【謎はいつもそこに】1110年
私は格子模様の藍色っぽい着物を着ている。
その着物はさんざん日に焼けて、何度も洗って、長年着倒したような年季が入っていた。藍色といっても「おそらく元は藍色だったのだろう」という雰囲気だ。
その着物は男物で、私自身も男だった。
夢の中で、私は明らかに現代ではない時代に男性として生きていた。
上半身はそんな色褪せた着物のようなものを着ていて、下半身は膝丈くらいの袴のようなものを履いて、これまた履き慣れた草履で道を歩いているところだった。着心地は割と良かった。
2024年現在の私の身長は中学で止まったまま153cmをマークしているけど
この男は大して変わらず、さらに華奢な体をしていた。
田舎道を歩きながらとても軽やかで、非常にのんびりしている。
実際、彼はどうやら暇らしい。
仕事とか、来週の予定なんていう概念がないのである。
その日はたまたま何か用事を頼まれて目的地へ向かっているけど、歩きながらもあまり何も考えてない。
タロットでいう『愚者』とか、横山大観の名画『無我』みたいな人。
何度も臨死体験でタイムスリップをしているという木内鶴彦さんが著書の中で
色々な時代に行くたびに、ボーッとしている人の体にひゅっと入って自分のサインを書いたりすると仰っていた。その後、自分の肉体に戻って回復してから現地を見に行くと、確かに自分が彫ったサインが確認できていると言う。
私はただ昼寝をしただけなのだが、その男があまりにも何も考えずに歩いていたから中に入ってしまったのかもしれない。
男は私の過去生の姿かもしれないけど、ただ単に通りがかって入ってしまっただけかもしれない、とも思う。
野原や畦道のような道を歩きながら、現在の感覚も持っている私は周りを見渡して「何もない」と思った。ただ自然がそこにあるだけ。
季節はどうやら同じ夏みたいだけど、かなり涼しかった。日差しも古い日本画の世界みたいな淡い太陽が照っていたけど、その男は眩しいと思い目を細めた。
目が覚めそうになったので「これいつの時代?!」と夢に向かって聞いてみると
「天永!」
と言われた。他にも何か質問をして答えてもらったけど、忘れてしまった。
起きてすぐ「天永なんて時代あるんかいな」と調べてみると、あった。
1110〜1113年 鳥羽天皇の時代と出てきた。
実在したことに驚き、その期間がとても短いことに二度驚いた。
さらに調べると天永というのは平安時代だった。
夢の男は明らかに庶民だったので平安時代の庶民の服装を調べてみると
こちらもビンゴ!草履の履き心地もリアルだったし、この上下で色が違う感じが「そうこれこれ!」という感じ。上は褪色した藍色で、下はキナリっぽかった。
平安時代の身長についても調べてみると、成人男性でも150cm台とあったから、やっぱり夢の中での「私とそう変わらないやん」という感覚も合っていた。
夢の中では鳥も飛んでいたけど、鳥の姿が現代と少し違う気がした。
より原種に近いのか、羽の感じが今よりもワイルドな雰囲気だったと思う。
空気感も日本なんだけど日本ではないような、本当に違う時代にお邪魔したような、最高の昼寝だった。
ちなみに起きて一階へ行くと、息子も昼寝から起きたようで
「夢で読んでた漫画の続きが気になりすぎる」
と悔しがっていて、なんか親子だなと思った。