見出し画像

録音の仕方

 演奏会ではコンサートホールに付属の録音システムで録音する場合もあるし、自前で準備した機材で録音することもある。コンサートホールではなく、公民館や体育館で演奏するすることになったら自前で録音するしかない。もちろん、練習中の録音も自前で行うはずである。

 録音する目的は、自分達の勉強のために録音する、あるいは記念や思い出のために録音するのが主である。どちらにしても、簡便さと、録音の正確さやきれいさを天秤にかけ、使用するマイクや機材を選ばなくてはならない。
音質にこだわらない練習中の録音などはスマートフォンでするのが簡便である。もう少し音質を求めるならマイクをスマートフォンに接続して録音することもできるし、いわゆるICレコーダーを使用することもできる。練習時の簡易的な確認程度ならスマートフォンでも構わないが、もう少し再現性のある録音(生音と同じバランスの音)を求めるのなら、しっかりとしたマイクと録音機材を使うべきである。安価な録音機材(スマートフォンを含む)を使用した録音で問題となるのが、音を拾える範囲(広さ)と周波数範囲とダイナミックレンジ(音量)である。マイクは周囲360度全部の音を拾えるのではなくある程度範囲が決まっている。また、周波数の範囲も気を付けなければならない。安価なマイクでは低音の音を拾えないことがあり、コントラバスの音が本来の音量よりも小さな音でしか録音できないことがある。高音についても録音可能周波数の範囲が狭いと、音質がチープになる。ダイナミックレンジは音量の大小のこととして考えてもらえればいいのだが、安価なマイクは小さい音は取りにくく、逆に少し音が大きいだけで音割れを起こしてしまう。その他、安価なマイクは雑音が多く録音されてしまうことが多い。無音の環境で録音しても安価なマイクだとザーザーと音が入ってしまうのである。そういう欠点があるので大事な録音はある程度性能が保証されたマイクと録音機材を使用するべきである。

 録音にこだわるようになるときりがないが、マイクと録音機材を使う上で初心者が注意しなければならない事は3点ある。
・マイクが音を拾える範囲は120度として考える。
・最大音量で演奏しても録音レベルが振り切れないようにする。
 ・マイク2本を使用してステレオ録音とする場合はステレオ効果について考える。

 マイクが音を正しく拾える範囲は、それぞれのマイクによって異なるので各マイクの仕様書を確認しなければならない。演奏の録音用の単一指向性マイクはだいたい左右130度くらいの範囲しか正しく録音できない。それ以外の範囲の音も拾えるが、録音される音量が中心付近の音よりも小さくなるし、高音から低音まで均一に録音できなくなる。マイクから130度の範囲にオーケストラ全体を入れる必要がある。左右130度だと計算しにくいので、左右120度として考えると計算が非常に簡便である。マイクは指揮者の後、オーケストラの幅の中央の位置に設置するが、指揮者からどのくらいの距離にマイクを置けばいいのかが問題となってくる。小学生では計算できないが、中学高学年以上の生徒なら計算できる。左右で120度とすると片側で60度である。直角三角形の三平方の定理を使用すればマイクまでの適切な距離を求められる。正三角形の半分の形を想像するとすぐ理解できると思う。オーケストラの片側の幅と指揮者からマイクまでの距離の比率は√3:1となるような位置にマイクを設置すればいいことになる。オーケストラの左右の幅を17メートルとすると約5メートル以上指揮者から離せばマイクの性能である左右120度内にオーケストラが収まる。オーケストラが演奏できるコンサートホールのステージの幅は15~25メートルくらいであることが多く、だいたい5~8メートル以上離せば問題ない。

マイクまでの距離の考え方


 平面的には指揮者から約5メートル以上離せばいいのだが、客席の音をできるだけ拾わずにオーケストラの音のみを拾うために、マイクを高い位置に設置することが望ましい。高くすることで客席からの距離を離すことができ客席の音量を相対的に小さくできる。また、マイクが音を拾える範囲は左右だけでなく上下についても同じであるので、マイクを高い位置に設置して上下の角度をうまく調整すれば、理論上、客席からのノイズ音は小さくなりオーケストラの音を中心に録音できる。

 マイクを指揮者から5メートル以上離すというのはマイクの性能から計算した最低限の距離であり、目的によってはもっと離してもかまわない。ホールの中央で録音する、ホール最後尾で録音する、ということがあってもいい。それぞれの場所で聞こえる音が全く違うので比較するととてもいい勉強になる。距離が近い方がホールの響きよりもダイレクト音が強く録音されノイズも少ない。楽器からのダイレクト音よりもホールで響いた結果を録音したい場合は少し遠めに設置するし、ホール後方までしっかりと音が鳴り響いているかを確認するためには最後尾で録音するのがベストである。ステージリハーサルを客席後方で録音するプロ奏者は結構いる。リハーサルでの録音はいい音で録音するのが目的ではなく、客席でどのように聞こえているかを確認するためだからである。目的によりマイクの距離を変えることもあるが、音質を求めた録音が目的なら、マイクの性能の範囲内の近い距離で録音するのが一般的である。

 マイク設置後は、録音レベルの調整をしなければならない。録音レベルは機械に記録される音量の大小のことであり、機械からヘッドホンを通して聞こえてくる音量とは別物である。録音レベルはモニターのケージ(針)を見ながら確認するものでありヘッドホンから聞こえるかどうかで確認するものではない。実際の録音を始める前に、オーケストラに今回録音する曲の中で最大となる音量の場所を30秒程度演奏してもらい、その間に録音レベルメータが赤いラインを超えないくらいに録音レベルを調整する。最低限、この調整だけはしておかなければならない。この調整をしないと大きな音の時に音が割れて何が何だかわからない録音となってしまう。コンサートホールの演奏時でプロの録音業者に任せる場合でも、録音業者のスタンバイが完了しているなら、録音業者と相談の上ステージリハーサルの最初に最大音量をだすようにすると録音業者から非常にありがたがれる。細かい調整は後からいくらでもできるが、細かい調整をし終わった後に最大音量の調整をするのは望ましいことではない。もし発表会形式のアンサンブルの場合で団体により音量が全く違うようであるのなら、各団体について録音レベルを調整しなければならないかもしれない。例えばパーカッションアンサンブルとリコーダーアンサンブルとでは録音レベルの設定を変えなければきれいには録音できないはずである。全団体それぞれに適切な録音レベルを設定するのは大変なので、平均的な音量の団体用と、平均的な音量ではうまく録音できないほど小さい音量の団体用、大きい音量の団体用の3種類だけ設定しておくと楽である。

 もう少し応用的なマイクセッティングとなると、ステレオ録音のための設定となってくる。ある程度の価格帯以上のマイクはモノラル音としてしか録音できない製品が多いため2本のマイクを使用してステレオ録音とする。ステレオ録音の設定の話になってくるとかなりマニアックな領域となる。
ステレオ録音の設定について考える前に、マイクの指向性について理解しておくべきである。マイクは前述のように指向性を持ったものが多く存在する。それに対し、全方位同等に録音できる無指向性のマイクも存在するし、全面と背面の領域を録音でき横方向の感度が悪い双方向性マイクも存在する。それらのマイクのどれを使用するか確認しないとステレオ録音のための正しい設定をすることはできない。

 ステレオ録音は2本のマイクを使用するが、2本のマイクをどのような位置関係で置くかで録音された音質が変わってくる。2本のマイクの位置関係は、主に5つの方式(AB方式、XY方式、MS方式、ORTF方式、NOS方式)が存在する。どのタイプの指向性のマイクとどのステレオ録音方式を組み合わせるかが重要であり、正しい組み合わせとしないと薄っぺらい音となってしまう。一番簡単なステレオ録音の方法はAB方式と言われており、AB方式では2本のマイクを平行に並べ舞台正面に向け、マイク間の距離を数十センチメートルから数メートル離して設置する。マイク間距離は20~60センチメートルが最もいいとされ、無指向性マイクを使う方がいいとされている。録音エンジニアによっては2メートルくらいまでなら許容できるとしている人もいる。舞台からマイクの距離をある程度保てるなら単一指向性マイクでも問題ない。その他の方式はマイク同士の角度を平行にしない設置方法である。角度を合わせるのが難しく、初心者にはあまりお勧めしない。演奏会の録音をCDにして売りに出すのでもない限り、ステレオ録音の方式までこだわらなくてもきれいな音は聞こえるはずである。

 録音専門のエンジニアがいるくらいなので、きれいに録音するということは難しいことである。アマチュアの初心者としては、マイクの距離と録音レベルさえ設定できれば聞くに堪えられないような酷い録音にはならないはずである。その2点だけは抑えてもらいたい。逆に述べると、練習時に指揮者用譜面台の上にスマートフォンを置いて録音したものは、正確な音量バランスで録音されていないものであると自覚しなければならない。その位置からでは、指揮者から遠い両サイドの弦の音は少し小さくなってしまうし、管楽器と弦楽器の距離が違いすぎて、管と弦の音量のバランスは本来の音と全く違うものとなってしまう。そのような録音を聞いて音量のバランス合わせをしてしまうと、実際のホールでは弦楽器が聞こえない演奏となってしまう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?