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選曲

 演奏会で何を演奏するかを決めるのはとても難しい。選曲は顧問、トレーナー、指揮者の先生が決めてしまう、あるいは候補曲を挙げて部員が選ぶ場合と、部員が自由に選ぶ場合とがある。部員で曲を選ぶ場合、曲を決定するために部員間の対立が生まれてしまうことがよくある。社会人のアマチュアオーケストラに入っていれば、一生のうちどこかで自分のやりたい曲をできるはずと気長に構えられるが、スクールオーケストラでは、チャンスは2年間あるいは3年間しかないので切実である。弾きたい曲が選ばれなかったら是非社会人オケに入って演奏を続けてください、と言うわけにもいかない。

 曲の選び方として、お客さんが聞きたい曲を調べ、それを候補にするという手もある。もしお客さんの要望を事前に知ることができたとしても、団員が演奏したい曲とお客さんが聞きたい曲が一致するとは限らない。スクールオーケストラでは集客率を気にする必要はあまりないので選曲はお客さんの意向に迎合することなく比較的自由にできる。基本的にはスクールオーケストラなのだから好きな曲を演奏すればいいのだが、選曲する際に気を付けるべきポイントもある。

 ・団員のレベルに難易度が合っているか?
 ・団員のパートの構成と曲のパートがあっているか?
 ・特定のパートばかり優遇された曲の組み立てになっていないか?
・曲の組み合わせはちぐはぐになっていないか?
 ・曲の組み合わせは似たものに偏っていないか?
 ・楽譜の入手の見込みは立っているか?
 ・トータルの演奏時間はどのくらいか?

 簡単な曲ばかりを選ぶように助言する気は全くないが、あまりにも難しすぎる曲を選ぶことはやめた方がいい。何をもって難易度を決めるのかは難しい問題である。インターネット上を探せば難易度の目安となるものもあるが、各団にとっての難易度ではなく一般論でしかない。曲の難しさは4種類に分けられると思っている。大きく二分すると各個人が演奏するのが難しいものと、合奏が難しいものである。各個人が演奏するのが難しいものはさらに2種類に分けられ、技術的に難しいものと、簡単なフレーズなのに正確に弾くのが難しいものに分けられる。合奏の難しさは、縦を合わせるのが難しいものと、音楽のニュアンスの表現が難しいものに分かれる。これらの難しさのうち、技量的なむずかしさは、曲を聴いただけ、あるいは譜面を見れば想像つく場合が多い。しかし、その他の難しさを判断するためにはある程度の経験が必要である。

 団員の構成パートと合っているかどうかを最重要視する団とあまり気にしていない団がある。そもそも、きれいにオーケストラの編成がそろっている団は少ない。管楽器がきれいに2管編成でバイオリンからコントラバスまでの人数もきれいな傾斜がついている、さらにパーカッションも適切な人数という団はめずらしい。少しくらいパートが足りなかったり多かったりしてもそれを気にしていては曲を選べないのが実情である。多少のことならパート構成が違ってもかまわないが大幅に違う曲は選ぶべきではない。例えば、弦が中心で管楽器が数人しかいないような弦楽アンサンブルに近い団が、管楽器メインの曲を選ぶことはできない。トロンボーン、チューバ、パーカッションの人数が豊富な団では、モーツァルトやハイドンなどの曲は選びにくい。トロンボーンが交響曲に初めて登場したのはベートーベンの交響曲第5番『運命』なのでそれよりも古い交響曲にはトロンボーンはない。1回の演奏会で複数の曲を披露するので、場合によっては曲の組み合わせで各奏者の出番をできるだけ均等に調整するという方法もある。出番は、単にその楽器に音符があるかどうかだけでなく、メロディーを受け持つ時間が長いかどうかもある。複数選ぶ曲全てで管楽器がメロディーの曲を選んでしまうと弦楽器から苦情が上がるはずである。逆もしかりである。

トロンボーンが交響曲に初めて登場した箇所(ベートーベン 交響曲第5番 4楽章冒頭)


 曲の組み合わせの良し悪しは、もし選曲の幅にゆとりがあれば気にかける、くらいでかまわないと思っている。プロの演奏会なら、複数の曲を組み合わせて演奏会として一つの曲になるように心がけるが、スクールオーケストラではそこまで気にする必要はない。もしゆとりがあったら、あるいは候補曲を選びきれなかったらそのような視点で考えればいい程度である。曲の組み合わせは、曲のテーマに統一性を持たせたり、作曲者の国籍でしばりをつけたり、音階の調整が不和にならないようにしたり、季節に合わせたり、のように色々な構成が考えられる。もし組み合わせまで気を使った選曲をした場合は、是非プログラムノートで選曲理由を紹介してほしい。そうすればお客さんは興味をもって聞いてくれるはずである。

 曲を決める順番はメインとなる曲を決めてから、その前座となる曲を決めていくことが多い。別の方法としては、メインに限らず一番弾いてみたい曲を決めて、それに合わせて他の曲を選ぶという方法もある。どちらにしても、2曲目、3曲目を選ぶ時は演奏時間を気にしなくてはならない。合計演奏時間が100分を超えるようなプログラムはお勧めしない。練習するのが大変になるし、ホールの使用時間がオーバーする可能性がある。ただし、団員数が100人を超えるオケで、入れ替え制で演奏するような状況なら100分を超えのはしかたがないことである。

 ところで話は大幅に飛ぶが、カラオケの選曲はどうしているだろうか?歌いたい曲を選ぶのは当然として、それ以外にも色々考えているのではないだろうか?歌いなれている曲を入れつつ新しい曲に挑戦したり、アニソン仲間がいる時はそれに合わせたり、他の人の選曲と重複しないようにしたり、色々と気を使っていると思う。一人カラオケで選ぶ曲と、友達と行くカラオケで選ぶ曲は違うはずである。演奏会の選曲もそのような感覚があれば失敗しない。

スクールオーケストラとは違い、プロのオーケストラの場合はお客さんが集まりやすいかを念頭に入れて選曲せざるをえないようである。本来なら、プロの音楽家として、お客さんの要望半分、音楽家としての使命半分で様々な曲を紹介するべきなのだが、現在の日本はそういう状況ではない。社会人のアマチュアオーケストラでも意欲的な団体はマイナーな曲に挑戦しているが、挑戦する度に集客が下がるというジレンマに直面する。この状況が続くと音楽の幅が狭くなり聴衆の耳も育たなくなる。プロの楽団もレパートリーが狭くなってしまう。どうにかしなければならない問題である。

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