客さんが出演者に会うこともよくある。その場合、どこに案内すればよいのか、逆に面会を断らなければならないのか事前に決めておかなければならない。会う場合は、ホールロビーで会う場合もあるし楽屋口を案内する場合もある。ホールによっては、終演後の面会を禁止しているところもある。その点についても事前の確認・打合せが必要である。
搬入口は、演奏会終了後に受付の荷物を撤収するのに必要な場所である。片付けのことまで念頭に入れてホール内の構造を把握しておいた方がいい。
お客さんの集まり具合が早い場合、予定時刻よりも早く受付ゲートをオープンすることがある。早くオープンする時の取り決めについて主催者、ステージマネージャー、受付担当者、ホールスタッフの四者で協議しておかなければならない。実際に早い時刻にオープンする際は、必ずステージマネージャーに確認をとった上で行わなければならない。早くにオープンする場合、お客さんを客席まで通す場合とロビーまでで止める場合(ロビーオープン)がある。ロビーで止める場合、お客さんが客席入り口のドアから流入してしまわないようにドアマンがしっかりと役割を果たさなければならない。客席まで通す場合は、演奏者もそのことを把握なければならい。客席にお客さんが入った後は、演奏者はステージ上に出ないことが基本である。お客さんが客席に入る前にステージ上のいらない物を片付ける必要がある。そういう事情を受付担当者も理解した上で事前オープンについて早めの連絡、相談が必要である。連絡体制が整っていないと事前オープンは混乱の原因となる。
演奏会では、主賓として様々な人を招待することがある。演奏する曲の作曲者や、各楽器のトレーナー、過去の顧問、校長先生や教育委員会の人が主賓となることがある。どのような招待者がいるのかを受付担当の人は把握しておかなければならない。もし可能なら、名乗ってもらわなくてもそのような人たちの顔を見ただけでわかるような人が受付にいるのが理想である。主賓として扱われる人はホール中央に特別席が用意されるのが通例である。もちろん、そのような立場の人達を特別扱いしなくてもかまわない。主催者の考え方しだいである。
受付等の表回り担当者がお客さんから質問される内容はある程度決まっている。受付担当者が仕事内容に不慣れなようなら、想定問答集を準備しておくといい。また、お客さんへの声掛けの文例も準備しておくといい。初めて担当する人にとっては、何を聞かれるかわからない状況というのは怖いものである。また、内容を理解していても言葉がとっさに出てこないこともある。
想定される質問は次のようなものがある。
・次いつ客席に入れますか?
・何時ころ終わりますか?
・喫煙所、自動販売機、エレベータはどこですか?
・飲食はどこでできますか?
・終演後出演者に会えますか?どこで会えますか?
もぎり(チケットテイク)では、「いらっしゃいませ」「こんにちは」「ごゆっくりとお楽しみください」などの声掛けをすることが多い。ドアマンは、お客さんに客席内への入場を待ってもらうために「真に申し訳ございませんがただいま演奏中でございますので、入場はご遠慮ください。ご入場いただけるようになりましたら、改めてご案内いたします。」などの声掛けをすることがある。また、足腰の弱い方には、エレベータの案内のための声掛けを積極的にする。丁寧な言葉遣いを用いる必要はあるが、高校生以下の生徒児童が無理に大人の言葉遣いを用いなくてもかまわないと思う。しかしながら、ある程度はどのような案内をしなければならないかを教えるのも教育である。受付等の担当者に誰が仕事内容の指導・教育をするのかによってもきめの細かさが変わってくるが、教える側も何を伝えておけばいいのかをしっかりと把握する必要がある。
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