練習の創意工夫
スクールオーケストラにおいては、初心者が早くステージに立たてるように創意工夫をこらした様々な練習方法が採用されている。楽器を持って譜面台に向かって弾くだけが奏法上達のための手段ではない。例えば、楽器を持たずにリズム感を身に着ける練習がある。幼稚園の子供にピアノやバイオリンを教える時によく使われている方法であるが、楽譜通りのリズムを手で叩く、フォルテとピアノの音量を手で叩く強さで表現する、弓の動きを体に覚えさせるために体操みたいにしてみる、などの方法が存在する。私は、幼稚園児がアンサンブルを覚えるための最初のいい練習は「アルプス一万尺」だと思っている。楽器を弾くわけではないが、手遊び歌としてお互いに歌いながら手や肩をタッチすることで自分勝手なリズムだと手がずれてしまうことを覚えるようになる。手がずれないように補正していくことで正しいリズムが身に付き、テンポが速くなっていっても呼吸合わせができるようになっていくのではないかと思っている。
小学生の団体の練習と大学生の団体では当然練習のしかたは全く異なる。同じ学年だとしても、年度により生徒の性格が異なるし演奏上達度も異なるので、それぞれに合わせた練習方法を考えなければならない。上級生が下級生を教えているだけだと工夫した練習はなかなか実践できるものではない。しかしながら、いくつかのいい練習方法のアイデアを知ることができれば、それをまねて練習ができるし、自分たちでさらに発展させて練習することもできる。
今までに私が経験してきたいくつかの工夫された練習を紹介する。
●アンサンブル合わせのための練習方法
・通常、目や体を使ってタイミングを合わせるが、それがうまくいっていない時、あえてペアになった二人を背中合わせで弾かせる。そうすることで全く見えないことの恐怖を覚えることになる。その後お互いを向かい合わせで弾かせると見ることの重要さがわかるようになる。
・アルプス一万尺と同様に2人ペアでリズムを叩く。例えば、ウィンナワルツのリズム練習で、1拍目は自分の手同士を、2拍目3拍目は相手の手を両手ともたたくようにする。ウィンナワルツ独特の裏拍をお互いに合わせられるようになる。
・二人羽織ではなく二人バイオリンをしてみる。両人とも目を閉じたり片方の人だけ閉じたり両人とも目を開けたりして行う。弓を他の人が持って動かすとかえって弾けなくなるし目を閉じると尚更弾きにくくなる。それをなぜだか考えてもらう。
・実際に歩きながら行進曲を弾いてみる。
●指揮に合わせるための練習方法
・音で合わせようとすると遅れてしまうので指揮に合わせなければならないことを実感するために長い廊下の両端にペアとなった二人を配置し、中央で指揮を振った時と振らなかったときの感覚を感じてもらう。指揮無しの場合はどうしてもリズムが遅くなってきてしまい、指揮有であれば遅れずに弾けるはずである。
・音階の練習をする時に、指揮者はテンポ、音量、音質(固く、レガート、など)を自由に動かしていいことにして行う。指揮を見ないと全くついていけないし、指揮をある程度解釈しないと音量や音質を変えることができない。この練習は指揮の練習にもなり、振り方が正しく奏者に伝わっているかの確認にもなる。
パート練習時の陣形(人の並び方)も工夫により色々な要素を練習できる。
・円陣
・全体練習の時のプルトのような陣形
・一列
・お見合い
これらの陣形は普段から使い分けて練習した方がいい。円陣はアンサンブル合わせに最適である。パートトップを見て弾く練習にはプルトのような陣形になる。個人練習に近いような音取りをするときは1列の方が周りを気にせずにできる。お見合いは、上級生が下級生に、あるいはお互いに指導するようにするために使われる。
練習のアイデアは、その時々に合わせて生まれてくるものもあるし、各団で代々行われているユニークな練習も存在する。各団で代々つたわる独創的な練習は、現状、各団の企業秘密となっているのではないだろうか。どこかで、色々な練習アイデアを集めるためのフォーラムでも開催されれば面白いのではないかと思う。
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