自宅での練習
幼少期からレッスンを受けていた経験者の人は、これまで通り家で練習すれば問題ない。初めてスクールオーケストラに入部して楽器に触る人が家で練習するためにはいくつかのハードルを越えなければならない。まず、楽器を家に持ち帰るということが大変である。バイオリンのような一見小型の楽器でも鞄と比べると持ちにくく、細長いのであちこちにぶつけてしまいがちである。自動改札機を通るのも一苦労である。大きな楽器の場合なおさら楽器を持ち帰るのは大変である。次に家の防音の心配がある。特にマンションの場合、かなり気を使わなければならない。そして、練習する部屋の広さも考えなくてはならない。弦楽器は弓を動かすので想像以上に広い空間が必要である。
練習する広さであるが、バイオリンの場合左右に2m程度必要である。立って弾くなら前後には譜面台を入れて1m以上必要である。座るとなると前後に1.5mちかく必要である。高さにも注意を要する。蛍光灯の位置に注意しないと弓先を蛍光灯、あるいはぶら下がっているスイッチの紐にぶつけてしまう。チェロやコントラバスでは、左右の必要幅は弓の長さがあまり変わらないのでバイオリンと同程度の幅で大丈夫であるが、前後は最低でも1.5m、できれば2mほしい。トロンボーンも練習するためには前後に2m弱の長さが必要である。
近隣の家の静穏な環境を維持するため、練習時間は朝9時から夜9時までの中に収めた方がいい。できれば、音出しの時間は朝10時から夜7時の内に収めるべきである。隣家に小さい幼児がいる場合、さらに練習可能時間は短くなる。
各自ができる簡易的な防音方法は存在する。カーテンと雨戸を閉めると屋外への音漏れは著しく減少する。壁に毛布を張り付けるというのも有効な手である。また床に絨毯を敷いたり、防音マットを敷いたり、防音パネルを壁につけたりすることで階下や隣室への音漏れを減少させることができる。楽器に消音器をつけるというのも一つの手である。演奏中に使う「弱音器(ミュート)」ではなく、強力に音量を減少させる消音器が存在する。手軽にできる防音対策はこのくらいである。色々な手段があるにはあるが、あまり高い効果を期待してはいけない。これらの防音方法は、どうしても音漏れ対策をせざるを得なくなった時のための応急処置として考えてもらいたい。
楽器により漏れ出る音量は違い、またどの部分を重点的に防音するかが変わってくる。管楽器やバイオリン、ビオラは、窓からの音漏れが多い。チェロ、コントラバス、パーカッションは床から下へ抜ける音漏れが多い。高音の楽器は、壁からの音漏れが低音楽器より大きい。そういった特性も併せて理解すると音漏れ対策が少しはしやすくなる。
お金をかけてかまわない、あるいはプロを目指して家でもたくさん練習したいという要望があるのであれば、もっと強力な防音設備を家に組み込むこともできる。防音室を作るならヤマハ、日本防音、大和ハウスなどの会社に相談してみるといい。しかし、スクールオーケストラの練習のためだけにそこまでのことをする必要はまったくない。どうしても24時間いつでも音を出したいという強い希望がない限り無用である。
家で音を出す練習できない場合、カラオケルームで練習するという手もある。カラオケ店によっては、練習用に使用することを歓迎している店舗もある。逆に楽器の持ち込みを断られる店舗も存在する。都内なら練習用の貸しスタジオも多数存在する。その他、エレクトリック楽器(サイレント楽器、エレキ楽器)を購入して練習するという手もある。エレキ楽器なら、マンションでも気兼ねなく練習できる。
初心者が多いスクールオーケストラでは家で練習することを強制するような団はないはずである。たいてい自主練習できる時間帯があるので、その時間をうまく利用すればいい。家で音が出せないがどうしても練習したいのなら、弦楽器の場合は、左手の練習だけするのがお勧めである。要するに弓で音を出しながら弾くのではなく、弓を持たずに左手で楽器本体だけ持ち、指の動かし方の練習を中心にする。それなら、練習に必要なスペース少なくて済む。家でする練習が左手の練習だけだったとしても、何もしないより上達はかなり速くなる。
思い出深いエピソードがある。楽器の練習を家でするための防音対策について聞かれることはよくあることだが、これまでに一人だけ、コントラバスの初心者から楽器の設計図について質問されたことがあった。よく聞いてみたら、お父様が大工さんで、設計図があれば木材から同じ形のものを削り出せるとのことであった。ネックの部分の断面図と長さを専門書からコピーして渡したら、本当にネックの模型を作ってしまった。その模型のネックで練習していた人は、アマチュア奏者ではあるがプロ級の腕になっている。
家で無理に楽器に触らなくても、上達につながることはたくさんある。例えば、家ではスコアリーディングをする時間にあてるというのもいい心がけである。音を出して弾くことだけが練習ではない。家庭の事情に合わせて柔軟に考えれば家でも色々な取り組みができるはずである。