練習開始前に準備する道具
団員個人で購入するか団として必要個数保有するかはそれぞれの団体の事情にもよるが、下のリストのものは揃えておいた方がいい。
・楽譜へのメモ用の鉛筆
・メトロノーム
・チューナー
・譜面台
・楽器の清拭用の布
・管楽器のつば抜き用の布、弦楽器の汗止め用の布
・楽器のメンテナンス用の道具
・チェロとコントラバスはエンドピンカバーあるいはエンドピンを刺す板
・ミュート(弱音器)
楽譜への書き込みはB以上の濃い鉛筆がお勧めである。シャープペンシルでもかまわないが、ステージ上ではライトが強いので見にくくなることがある。また、鉛筆を譜面台に固定できる道具があるといい。譜面を置く場所に鉛筆を寝かせて置かれているが、その方法だと譜めくりの時に意外と邪魔になるので工夫が必要である。鉛筆に金属のキャップと磁石をつけて譜面台にぶら下げたり、簡易的な筆箱を譜面台のネジに紐でぶら下げてその中に筆記用具を入れたり、譜面台の高さを調節するネジに直接ひっかけたりと色々な工夫の仕方がある。
譜面台は、座って弾くパートは折り畳み式の譜面台で問題ないが、立って弾くコントラバスやパーカッションのパートは折り畳み式ではなく丈夫なものを使用することをお勧めする。背を高く建てると重心が上の方になってしまい折り畳み式の譜面台はどうしても不安定になりがちである。折り畳み式の譜面台は金属製とプラスチック製がある。どちらの材質でも問題はない。個人で購入して家に持ち帰ったりすることが多いようなら、折りたたんだ時のサイズや重量にも注目して選んだ方がいい。折りたたんでも一般的な大きさの鞄に入りきらない製品がある。また持ち運び用に専用のケースがついてくることもあるので、選ぶ際の参考にするといいだろう。持ち運びケースが付属していない場合、ケースを自作する人もいるし打楽器用のスティックケースやワインバッグを利用している人もいる。重量は軽い方が持ち運びには便利であるが、楽譜を乗せたときにフラフラするほど軽い製品は避けるべきである。譜面台の色については、本番で使用することを考慮するなら黒色以外は選ぶべきではない。譜面台をどこまで高くセッティングできるかも選ぶうえで重要なポイントである。身長が高い人にとっては、自分の身長にまであがらない製品もある。
折り畳み式でない丈夫な譜面台を個人で購入することは少ないと思われるが、団として購入する場合も選ぶためのポイントはいくつかある。鉛筆を置くラックがついているかどうか、重量、安定性、どこまで高くできるか、収納時のスタック度合いなどを吟味するといい。また、楽譜を置く面が埋まっているか穴が開いているかで、練習時の譜面への書き込みやすさと重量が変わる。譜面台の足は三角形になっている製品が多く、その形状が影響しコンパクトに収納できない製品がたくさんある。折り畳み式でない譜面台もどこまで高い位置に譜面を設置できるか確認してから選ぶべきである。もし指揮者が使用するための譜面台を選ぶなら、譜面を置く面の角度に注目すべきである。平ら(床面と並行)にまで角度を下げられない製品は意外と多い。
もし譜面台を選ぶのに迷ったら「Wittner社の961d」がお勧めである。何といった特徴はないが、世界標準的な折り畳み式譜面台であり、50年以上売れ続けている譜面台である。このWittnerの譜面台もであるが、譜面台を折りたたむときは、高さ調節用のねじの向きをそろえて畳んだ方がいい。ねじがあちこちの方向にあるとうまく収まらず、無理に収めようとすると譜面を置く細い板が曲がってしまうこともある。YouTubeを探せば折りたたみ方の動画があるので、初めて折り畳み譜面台を使う時は是非見てほしい。
メトロノームは安価でコンパクトな製品から昔ながらの針が左右にカチカチ動くものまである。スマートフォンのアプリでもメトロノームの機能は存在する。購入するなら昔ながらの針が左右にカチカチ動くものをお勧めする。コンパクトな製品は持ち運びには便利であるが、メトロノームの音が小さく楽器を弾きながらリズム音を聞くということが難しいからである。また、音でなく針が動くのに合わせて弾くという練習も必要になってくるので昔ながらの針が左右に動くタイプがお勧めである。一人でメトロノームを見るだけならスマホの画面でも小さな製品でも針の動きは見えるが、パートで一緒にメトロノームをみるとなると、昔ながらの物が最良である。ただ昔ながらのタイプのものは丁寧に扱わないと、すぐに「シンコペーテッドクロック」となってしまう。水平な場所で使用し、使用のためにゼンマイを巻くときは針に指をかけずに針を固定するところにひっかけておき、使用後はゼンマイを開放しておく必要がある。メトロノームは共鳴する場所に置くと音が大きくなる。学校の場合、生徒用の机に置くと引き出し部分が共鳴箱の役割をはたし、音を聞き取りやすくなる。逆に毛布などの上に置くと音がこもってしまう。家で防音性を気にしなければならない時は毛布やタオルを平らに敷きその上に置けば音が小さくなる。家ではフエルトの麻雀台がちょうど良かったりする。
チューナーは自信のある経験者を除いて各個人が持っていた方がいい。ある程度音程に自信のある人は「音叉」があれば充分である。チューナーはスマートフォンのアプリにもあり、それでもかまわない。音叉も昔ながらの金属製のものにこだわる必要はなく、スマートフォンから基準音を出せればそれでかまわない。楽器によっては、チューナーにクリップマイクをつけ、そのクリップマイクを楽器につけてチューニングした方がいい場合もある。大勢で同時にチューニングする場合、クリップマイクをつけないとたいていうまく作動してくれない。スマートフォンのアプリでチューニングをする場合、正確性の高いアプリを使用すべきである。精度の低いアプリも存在する要注意である。
楽器の清拭用の布はどの楽器も必要である。どの楽器でも清拭用の布は柔らかくて毛羽立たない生地でなければならない。ただし、ガーゼのような弱い生地では、すぐにボロボロとなってしまうこともある。弦楽器の場合、私は「手ぬぐい」を勧めている。管楽器や打楽器の場合、楽器専用の清拭用クロスを楽器店で購入し使用している人が多い。弦楽器も専用の清拭用クロスが販売されているが、それを使っていない人の方が多い。
管楽器はつば抜き用の布も必要である。以前はハンカチを使っていたり、足元に小さなバケツを置いていたりした。新型コロナウィルス流行後は、使い捨てができるペットシートを利用している団体もある。バイオリンやビオラの場合は、汗が楽器に垂れるのを防止するために汗止め用布を顎から肩にかけて挟んで演奏することがある。汗止めの布は肌触りが問題なく、楽器が滑らなく、毛羽立たなく、大きさが適切であれば基本的には何でもいい。本番で使うなら余り派手な色や柄のデザインは慎んだ方が良い。私は汗止めとして皮布を使用している。皮布は100円均一ショップでも手芸屋でも入手できる。皮布なら水分は内側まで染み込まないし、滑らないし、他の材質に比べて音の響きを減衰させないので、あえて皮布を用いている。
楽器のメンテナンス用品は各楽器によりそろえるべきものが全く異なる。団として保有しておけばいい道具もあるし、各個人が持つべき道具もある。弦楽器ではメンテナンス用の道具を使って演奏者自身が調整することは滅多にないが、バイオリンとビオラの場合、顎あてのネジを回す道具を誰かが持っているといざというとき便利である。顎あてはたまにねじが緩んで外れてしまうことがある。それを絞めるのに専用の「ねじ回し」を使用するか、他のもので代用するかしなければならない。シャープペン、太い針、目打ち、たこ焼きをひっくり返す道具などで代用してしまうこともあるが、楽器本体を傷つけないように十分な注意が必要である。顎あてのネジを回す道具は楽器屋で販売されている。
チェロとコントラバスはエンドピンのカバーを準備しなければならない。消耗品であるので、使い方によっては意外とすぐに交換となる。チェロの場合は、エンドピンを刺すための板やゴム製のエンドピン台が売られている。昔はいいエンドピン台がなかったので簡単に自作していた。様々な自作方法があるが、蒲鉾板を利用するのが簡便である。蒲鉾が乗っている板の端の方に穴をあけ太くて丈夫な紐を結び付ければ完成である。紐は椅子の足にくくりつけて使用する。そうすれば演奏中に滑ってしまうことはない。エンドピンが刺さる部分に予め窪みをつけておいた方が使いやすい。
エンドピンをどこでも刺したがるチェロ奏者は想像以上に多い。しかしながら、コンプライアンスが厳しくなっている現代では、エンドピンを刺しても良い床かどうかは慎重に判断しなければならない。コンサートホールでさえ、エンドピンを刺すことをNGとしている施設が増えてきている。学校の音楽室内なら認められている学校が多いかと思うが、それ以外の教室ではバレたら怒られるという学校もある。文化祭の演奏を体育館で行う学校が多いと思うが、通常、体育館は床面保護シートが張ってあったとしてもエンドピンを刺すのは禁止である。合宿するホテルなどでもエンドピンを刺すことにかなり慎重にならなければならない。事前にエンドピンを刺すことについて施設の管理者に質問しておくのが賢明である。「バレなければいいや」という考え方はすべきではない。エンドピンを刺した後の床を、その施設の管理者に見て確認してもらっても問題にならないような所以外ではエンドピンカバーあるいはエンドピン台を使用すべきである。
一昔前と違い、エンドピンカバーやエンドピン台は滑りにくい良い商品が発売されている。だからこそ、エンドピンを刺すことに対する風当たりがきびしくなっているのである。昔は良いエンドピンカバーやエンドピン台がなかったから黙認されていただけに過ぎない。音の振動が止まるのが嫌なら、古典的な蒲鉾板がお勧めである。ゴムと違い振動を止めないからである。本当に音質まで求めるなら、もちろん、蒲鉾板ではなく、もっと乾燥しており、また少し厚みがあり、叩いた時にいい音の鳴る木材を選ぶべきである。チェロの先生のお宅で行うレッスンでは、このようないい板を使ったエンドピン台がおいてあることが多い。
私はエンドピンを刺すことに対して厳しく取り締まる方向で考えているが、これはスクールオーケストラだからである。オーケストラとしてのマナーも教えるべき場だからである。プロ、あるいはそれに近い人にこのような注文をするつもりは全くない。私もチェロを弾くので、直刺しとそうでない場合の音の違いは良くわかる。ホールで刺す場合、床の下の梁がある場所かないか場所で音が全く違うが、その違いがわかるような人なら、直刺しにも意味がある。しかし、そのような違いがわからない、あるいは、直刺しの効果が音として現れないような弾き方の初心者は、まずはマナーに従うべきである。
ミュート(弱音器)は曲により使用し、楽譜にミュートをつける指示が書いてあった場合、そのタイミングでつける道具である。ミュートを使うと音量が落ちるが、それよりも音質を曇った音に変える役割を持つ道具である。ミュートを使わない曲の場合は不要となるが、買いそろえておいた方が無難である。
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