卒業生の活用
近年は卒業生との交流が減少している。全国的にどこもそうなってきている。卒業生との交流を全く行わなくても部活動が完結するのが本来の姿なのかもしれない。しかし、昨今の教員の労働事情を考えると、顧問が全て引き受けるより卒業生を活用した方が健全になると私は考えている。そのような闇深い事情まで考えなくても、優秀な卒業生が近くにいるのならそれを活用しない手はないのではないだろうか。
運動部の方では、地域との連携、移行が始まっているが、文化系の部活に関してはほとんど進んでいない。外部指導者、部活指導員の導入のためのガイドラインは運動部を主眼として制定されている。そのため、文科系のオーケストラ部ではそのガイドラインを活用しきれない。
卒業生からの指導を口うるさいと感じる生徒、学生は多い。Z世代と昭和世代の間の隔壁はとても大きい。一方でほんのちょっとしたことでも教えてほしいと思っている生徒も大勢いる。一つの部の中に卒業生に対する考え方が色々あるのが普通である。また、顧問の先生の卒業生に対する考え方も様々である。「口出しも手伝いも不要ですがお金だけください」、と言っている顧問から、全面的なバックアップを期待している顧問までいる。学校側としての方針も様々である。学校側としては生徒の安全を第一条件とするなかで卒業生を活用したいと考えているがどのようにすればいいのかわからない、といった状況が多いのではないだろうか。
卒業生の中には、その道のプロになる人がたくさんいる。それは音楽家に限らず、である。そのような人に依頼すると親身に世話をしてくれることが多い。また、料金が安くなることもよくあることである。音楽家以外のプロとしては、例えば運送屋とか録音業者などがあり、それらは、部活動にとってはうまく活用できるものである。楽器運搬を楽器の演奏経験のある人に依頼できるだけでもラッキーなことである。母校からの依頼ということで特別割引価格で業務を請け負ってもらえたらとてもありがたいことである。その他、友達の体験談として、カラオケルームでバイトをしている先輩が楽器の個人練習用にカラオケルームを割安で提供してくれた、などの話も聞いたことがある。
卒業生が普段の部活に指導している学校もたくさんある。プロになった人に指導してもらえるのは当然メリットが大きいし、そうではなく楽器をやめてしまった人でも、例えばパート練習中の手拍子をとってくれるだけでもありがたいこともある。演奏の上手な人だけが卒業生として活躍できるというわけではなく、全ての卒業生は何らかの形で現役生に対し貢献できるはず、と私は思っている。
卒業生に奏法を教えてもらう場合、その方法が本当にいい方法なのかを考えなければならないこともある。教えてくれる卒業生がプロの奏者なら問題ないが、アマチュアの場合、一般的でない奏法を教わってしまうこともある。それを初心者である学生が判断することは難しく、先輩の言うことは絶対服従のような雰囲気があるとさらに事はややこしくなる。卒業生に習う時は、その点にだけは注意しなければならない。
演奏会の時に裏方を卒業生にお願いしている学校はたくさんある。卒業1年目の卒業生は全員裏方を担当すると暗黙の了解で決まっている学校もある。裏方というのは一見簡単なようで難しいものである。顧問の先生方だけで裏方を担当するのは不可能なことである。演奏会に参加しない新入部員や学校内の他の部活の生徒を頼りにすることもあるが、裏方の業務を知らない人だけで行うのは無理がある。卒業生の中には裏方に精通している人がいるはずなので、そのような人を活用すべきではないだろうか。
卒業生からの寄付がある学校もある。それは、部活の卒業生からに限らず、学校の同窓会から各部活に寄付が回ることもある。部活の卒業生からの寄付は金銭ではなく現物であることも多い。様々な事情から音楽活動を離れる卒業生が、自分の使っていた楽器や譜面台を部活に寄付してくれる、というのはよくあることである。
卒業生が演奏会にエキストラとして参加することも多い。高校まではあまり多くないかもしれないが、大学では卒業生が部員不足の楽器のエキストラになることは一般的なことである。プロ、アマに限らず外部の人に依頼するのは有料であるが、卒業生の場合は無料と決めている学校もある。卒業生の中にはそのシステムを快く思ってない人もいるはずだが、その規定でも喜んで手伝ってくれる人も大勢いる。
色々な形で卒業生は部活動に貢献してくれるはずである。その貢献を受けるには卒業生との交流が必須である。全く交流のない現役生に対し持っている技術にしても金銭にしても何かを提供してくれるような人は限られてしまう。交流と言っても、演奏会情報を卒業生個人個人に送るだけでも一つの交流である。団のSNSを持っているのでそれをフォローしてください、ではなく、個人に対し発信するのが卒業生とつながる第一歩である。
インターネットが発達してなかった昔は、演奏会の観客を集めるために、卒業生全員に演奏会案内の葉書を発送するのは当たり前だったし、電話連絡もよくあった。現在は葉書や電話は時代遅れな方法であるが、それに代わりメールという手段がある。名簿をしっかりと管理していれば、無料で簡便に連絡できるのである。私の勝手な思い込みかもしれないが、卒業生名簿をしっかりと管理できている団体は、演奏会の集客で困ったことにはなってないだろうと感じている。
卒業生たちが結成した各学校のOBOGオーケストラが存在する学校も多い。OBOGオーケストラがあれば、卒業してもそこで楽器を続けられるし、卒業生から現役生への支援も個人個人でなくOBOGの団体として支援してもらえる可能性が高くなる。例えば、バイオリンのエキストラを何名派遣してください、とか、コールアングレを持っている人を紹介してください、とかをOBOGオーケストラあてにお願いすることができるのである。そうすれば、OBOGオーケストラの中から適任者を紹介することができる。演奏会の裏方を頼みたいときも、OBOGオーケストラに対して依頼すれば、必要人数集めてもらえる可能性がある。このようにOBOGオーケストラという団体が現役生のバックアップを担うことができればいいのだが、実際にそのような仕組みを持っているところは少ないようである。
私は、卒業してからも部活の様々な先輩後輩にいつもお世話になっている。分野が違っても仕事上で頼りにすることがあるし、日常生活で困ったことがあってもすぐにお互いに誰かを紹介できる環境にある。子育てに必要な道具もオーケストラの友人のおかげでたくさんお下がりを頂戴することができた。オーケストラというのは他の部活動に比べたら桁違いに人脈が多いものである。人数が多いのである意味当然なのかもしれない。でも、それは普段から繋がっているからこそできる人脈の活用である。現役の部員も卒業生の人脈をうまく活用できれば、部活動がいい方向に流れるはずである。
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