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インテンポの練習、ゆっくりなテンポの練習
スクールオーケストラの合奏では、インテンポでの練習の他にゆっくりなテンポでの練習がたびたび取り入れられる。ゆっくりなテンポでの練習は、テンポ設定を適切に行えばいい練習となるが、無暗に遅くしたテンポでは練習の効果が低くなる。
全体練習の前に個人練習やパート練習を行うはずであるが、その時はゆっくりから練習するはずである。一音一音確実に音取りをし、弾けるようになってきたらテンポをあげていく。弦楽器の場合、テンポを落とした練習は通常のテンポより弓を大きく使って練習する場合と弓の使用量をインテンポの時と変えずに練習する二通りの練習方法がある。音程をとるための練習の時は弓を大きく使って練習することが多く、リズムをとるための練習は弓の使用量を変えずに練習することが多い。そのようにしなければならないというわけではなく、状況に応じて弓を使う量を使い分ける。ゆっくりなテンポで練習する時は音量を大きめにしてリズムと音程を正確に弾くことを心掛ける。練習時間が十分にあるようなら、あまり強引にテンポをあげていくようなことはせず、確実に弾けるようになったら少しテンポをあげて、また何回か練習して確実に弾けるようになったらテンポをあげて、の繰り返しとした方がいい。私は、3回連続で間違えずに弾けたら次のステップに進む、というようにするのを薦めている。1回まぐれで弾けた、というような状態では先のステップに進まないようにしている。もし、パート内で個人差があり、弾ける人と弾けない人が混在するなら、ある程度は弾けない人に宿題としてしまわなければ全体の進行度合いが遅くなってしまう。どの程度まで弾ける人と弾けない人を一緒に練習するのかの判断はパートリーダーの指導力となる。
全体練習でゆっくりなテンポで練習する場合、暇なパートに配慮しながら練習を進めるべきである。また、曲の雰囲気を壊すほど遅いテンポで練習するのは避けるべきである。例えばワルツの曲で踊れないようなテンポにまで遅くしてしまうと、逆にメロディーのリズムや頭拍と裏拍のリズムがかみ合わなくなってしまう。そして、単にメトロノームに合わせるだけのような状態になってしまい、オーケストラとして指揮に合わせることを奏者がやめてしまうことが多い。ベートーベンの交響曲5番の『運命』の冒頭を、テンポを落としすぎて練習したらどうなるか想像つくだろうか?音楽としての感情がなくなり、ソルフェージュの練習曲のようになってしまうだろう。
全体練習でテンポを落とした練習をする目的は、リズムを正確にとれていない、指がまわっていない、パート同士の絡みが合わさっていない、音程がとれていない、などである。指がまわっていないことについては、可能な限りパート練習や個人練習にまわすべきである。しかし、あまりにもその分量が多い場合、全体練習のテンポを落とすしかない。弦楽器のためにテンポを落とすと管楽器の息がもたなくなってしまう。管楽器の息が続かないようであれば、それ以上テンポを落とすのをあきらめるか、弦楽器への宿題となる。指揮者はそのバランスを見極めなければならない。
リズムが正確でないからとの理由でテンポを落とす場合、落とすテンポは少しだけにした方がいい。倍以上に遅いテンポにしてしまうと、逆にリズムを取りにくくなることが多い。テンポを遅くする場合の指揮棒の振り方は分割して振る場合と分割せずに通常通り振る場合がある。16分音符ばかりのような速いパッセージをゆっくりする場合は分割して振ってもいいが、本来3泊で振るワルツを6拍で振るようなことはやめた方がいい。
スクールオーケストラの場合、団員のレベルに合わせて本番もゆっくりなテンポで演奏することがある。そうなる可能性がある時は、早めに団員に予告しておくべきである。本番直前まで本番のテンポがわからないのは奏者にとっては非常に不安なことであるし、練習計画が変わってくるからである。弦楽器では、テンポによって弓をスピッカーとのように飛ばすのか固く止めて弾くのかが変わることもある。管楽器の人にとっても、ある程度のテンポが決まらないとブレスのタイミングを計ることができなくなってしまう。本番のテンポを音楽として理にかなったテンポとするのか、団員の力量に合わせたテンポとするのか、なかなか決められない問題ではある。スクールオーケストラなら一般的なテンポより遅い演奏でもお客さんに納得してもらえるだろう。無茶なテンポに挑戦して総崩れとなるより確実に弾けるテンポの方が安心して聞いていられるものである。
本番の曲のテンポを決める要素の例として、例えばベートーベンの交響曲5番『運命』の3楽章では、141小節から低弦が確実に弾けるテンポで冒頭を始める、あるいは141小節目からテンポを落とし、236小節あるいは255小節でテンポを戻すというようなことをすることがある(図参照)。同じく『運命』の4楽章では、302小節からあるいは132小節からの1stバイオリンの様子から逆算して4楽章全体のテンポを決めたりもする(図参照)。同様なリズムがある142小節からも1stバイオリンにとって難しい箇所であるが、この場所は曲を金管楽器に任せることもできるのでこの部分は弾けてなくても無視してテンポを決めてしまうこともできる。
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