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入部の動機

 オーケストラ部への入部の動機は積極的なものから消極的なものまで様々である。その時のモチベーションが年度途中での退部につながってしまったり、練習への取り組みに影響を及ぼしたりする。様々な入部の動機を周囲が寛容に受け入れ、演奏会を成功させるためにお互いにフォローできるような雰囲気が醸し出されているといい。オーケストラ部ではあまりみられないが、吹奏楽部の場合、募集要項に「コンクール上位を目指せる人を募集」とうたっているような団体も存在する。そういう場合はそれでかまわないが、オーケストラの場合は勝利至上主義のような団体はほとんど存在しない。しかしながら、演奏会を行い観客に披露するのであれば、どんな動機で入部したにしても、ある程度の練習を積んでお客さんをがっかりさせないようにする努力も必要である。

入部の動機としては、下のようなものがある。
・オーケストラ、クラシック音楽へのあこがれ
・個人で練習してきた演奏技術の活用
・テレビドラマ、漫画等による影響
・運動部には入りたくなかったから
・勉学の気分転換のため
・先輩たちの演奏が上手だったから
・仲のいい友達と一緒の部活を希望したため
・知っている先輩がいたから
・入部説明会でお菓子を食べられたから
・女子が多いから(byもてない男子)
・部員数が多いので友達がたくさんできそうだから
・入学した学校にたまたまオーケストラ部があったから
・プロ奏者になるための布石のため
・指揮を振ってみたいから

 オーケストラ部が吹奏楽部と違う点は、どこの学校にもあるわけではないという点である。吹奏楽部の場合はコンクルール上位に入れそうだからという理由でその学校への入学を希望する生徒がいることもあるが、単に吹奏楽部に入部するためだけに志望する学校を選択することは少ない。ところがオーケストラ部の場合、部活自体が存在しない学校が多いため、オーケストラ部に入部するために志望する学校を選択する生徒がかなりいる。
部員数が多いというのもオーケストラ部の特徴である。部員不足でオーケストラを編成しきれない団体もたくさんある一方、全生徒数の15%がオーケストラ部に在籍しているという学校もある。部員数が100名を超える大所帯となっている学校もある。部員数を確保しきれない場合、近隣の数校合同のオーケストラを編成している学校もある。

 プロ奏者になるための布石として入部を希望する場合、さらに詳細な理由はいくつかに分かれる。運動部に入るとケガがあるのでケガのない部活を選んだという理由もあるし、個人で習っているとアンサンブルの練習ができないからという理由で選ぶ場合もある。音楽大学へ入学するための実績づくりのためという生徒もいるし、純粋に音楽が好きだからという人も大勢いる。音楽大学進学希望の生徒は演奏が上手な場合が多く入部すれば歓迎されるが、本人の希望と部の方針とのマッチングが合わないことがよくある。例えば音大を志望するくらい優秀な生徒にとって、初心者の相手をする事を苦痛と感じる生徒もいる。他の人より練習しなくても弾けるとの理由で本番直前の合奏だけ参加したいという人もいる。部活動全体として初心者の脱落なく演奏会を迎えられるように配慮された練習をすることが多いが、その中で一人だけプロオケのような演奏を目指しているという場合もある。音楽大学進学志望の生徒を教えている音楽教室の先生から見ると、部活動としてのオーケストラは音楽大学の入学試験の準備につながらないので邪魔だという人が大勢いる。逆に音楽大学側からすれば、オーケストラ部での活動を入学試験の点数として評価することはない。音大を受験するためという理由でオーケストラ部を退団する人を時々見かけるが、私としては複雑な心境である。将来音楽の道を志すなら、オーケストラ部に入って初心者を牽引してほしいし、部活生活を送ることによってスクールオーケストラの現状を認識してほしいと私は思っている。

 消極的な理由でオーケストラ部に入部する生徒もいる。人員が余っているような団体はそのような人が途中でやめていくのを気にしないのかもしれないが、気持ちのいいことではない。消極的な理由で入ってきた人の中には、友達と楽しく遊ぶことができればいいだけで、練習も興味ないしお客さんの前で弾くことを強く拒否するという人もいる。反対に、そのような消極的な人と一緒に演奏をすることを拒絶する人もいる。その他、誰かに指導を受けたり練習をしたりするのは避けたいがお客さんには褒められたいという考えの人も多い。自分達の好きなようにやっていれば、お客さんは自動的にその思いを感じ取ってくれると思っている生徒もいる。部活動は良くも悪くも「学校」という城壁に囲まれた中での活動である。しかし演奏会は「学校」から「社会」へと出て活動する特殊な事例である。部活内の個々でみればオーケストラ部で活動するということに対する様々な考え方があるのは当然だが、社会からどのように見られるのかを意識し、部活動全体として悪い方向に向かわないようにお互いに努力することが重要である。

 生徒が指揮を振る団体では、指揮者になりたいからという明確な理由をもって入部を希望する生徒がよくいる。それは歓迎されることであるが、実際に叶うかどうかについて入部時に丁寧に説明する必要がある。生徒が指揮を振る場合、たいてい上級生の中から指揮者が選ばれる。低学年のうちは指揮を振れないことになる。指揮を振れない低学年の間、どこかのパートに所属することになるが、どこのパートに入るかも問題となる。人数が少ないパートだと上級生になった時に指揮者として抜けるとそのパートが人員不足となってしまう。バイオリンなど個人で楽器を購入しなければいけないパートでは、指揮を希望する生徒が楽器を買いたくないと言うこともある。また、団員の話し合いで指揮者が選ばれるので、他の希望者が指揮者となってしまうこともある。そのような様々なパターンを予測しながら事前に説明する必要がある。

 テレビドラマ等による影響で入部する生徒もかなりいる。中でも「のだめカンタービレ」(2006年、フジテレビ)の影響は今でも続いている気がする。最近では、「リバーサルオーケストラ」(2023年、日本テレビ)や「青のオーケストラ」(2023年、NHK)などが放送されており、しばらくは入部希望者が増加することが見込まれる。それが一過性のものでなく持続的になることを期待しているが、どうすれば持続的にオーケストラ部への入部希望者が増えるかについてはあらゆる立場の人が考え続けなければならない。
入部希望者を増加させるために団員ができることは、いい演奏をし続けることである。先輩たちの演奏を聴いたのをきっかけに入部を希望する生徒は毎年何人もいる。そういう人を増やすためにはいい演奏をするのが一番である。

 そして、どんな理由で入部したにしても、最後は笑って卒業してほしいものである。学校内だけでなく社会に出て活動する部活動なので、「楽しかった」だけでは済まずにきっと練習やら何やらが「大変だった」というのも少なからずあるだろう。過度な負担は避けるべきであるが、少しくらいの大変さは経験しておいた方がいいと思っている。しかし、経験しなくてもよかった苦労はしないで済むように、このblogを活用してほしい。

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