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写譜と楽譜浄書ソフト
写譜と浄書の本来の意味は、写譜は楽譜を書き写すことで、浄書は原稿(楽譜)を綺麗に書き直すことである。実際に使われる言葉のニュアンスは本来の意味とは違い、写譜は手書きで書き写すことを意味し浄書はパソコンで書き写すという意味で使用されることが多い。本来の意味から考えれば、綺麗に書き写せれば手書きでも浄書となる。
パソコンの発達にともない手書きで楽譜を書き写す機会は少なくなってきている。しかし、手書きで書き写すのは音楽を勉強するためにはいいことである。英語の授業で英文を書き写すのと同じである。アーティキュレーションの使い方などに意識が集中するので手で書き写すだけで単に見ているだけでは気づけなかった色々な事を発見ができる。
勉強の目的以外で楽譜を書き写すのは、ほとんどがスコアからパート譜を作成するためである。スコアは入手できてもパート譜を入手できないことはよくある。パート譜がなくてもその曲を演奏したいのなら自分たちでパート譜を作成するしかない。
スコアからパート譜を作成する方法として、スコアを一段ずつ切り貼りする方法、手書きで写す方法、パソコンで作成する方法の3種類がある。楽譜をパソコンで作成するためには楽譜浄書ソフトと言われているジャンルのソフトが必要である。
楽譜を作成できる楽譜浄書ソフトは無料のものから高価なものまであり、パソコン用もスマートフォン用も存在する。パソコン用の有償のソフトの中では「Finale」が多機能であり、最もシェアが高いのでお勧めであった。しかしながら、Finaleは2024年8月に開発・販売終了の発表があったので、今後は他のソフトを使用しなければならない。Finaleのライバルソフトとして「Sibelius」というソフトがある。Finaleの後継として「Dorico」が推奨されているが、まだ発売されて10年もたたないソフトでありシェアが低いのが難点である。無償のものは「MuseScore」を始め多数ある。「MuseScore」は浄書するだけなら無料であるが、本ソフトには完成された楽譜をダウンロードできる有償の楽譜データベースが存在している。データベースには150万を超える楽譜が登録されているので、それをダウンロードするだけで楽譜が手に入る。ダウンロードした楽譜からアレンジしたりパート譜を作成したりすることもできる。本データベースから楽譜をダウンロードする際に、本ソフト対応のファイル形式ではなくPDFとしてダウンロードする場合は、本ソフトを使わなくても閲覧することもできる。
2023年夏からは新たに「スコアメーカーZERO」に無料版が登場した。スコアメーカーZEROは国産のソフトであり、楽譜のスキャン機能に定評があるソフトである。しかし無償化されたバージョンにはスキャン機能は入ってなく、そのことが残念である。
楽譜を書くためのソフトを選ぶときは、ソフトから印刷した楽譜が見やすいか、アーフタクトの設定ができるか、何パートの楽譜をかけるか、特殊奏法の楽譜をかけるか、小節を段の上下に移動させられるか、などのポイントについて判断し選ぶといい。楽譜を書くためのソフトはたくさんあるが、綺麗とまでは言わなくても見やすい楽譜を書けるソフトは意外と少ない。DAWと呼ばれているコンピュータミュージックを行うためのソフトでも楽譜は書けるが五線が細かったり用紙に空白が多いレイアウトだったりする。DAWは本来音を鳴らすためのソフトなので、楽譜を書く機能についてはおまけみたいな位置づけなので仕方がないことである。五線の幅は7ミリメートルが標準であるが、その幅に調整できないと見づらい。アーフタクトの設定ができなくても演奏することはできるが、音楽的に休みがあるのとアーフタクトとして休みがないのとでは意味が変わってくる。無料のソフトはスコアのようにいくつものパートを並べて書くことができないソフトがある。パート譜を書くだけなら何段もの五線を書くための機能は不要である。小節を段の上下に移動できるかどうかはかなり重要である。この機能がないと、最後の1小節だけ次のページにはみ出してしまい修正できない、ということが起こりうる。ページめくりの位置を調整するためにも必要な機能である。この小節の配置を自由にレイアウトする機能は演奏するために最も必要な機能だと思っている。先に例示したソフトはどれも演奏者に見やすい楽譜を作成できるソフトである。
楽譜を写譜する時は、本来は、著作権を遵守した上で行わなければならない。特にパブリックドメインとなっていないJ-POPなどの現代曲はスコアから無断にパート譜を作成して皆に配るのは違法になることもある。作成した譜面は個人の範囲内で使用されなければいけない。皆に作成した楽譜を配って演奏する時は、JASRAC等に申請し許可を得られれば問題ない。
私は「Finale」を使い始めて四半世紀たっており、非常に使いやすく細かいことまで設定できるので手放すことができないソフトである。手書きのスコアから全パートのパート譜を作成したり、バイオリン用の曲をクラリネット用のB譜にしたりビオラのハ音記号にしたり、幼児用に曲を簡単にアレンジしたり、視力が弱い人のために大きな五線の楽譜を作成したり、譜めくり用に数段だけの譜面を作成したり、気づけば計700程のファイルが自分のPCに保存されていた。このblogに使用している楽譜も全てFinaleで作成したものである。音符の打ち込みは非常に簡単で、ピアノを弾ける人なら、元の楽譜を見ながら演奏するだけで打ち込みは完了となる。ピアノを弾けなくても矢印キーと数字キーだけで音符の入力はできる。マウスで音符を五線上に置いていくよりも速く打ち込める。私はアマチュアなので夜中にしか楽譜作成の作業ができないが、それでも10分程度のオーケストラの楽譜なら1か月程度で全パートのパート譜を作成できる。Finaleは効率よく浄書できるようにされた優秀なソフトであった。
Finaleの開発が終了してしまったことに非常に困惑している。Finaleには他社製品と互換性を持つファイル形式であるmusicXMLで保存できる機能があるのでそれを使って他のソフトに移行することは可能である。一つ一つのファイルについてmusicXML形式で保存しなおすという作業をしなくても、一括で出力できる機能があるので安心である。しかし、musicXMLの互換性は100%ではなく、他社製のソフトで開きなおすと文字化けのようにレイアウトが崩れることがよくある。
今後はDoricoの様子を見張っていくことになると思われる。musicXMLを介したFinaleとの互換性がどこまで保てるかが最大の焦点である。ソフトの使用方法はFinaleとはかなり異なるので乗り換えるなら最初から勉強しなおしである。楽譜浄書では、音符をいかに効率よく入力できるかが重要である。音をキーボードで入力する際、Finaleでは4分音符が数字の5のキーで、音価が短くなるにつれて数字が小さくなっていた。一方でDoricoでは4分音符は数字の6のキーに割り当てられており、Sibeliusでは4のキーに割り当てられている。この違いは乗り換えるユーザーにとって非常に混乱するものである。一方でDoricoのアドバンテージとして注目する点はDAWソフトとの連携である。DoricoはDAWソフトとして有名なCubaseと同じ会社で開発されているソフトであり、当初からCubaseと連携がとられている。Finaleでも入力した楽譜で音を鳴らすことはできたが、DAW専門のソフトと比べれば貧弱であった。入力した楽譜を単に印刷して使用するだけでなくいい音を奏でさせられるようになれば音楽にとっての時代が変わる可能性がある。
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楽譜浄書ソフトの値段は高いが写譜屋に依頼することと比べれば間違いなく安価である。パート譜が売られてなければ演奏できないという考え方から、パート譜がなくても自分達で楽譜を作れば演奏できる、という考え方にシフトできれば音楽の幅が広がると思う。最初は無料のソフトで全く問題なので、楽譜を書くことにも挑戦してほしい。