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弦楽器の各種奏法

 弦楽器には様々な奏法が存在する。通常用いている滑らかな音の出し方以外の奏法は特殊奏法とも言われている。しかし、特殊といってもオーケストラにおいては度々でてくるものもある。各種奏法を紹介する。
・トレモロ(tremolo):細かく弓を返しながら弾く
・スピッカート(spiccart):弓を弾ませながら弾く
・ピチカート(pizzicato):右手の指ではじく
・コン ソルディニョ(con sordino):ミュートをつける
・センザ ソルディニョ(senza sordino):ミュートをはずす
・フラジオレット(flageolet):左手の指を軽く弦に触る程度で押さえて倍音をだす
・スル タスト(sul tasto):指板よりで弾く
・スル ポンティチェロ(sul ponticello):駒よりで弾く
・コル レーニョ(col legno):弓の木を使って弾く
・グリッサンド(glissando):音程を連続的につなげて弾く
・ポルタメント(portamento):音程の切り替わりを少しつなげて弾く

 トレモロは、音符の棒に線(旗)が3本以上ついている場合に細かく刻みをする奏法である。たいていは3本以上でトレモロと解釈するが、そうでない場合も存在する。曲によるので曲をよく解釈しないと判別がつかない。トレモロは細かく弾くが、どのくらい細かくするかについても曲の解釈しだいである。常にやたらと細かく弾くのは間違いである。譜例としてドボルザークの交響曲第9番「新世界」の1楽章を掲載する。23小節から27小節の音の旗の本数に注目してほしい。途中から旗の本数が変わっている。どのように解釈しているだろうか?

ドボルザーク 交響曲第9番「新世界より」 1楽章21~27小節

 スピッカートは弓を弾ませる奏法であり、非常に難しい奏法である。弓の根元1/3くらいのところで弾ませて弾くのが弓のコントロールをしやすく音もなりやすい。上手な人はスピッカートを弓の先の方でもすることができる。軽くて小さな音でかつ速くスタッカート気味に弾く場合などでは、普通よりも少し先の方でスピッカートをした方がいい。しかし、難しくて出来ないがために音が鳴ってしまう弓の重心近辺でスピッカートをしてしまっていることが多い。スピッカートは楽譜にその奏法で弾くように指示されていることもある。指示されてなくてもスピッカートで弾くことも多い。スピッカートで演奏するとテンポをキープできずに速くなってしまう人がよくいる。滞空時間を保てなくどんどん先にいってしまうからである。スピッカートをする時の弓の高さか動かす距離を調整するとテンポを一定に保てるようになる。

 スピッカートが有名な曲としてモンティの『Czardas(チャルダッシュ)』がある。YouTubeでいろいろな人の演奏を見比べるとそれぞれでスピッカートの弾き方が違うしスピッカートに対する考え方が違うのもよくわかる。

 ピチカートは右手の指ではじく奏法であるが、様々なバリエションがある。スクールオーケストラで上級生が下級生にピチカートを教える場合、1種類しか教えていないことが多い。前年度に先輩から教わった方法を伝えているだけとなっており、それでは曲に合ったピチカート奏法とならない。様々なピチカート奏法を理解したうえで曲に適した技法を選ぶべきである。

 ピチカートも弓で弾く音と同じように大きい音、小さい音、硬い音、柔らかい音、速いテンポ、遅いテンポが存在する。それらの音をはじき方の工夫によって演奏し分ける。使用するピチカートの技法は次のポイントを組み合わせて考えるようにする。
・はじく場所はどこか?通常指板の駒よりの場所ではじくが、弦の中央あたりではじくこともある。弦の中央ではじくと音のシャープさが減少する。
・はじく向きはどの方向か?やわらかい音にするためには少し斜めにはじくことが多い。逆に速いテンポでは真横に向かってはじくことが多い。またはじく方向は上下方向にも変化をつけられる。弦を真上に向かって強くはじくとバチンと音が鳴るが、それを利用した「Bartok pizzicato」という奏法もある。バルトークピチカートは譜面に指示がない限り行うものではない。
・はじく強さはどのくらいか?大きい音を出す時は強くはじくし、最も弱いピチカートでは、弦に触れた指を離すだけで音をだす。
・はじく指の形はどのようにするか?指を真っすぐに伸ばした状態ではじくこともあるしカギのように丸めてはじくこともある。完全に丸めなくても中間的に軽く指を曲げた状態ではじくこともする。丸め方によって音の硬さはかなり変わる。
・指のどの位置ではじくか?爪ではじくことはないが、指先ではじく場合と腹の方ではじく場合がある。指をどのくらい丸めるかにも関係してくる。指の腹ではじいた方が音は柔らかくなる。
・どの位置からはじきはじめるか?指を弦にひっかけて置きそこからはじく場合と、指が弦から離れた状態からはじく場合がある。指を弦にひっかけてはじく場合、弦を引っ張り気味にした状態からはじく場合と、軽く触れただけの状態からはじく場合がある。右手の指を弦の上において、そこから指を離すだけで小さい音を出すこともある。
・動かすのはどの部位か?手首の位置を動かさずに指の丸め方を変えてはじく場合と、指の形を変えずに手首から動かしてはじく場合がある。手首の位置を動かさずにはじく場合は、親指を指板に固定する場合と、浮かせる場合がある。
・何本の指ではじくか?どの指ではじくか?バイオリンは人差し指あるいは中指ではじくのみだが、チェロとコントラバスは親指ではじくこともするし人差し指と中指の2本の指を使ってはじくこともある。

 どの技法も特に難しくはない。しっかりと考えてから使う技法を選べれば大丈夫である。人によって使っている技法が異なっているとタイミングを合わせるのは難しくなる。使う技法がそろえば、全員のはじくタイミングもあってくるはずである。ピチカートを苦手としている人は、手首の高さに注目してほしい。手首が下がった状態でははじきにくい。

バルトークピチカートの記号


 理屈的にピチカートの技法を分類したが、楽器経験の長い人は無意識に使い分けている。ピチカートを多用する有名な曲としてアンダーソンの『Plink, Plank, Plunk』、チャイコフスキーの『交響曲4番』の3楽章がある。どちらの曲も、1つのピチカート技法だけで曲全体を弾くことはできない。色々なピチカート奏法を使って表情をつくりだしているはずである。ピチカートを教える際は色々なはじき方をまとめて紹介するようにすると別の曲でピチカートが登場してきた時に対応しやすくなる。

 フラジオレットはハーモニクスとも呼ばれる技法で、指を軽く弦に触るだけで倍音を出す奏法である。どの弦のどこを軽く触り、最終的に何の音を出すのかを考えるのが難しい。楽譜上の記号としては、音符の上に丸がついていたり、ダイヤ型の音符であったり指番号としてゼロが記載されていたりする。前に紹介した『Czardas』ではフラジオレットもたくさん使われている曲である。

フラジオレットの記号

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