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部員全員が知っておくべき楽器の移動

 基本的には楽器の移動は各楽器の担当者が行えばいいのだが、打楽器を打楽器奏者だけで移動してもらうことは無理なことであり、他のパートの人も手伝うべきである。また、皆が移動の手伝いを敬遠する楽器としてコントラバスとチェロがあるが、どちらもケースに入った状態であればどのパートの人も怖がらずに運べるようになってほしい。もう一つスクールオーケストラではグランドピアノの移動についても知っておく必要がある。音楽室で練習することが多いと思うが、ピアノの置き場所を移動しなければオーケストラメンバーが入りきらないことが多いからである。ティンパニー、コントラバス、チェロ、ピアノの移動時の注意点を示す。

ティンパニーの移動について
 移動時はペダルを踏みこんだ状態にする。キャスターのロックをはずしておく。専用カバーがついている場合はかけておく。カバーがない場合は毛布等をかける。
 持っていい箇所は縦向きについている支柱のみである。決してフープ(リム)に手や指をかけてはならない。ペダル部の下にはタイヤが通常ついていないので、その部分が持ち上がるようにして移動させる。ペダル側に立ち支柱を持ち上げても構わないし、ペダルと反対側に立ち支柱を下向きに引いて楽器を傾けてもいい。ペダル側を持ち上げた時は、前の方向に押しながら移動し、反対側を引き下げた場合は、後ろ向きに引っ張りながら移動することが多い。移動速度を速くすると振動が大きくなるのでゆっくりと移動させる。
 慣れれば一人で移動させられるが、小学生や慣れていない人は2人組で移動させた方が良い。段差を超える時は、楽器の両サイドから二人で持ち上げて移動させる。その時も、必ずフープ(リム)ではなく支柱を持つようにする。

コントラバスの移動について
 ケースのすべてのチャックが完全に閉まっているか確認しなければならない。特にエンドピンそばのチャックやマジックテープをだらしなく開けっ放しの奏者が時々いるが、運搬中に楽器がケースから落ちる原因となるので必ず全て閉じられていることを確認してからでなければ移動させてはならない。絞めるべきヒモは確実に絞めてから運ぶ。ネックの部位のヒモを絞め忘れていることが多い。楽器を寝ている状態から持ち上げるのにネック部を持つので、その時ネックのヒモが絞められてないとつかみにくい。気を抜くと、楽器本体を持てずカバーだけを引っ張るような感じになり、最悪の場合つかみそこなって楽器をひっくり返してしまう。また、ケースだけを引っ張るとケースが傷みやすくなる。駒上部のヒモもしっかりと絞めておかないと持ち運ぶとき楽器が揺れて運びにくくなるし、周囲にぶつける確率が高くなる。

 エンドピンがしまわれた状態で確実に固定されているかを確認してから運ぶ。ケースに肩紐がついているので、持ちやすい方の肩にかけて運ぶ。肩ひもをかけた側の腕で楽器のネック部分を抱え込むようにするか、楽器中央付近の取っ手をつかむようにする。また反対の手はあけておいてもいいし、楽器中央付近の取っ手をつかむのもいい。

 階段を移動するときは、必ずエンドピンが階段の下に向くように楽器と体の向きを変える。階段を上るときは楽器が体より後ろの方にくるようにすることでエンドピンが階段の下側となる。逆に階段を降りるときは楽器が体の前方にくるようにする。空いている手で階段の手すりを持つようにすることも安全のためには重要なことである。扉を通過するときは頭上に注意しなければならない。楽器ケースの肩紐を肩にかけると想像以上にネックの位置が高いところまでくるはずである。無警戒に扉を通ろうとするとネック上部をぶつけることになり、カタツムリが「一人立ち」してしまうことにもつながる。

チェロの運搬について
 
チェロの運搬の注意事項はコントラバスとほとんど同様である。ただ、コントラバスと違いチェロには様々なタイプのケースが存在する。ソフトケースもあるし、ハードケースも存在する。ハードケースはメーカーにより肩紐のつけ方が多様である。リュックサックのように掛けられるタイプが最近は人気である。リュックサックのように背負った時も階段の段差に楽器をぶつけないように注意を払う必要がある。また、扉を通る時は頭上にも気を付けなければならない。背の高い人や頭から楽器が上に出るように持っている人は、お辞儀をするような姿勢で通過することになる。

グランドピアノの移動について
 グランドピアノを移動させるときは3人以上で行うことを推奨する。最低でも2人以上で行った方がいい。慣れていれば1人でも動かせるが、ピアノの扱いに慣れていない人は単独で動かすべきではない。

 移動させる際は、全ての蓋(天板と鍵盤蓋)を閉めておかなければならない。移動する際は蓋(天板)や鍵盤蓋に指や手をかけてはならない。それらの部品は小さな金属の部品で本体とつながっているだけであり、蓋類を押してしまうとピアノを動かすのに必要な力の全てがその小さな部品にかかってしまい割れる可能性がある。

 もしグランドピアノ用の専用運搬台があるなら使用すべきである。運搬台がある場合、適切な位置にセットし、ピアノの前後を2人以上ではさみ動かすようにする。運搬台がない場合、ピアノを押し引きするのは側板あるいは足の付け根である。鍵盤側から押して動かす際は下の方を押すようにする。鍵盤の蓋のすぐ下の部分のキースリップと呼ばれる部分は鍵盤を取り外す時にはずすカバーとしての部品であり、木が細くしっかりと固定されていない。そのため、キースリップを押してはならない。もし鍵盤側中央部を押す必要があるのであれば、必ず一番下の土台の部分(棚板)を押すようにする。

ピアノのキースリップの位置(赤色)


 経験のある人がいる場合は別として段差を超えるような移動はしてはいけない。非常に危険である。グランドピアノの重心は想像以上に上の方にあるため慣れていない人が段差を超えるために持ち上げようとして楽器が斜めになると足が滑りピアノがひっくり返ることがある。そうなると人がピアノの下敷きとなる危険があるので注意しなければならない。指一本分程度の段差なら知識や経験がなくても問題ないが、指5本分(手の幅)以上の段差は知識と経験がなければ安全な移動は不可能である。段差を乗り越えて移動させる時は十分に人員を確保するべきである。運ぶ人の他、足元を見張る人も確保すべきである。段差を乗り越えてピアノの足を床に下ろす時、ピアノの足が運搬者の足の上に乗ってしまわないように見張っていなければならない。また、ピアノの足にばかり気を取られていると、ペダルを段差にぶつけてしまうことがある。そうならないためにも、足回りの見張り役の人員を確保し、下から掛け声をかけながら運ぶ必要がある。段差を乗り越える時は、ピアノ全体を持ち上げるのではなく、ピアノの足一本ずつについて順番に段差を移動させる。慣れていれば1人でも持ち上げられるが、安全に配慮するためには少なくても3人以上で一つの足を持ち上げるべきである。それは、万が一、誰か一人が力尽きたり手を滑らせてしまったりしても、残りの人でピアノを浮かせていられるような人数が必要だからである。ピアノの一つの足を持ち上げる3人以外に、持ち上げる足以外のところでピアノが勝手に滑ってしまわないように動きを制御する人も必要である。また足元の見張り役も必要なので、合計すると8人程度は必要である。

 ピアノのキャスターは、移動時以外は「お皿(インシュレーター)」と呼ばれている車輪止めの中に入れて置く。移動を頻繁にするような状況ではその都度「お皿」に入れない方が楽器への負担が少ないこともある。お皿にキャスターを置くためには楽器を少し持ち上げなければならないが、その時は足一本ずつ行い、3人のチームで行う。2人が持ち上げて、残りの一人がお皿を移動させるようにする。お皿の移動を担当する人はピアノの下に入り込んではならない。万が一持ち上げる人が手を滑らせた時など危険な状況となることを想定し楽器の外側から手のみを指し伸ばすようにするべきである。移動が終わってどこかに設置する場合は、3つの足のタイヤの向きを散らしておいた方が地震の時に揺れでピアノが勝手に動いてしまうことを少しだけ防止できる。

 学校、公民館、ホールに置いてあるピアノはグランドピアノが多いが、時にはアップライトピアノを移動させることもある。アップライトピアノを動かすときは上層部を押してはならない。上層部を押すと倒れる可能性が高くなる。中央か低めの位置を押すようにする。ピアノ裏面の中央付近の高さの両端に取っ手がついている製品もあるので、その取っ手も利用するべきである。また、アップライトピアノの重心は背面寄りであるため、鍵盤側から押す時の方が裏面から押すよりも倒れやすい。特に肩の高さから上の方を押すと転倒する可能性が高くなり危険である。

 その他、全部の楽器に共通して注意しなければならないのが、楽器を持つ位置と表裏である。ケースには紐や取っ手がついているものが多いが、それをどのように持てばいいのかわからないことがよくある。学生の様子を見ていると、例えば、ドラなどはケースに入っていても持ち運び方がわかりにくいようである。せっかく肩紐と持ち手がついているのに、活用できないのである。確かに、ネットを探しても楽器の叩き方は画像も動画もあるが、運び方なんて記事になってない。肩紐を肩にかけて持つのを基本とし、同時に取っ手をもって楽器を安定させる。反対の手が空くはずであるので、その手は肩紐がずり落ちないように引っ張っているといい。あるいは、楽器が揺れないように支えるか、階段などを移動する時に手すりにつかまったりする様にするといい。ケースに入った楽器をどこかに置く場合は表裏をしっかり確認しておかなければならない。意外と木管楽器のケースの表裏を見分けるのは難しい。表側に製造会社のマークが刻印されていればわかるが、その事を知らない人も大勢いる。何もマークがない場合、上側と下側の厚さを見分けるようにする。上側(フタ)の方が薄くなっている。シンバルのケース(ソフトケース)にも表裏がある。弦楽器を横向きに置くときは、高弦側を下側にする。短時間、振動のない場所なら低弦側を下にしておいても問題ないが、特別な事情がない限りそのようなことはしない。

 パーカッションの小物については、分解するものは分解し、ネジをしっかりと絞めた状態で運ぶのが鉄則である。スタンドを楽器からはずして、ネジを絞めずに運んでしまっている人をよくみかけるが、ネジが途中で落ちる可能性があるし、運んでいる最中にスタンドの足が開いてしまったりする。運びにくいだけでなく、指を挟んでケガをする恐れのあることであるので安全のためにもしっかりとネジを絞めなければならない。また、小物は何かの箱にまとめて入れて運ぶことをお勧めする。箱に入っていれば持つのが楽であるしトラックの中でも積み上げることができる。バラバラの状態だと、トラックの中では床に並べなければならなくなる。社会人のアマチュアオーケストラの場合、誰かの車でパーカッションセットを運ぶこともあるが、その場合はバラバラの方が座席の隙間に詰め込みやすいのであえてバラバラのままにすることもある。

 パーカッションの人は、エレベータにマリンバや木琴を乗せるためにこれらの楽器の分解についても勉強しておいてほしい。サイズ的に組み立てたままだとエレベータに乗らないことがよくあるからである。下はマリンバの分解の手順である。組み立ては逆順である。組み立ては左右に注意し、黒鍵の位置も間違えないように注意しなければならない。

マリンバの分解手順
①まず音板(鍵盤)をはずし、毛布と共に丸める。
②ケタと呼ばれる鍵盤を支えている4本の部品のうち外側の2本をはずす。
③共鳴パイプをはずす。共鳴パイプは2~3つに折り曲げられるか分かれるものが多い。
④残っている内側の2本のケタをはずす。
⑤左右の側板をつないでいる中心棒をはずす。

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